レジー著「夏フェス革命」(blueprint)はP148から大笑いしながら読め!
kenzee「音楽ライターのレジーさんが本を出された」
司会者「「夏フェス革命ー音楽が変わる、社会が変わる」(blueprint)」
kenzee「4年ぐらい前、彼が大阪に来られた際にメシ食ったことがある。その時はちょうどクイックジャパンやMUSICAなどの音楽誌にコラムを寄稿されはじめた頃だ。オイラもその時は多少、偉そうに先輩ヅラしていたものだが」
司会者「エライ水開けられましたナ~、センパ~イ(葉巻をくゆらせながら)」
kenzee「今、この夏フェス革命を読み終わって、静かな興奮を噛みしめている。夏フェス弱者のボクでもこんな面白いんだからたぶん、コレ面白い本なのだろう。この本の骨子はこうだ。著者のレジーさんは高校時代にフジロックでフェス初体験をしたが、まだまだフェス黎明期のこの時代、今ほどフェス環境が整備されていなかった時代の初体験はボロボロになったそうだ。そして2年後、大学生になっていた彼はロックインジャパンのドラゴンアッシュに感動し、それからというもの彼の人生は音楽フェスとともにある。今30代半ばでそういう人は多いのではないだろうか。で、ここ20年ぐらいのフェスを振り返ってみて、いろいろ変化がある、というところからスタートしている。そしてフェスの変化は社会の変化を先取りしているところがある、フェスの変容を知るということは社会、メディア環境の変容を知ることナリ、といった論旨」
司会者「コレ、そこらの新書のレーベルだったら「フェス化する社会」ってタイトル無理やりつけられたりしそうですが、編集者は理解がある人にちがいない」
kenzee「この一件ひとつとっても著者が計画的に物事を進めていく「デキる社会人」タイプの人なのだとわかる。このコンセプチュアルな論考に的確なキャッチフレーズを次々に投下していくのだ。「夏フェス革命」という多少乱暴なタイトリングも素晴らしいし、その中で「協奏」という著者が考案したフレーズも的確なのだ。で、この20年の変化てナニって言うと、主役がバンドの「出演者」ではなくなって、オーディエンスが主役に変わってきた。それはSNSの普及とパラレルな関係にあって、誰が出演するかということより「フェスに行くことが目的化されていった、という話。これはフェスに限らず、SNS以降の「祝祭の感覚」の変化を先取りしていた。たとえば渋谷のハロウィン騒ぎとかワールドカップの時のスクランブル交差点とかいった。また、音楽を供給する側もCDビジネスが短期間で恐ろしい勢いで縮小するなかでフェスビジネスに一気に傾くことになる。畢竟、ミュージシャンの側もこの変化に対応を余儀なくされる。つまりフェス中心のスケジュールを組むようになる。「あのフェスで新曲を発表」「あのフェスのあのステージのあの時間帯にゼヒ出演したい!」といったような競争が起こるようになる。また、フェスが変容するなかで「音楽がもともとそれほど好きじゃない層」が拡大していくなかで起こる軋轢や問題、ダイブ、モッシュ問題、恋愛ネタとしてのフェスなど、日本にフェスが根付いてからの諸問題を過不足なく取り上げてゆく。ブロガーがだした本ってオイラやっぱり気になるんで、一応立ち読みぐらいはするんですよ。したら、「ネットでは面白いのに紙になったとたんツマンナイ人」っていうパターン多いわけです」
司会者「キミがそうなのでは?(葉巻をくゆらせながら)」
kenzee「ところがこの「夏フェス革命」初の単著なのに、もう3冊ぐらい新書だしてる作家みたいな不思議な貫禄がある。偉そうに言うと「よく書けている」のだ。なんだか「スゴイよくまとまったパワポのプレゼン」を聴いたような読後感がある、とか皮肉のひとつも言いたくなるぐらいキチンとしている。揚げ足とり専門のオイラがあまり言うことがないタイプの本なのだ。しかし、やっぱり著者の人生とともに伴走してきたフェスについての文章だ。そこはガチガチのビジネス書とは違う、わりと青春タッチの匂いもあって、アツさがある。と、思ってフンフン読んでたら急に面白い箇所にでくわして大笑いしてしまった場面があった。具体的に言うとP148の「雑誌」から「フェス」へ、という項のところなんだけど「ロックインジャパン」の総売り上げを限られたデータから推計するトコで、それまでの青春語りが急にコンサル口調みたいに具体的な数字をたたき出すトコがムチャクチャ面白いのでそこだけでも立ち読みしてみよう! あの、「逃げ恥」のなかでわりと恋愛っぽいトーンの場面から急に星野源が「恋愛とか夫婦生活のコスト計算」みたいなこと言い始める時の面白い感じによく似ているのだ。だが、数字の出し方が現実的で「アナタ、青春のフェス話が急に普段のコンサル業務になっとるガナ」などとツッコむ楽しさなども含まれている」
司会者「まとめると「音源が売れないんだから興業で稼ぐしかないだろう」の20年間の音楽ビジネスの軌跡、ということかな?」
kenzee「最後のほうででてくる定額制配信サービスの登場ともフェス文化を下支えしたのでは?という話も頷ける。今、初めて観たバンドをすぐアップルミュージックなどでチェックする、といった聴取スタイルもあるのだろう。これは「所有」ということがどんどん無価値になっている、ていうことでもあるんだよね。それより自分で撮った思い出の瞬間をSNSに流す、その画像のほうに今の子たちは価値があると思っているのではないだろうか。ボクは未だにフェス弱者のうえに定額サービスを使っていない人なのだが、この数年の世の中見てると「所有」はどうなっていくのか、と思うのだ。映画やドラマはネットフリックスで観るし、音楽はスポティファイで十分、フェスのような「体験」こそが自分の財産だ、という思想は大げさに言うと資本主義をハッキングしていると言える。そんな時代にどうやってお金を稼いでいくのか、とか。とにかくいろんな議論を誘発しそうな面白い本です」
司会者「生きてるか死んでるかよくわからないキミは今、ナニしてるの?(葉巻をくゆらせながら)」
kenzee「今年は10月までなにも書く気がしなかった。先月から急に日本の流行歌史についての原稿を書き始めている。去年の冬に100枚ぐらい書いて頓挫していたものなのだが、正岡容「定本・日本浪曲史」というのを読んだら、自分が何が言いたかったのか一気に全貌が見えたのだ。なので来年には形にしたいのだ」
司会者「水開けられたからネ~(葉巻を二本、くゆらせながら)
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