NQNニューヨーク=森田理恵】28日の米株式相場は小安く始まった。午前9時35分現在、ダウ工業株30種平均は前日比33ドル80セント安の2万2306ドル91セント、ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は同9.163ポイント安の6444.100で推移している。トランプ米政権と与党共和党が前日に発表した税制改革案の実現性や経済への影響を見極めようという雰囲気が広がった。フィッシャー副議長など28日も米連邦準備理事会(FRB)高官の発言が続くことも様子見ムードにつながっている。

 前日は大幅減税などに期待した買いが相場を押し上げた。28日も朝方から米国家経済会議(NEC)のコーン委員長とライアン米下院議長が相次ぎ米経済番組に出演した。コーン氏は「減税は3%を大幅に上回る経済成長でまかなう」と表明。ライアン氏は「ヘルスケア改革と異なり、税制改革は共和党が一致して進めている」と述べ、法案成立に意欲を示した。ただ、積極的な買いを誘うような新たな材料は乏しく、反応は限られた。

 取引開始前に発表された2017年4~6月期の実質国内総生産(GDP)確定値は前期比年率3.1%増と、改定値(3.0%増)と同水準を見込んだ市場予想を上回った。ただ、過去のデータとあって相場の反応は限定的だった。週間の新規失業保険申請件数は前週から増加したが、ハリケーンの影響が強いとして労働市場の基調を測るうえで参考にはなりにくいとの指摘があった。

 家庭雑貨のピア・ワン・インポーツが急落して始まった。前日夕発表の6~8月期決算は最終赤字幅が拡大。あわせて18年2月期通期の業績見通しを引き下げ、嫌気した売りが膨らんだ。格安航空のサウスウエスト航空は小安い。ハリケーンなど自然災害で欠航が相次ぎ、7~9月期に計1億ドルの減収要因になると明らかにした。朝方発表した四半期決算で売上高が市場予想を下回ったドラッグストアのライト・エイドにも売りが先行している。

 最高経営責任者(CEO)の退任を発表した食品大手のケロッグは小動き。ダウ平均の構成銘柄では航空機のボーイングや小売りのウォルマート・ストアーズ、IBMが下げて始まった。

 一方、カナダのソフト開発会社ブラックベリーは急伸して始まった。朝方発表の17年6~8月期決算で最終損益が黒字に転換した。売上高は減ったが、市場予想は上回った。朝方発表した2017年6~8月期決算で売上高と1株利益がともに市場予想を上回った食品大手のコナグラ・ブランズも高い。医薬品・医療機器のアボット・ラボラトリーズにも買いが優勢。前日夕、米食品医薬品局(FDA)から糖尿病向け管理機器の承認を受けたと明らかにし、好感された。

 ダウ平均の構成銘柄では外食のマクドナルドが上昇。原油高で石油のシェブロンやエクソンモービルが高く、金利上昇を受けて金融のJPモルガン・チェースに買いが続いた。

野村アセットマネジメントが運用する投資信託「ノムラ日本株戦略ファンド」の基準価格が28日、前日比89円(0.9%)高の1万0077円になった。1万円を超えるのは2000年3月以来実に17年ぶり。IT(情報技術)バブルの00年に登場し、当時の個人投資家でブームになった「1兆円ファンド」として知られる。

 長らく低迷期が続いていたが、日本株全体の回復に合わせて基準価格が出発点まで戻った格好だ。ただ運用残高は約800億円と00年のピーク時(1兆1000億円強)の10分の1以下にとどまっている。

 戦略ファンドはITバブル崩壊で損失が膨らみ、09年には3000円台まで基準価格が下がった。13年から戻り歩調となり、直近では組み入れ比率上位にNTTソニーなどが並んでいる。

 金融市場で日本の財政悪化への警戒感が高まっている。日本国債の信用力を映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率がここ数日で急上昇し、約1年2カ月ぶりの高水準をつけた。長期金利もおよそ2カ月ぶりの水準まで上がった。衆院選を前に、安倍晋三首相をはじめ、どの政党が勝っても財政再建の道は険しいという見方が広がる。

 安倍首相は選挙の争点に「消費税収の使い道の変更」を掲げる。2019年10月に予定する10%への消費増税の際、もともと借金返済にあてる予定だった税収の一部を、幼児教育の無償化などに回す方針だ。基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字化する目標も「達成は困難」としている。

 市場が意識するのは、首相の発言や動向だけではない。「希望の党」代表の小池百合子東京都知事は景気が回復するまで「増税は凍結する」と唱える。民進党はこの希望の党に事実上合流する。市場関係者は消費増税の行方を注視しつつ「自民・公明両党もそうだが、他党も輪をかけて財政拡張路線ではないか」と警戒している。

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 具体的な市場の動きとしては、情報会社マークイットによると、日本国債の信用力を映すCDSの保証料率がここ数日で急上昇した。市場がよりリスクを意識すると、CDSの需要が高まり保証料率が上がる仕組みだ。料率は衆院解散観測さえなかった今月初めまでは0.3%程度。足元で0.4%前後と16年7月以来の水準まで上がった。

 長期金利も上がっている。新発10年物国債利回りは28日、国債を売る投資家が増え一時0.075%と約2カ月ぶりの高水準を付けた。この10日で0.03%上昇しており、40年物国債など償還までの期間が長い超長期債で金利上昇が目立つ。

 欧米の金利上昇が主因だが、メリルリンチ日本証券の大崎秀一氏は「日本の財政悪化懸念もあって投資家の買い意欲が鈍っている」と指摘する。

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 国債の格付けにも不安は連鎖する。欧米の格付け会社は変更しない方針だが、格付投資情報センター(R&I)は28日、首相の財政健全化目標の先送り表明を受けて「政策運営の信頼感を損ね、見通しに対する懸念を高める事態だ」との見解を示した。

 R&Iは現在、国債の格付けの先行き見通しを「ネガティブ」(弱含み)とする。仮にここからさらなる格下げとなれば、地方自治体が発行する債券や社債などにも影響が広がる可能性もある。

 政府系金融機関や地方自治体が発行する債券の格付けは、日本国債をもとに決まる。たとえば日本の金融機関などの信用度が下がると、外貨を調達する際の金利が高くなる場合も発生し得る。

 市場関係者はこぞって「少なくとも選挙が終わるまで不透明感はぬぐえない」と語る。選挙戦で与党も野党も「痛みを伴う改革」よりも、景気刺激に重きを置く政策に傾きやすいとみる。金利動向をはじめ市場にも緊張感が当面残りそうだ。

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