はあちゅう氏が告発した電通の性犯罪 その根幹にあるもの
著名ブロガーかつ作家の「はあちゅう」氏が、電通時代に上司から受けていた性暴力について告発を行った。経緯はBuzzFeedによって記事にまとめられ、現在大きな注目を浴びている。
詳細は以下の記事を読んで欲しいが、男性であり性暴力の直接的被害に晒されたことのない自分ですら読み進めるのはキツかった。フラッシュバックなどに、十分注意した上で読んでみてほしい。
はあちゅうが著名クリエイターのセクハラとパワハラを証言 岸氏「謝罪します」
この記事を内容を要約すると、以下のようになる。
・はあちゅう氏は電通勤務時代、上司の岸勇希氏から性的な関係を強要されていた。
・深夜に自宅に呼び出され、コンパニオンのようなことをさせられていた
・女性の友人を岸氏に『紹介』するよう執拗に強要されていた。
・その『紹介』強要は、一度友人を『紹介』した後も続いた。
・はあちゅう氏は電通を退職するとき、ハラスメント関係部署に岸氏の行動を告発していた。
・告発から8年間、岸氏は電通から懲戒処分を受けることなく、業界内で権力を振るい続けた。
この要約だけでも、気分が悪くなる人が出て来るのではないだろうか。
記事本文は岸氏がはあちゅう氏に放った台詞──「体も使えないのか?」──も飛び出す。どうか注意した上で、読むかよまないかの決断を下してほしい。
とにかく、常軌を逸した異常な行為が電通という企業の中で上司─部下という関係の元行われていたことが告発された。告発者のはあちゅう氏の勇気に心からの賛辞を送りたい。
また、本稿では電通内で行われていた蛮行について「性犯罪」という言葉を使い続ける。
それは、今回の事件が「セクハラ」などの言葉で矮小されるべきではないと考えるからだ。「体も使えないのか」と部下を恐喝し、繰り返し深夜ひとり自宅に呼び出す…。この異状な行為を「セクハラ」という言葉で矮小化することに、強い抵抗感があるからだ。
また、はあちゅう氏もBuzzFeedの記事について
実際には記事にあった以上のことがありましたが
いろいろな事情で表沙汰にはできませんでした。
とブログで綴っている。
これは、性犯罪だ。
直接的な性関係があったのか、それは関係ない。
電通という企業の中で、しかも衆人環視の元で、性的な強要が生じていた。
それは明らかな性犯罪事件だ。
本稿では、電通のこの性犯罪事件について、電通の企業体質という側面から考察を加える。
また「公」と「私」を分けない日本の企業文化について、これらの企業内性犯罪について男性側が発信していくことが如何に男性側にとっても重要かつ有益なのかについても語っていきたい。
野蛮極まる電通の企業体質
そもそもはあちゅう氏が電通の性犯罪体質について言及したのは、今回がはじめてではない。
2016年に過労自殺した「高橋まつり」さん事件の折にも、氏は電通の異常な体質について証言している。
https://twitter.com/ha_chu/status/784553685594562565
「性的見返りを断ったら「広告業界で生きていけるな」と言ってきた人」
その人こそ、まさに今渦中にいる岸勇希氏だろう。
高橋まつりさんの過労自殺事件は、結局過重労働の問題で片が付いてしまった。
しまし、メンヘラ.jpでは彼女のtwitterなどから「これは、背後に深刻なセクハラがあったのではないか?」と当時から指摘し続けていた。当時の記事から一部抜粋する。
(参考リンク:【電通過労自殺事件】被害者のツイートから浮かび上がる電通の体質)
性的な嫌がらせ(セクシャルハラスメント)と読み取れるツイートも多々あった。『男性上司から女子力がないと言われる、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である』(まつりさんのツイートから引用)
女子力をネタにした「いじり」。
前後の文脈から高齢の上司からであると読み取れる。
上のツイートも不愉快だが、さらに闇の深さを感じさせるのが以下のツイート
『私の仕事や名前には価値がないのに、若い女の子だから手伝ってもらえた仕事。聞いてもらえた悩み。許してもらえたミス。程度の差はあれど、見返りを要求されるのは避けて通れないんだと知る』(まつりさんのツイートから引用)
「見返り」とは一体なんなのか。
このツイートを読むと、男性上司から「仕事を手伝ってもらう」ことに対して、「性的な見返り」を要求され、しかもそれを断れなかった…と読み取ることができる。
新卒一年目の部下の仕事を手伝うこと、悩みを聞く事、ミスを許容することは、上司・先輩としては当然の業務だ。それに「見返り」しかも文脈からすれば明らかに「女の子だから」要求されるような性的な見返りを要求することは、職業倫理として言語道断であるのは言うに及ばず、もはや刑事事件の範疇だ。
このツイートの9日後、まつりさんは命を絶った。
(中略)
被害者は他にもいる
あまりに異常な勤務状況であるため「これは例外的な事例だったのではないか」
と思いたくなる。しかし、まつりさんのツイートはそれも否定する。
多くの従業員がまつりさんと同じく異常な環境で働かされていたことが、まつりさんのツイートからは読み取れる。
もちろん、電通は社員数7000人、連結従業員数は47000人を超える超大企業だ。
部署によっても大きな差異はあっただろう。
しかし、上のツイートから、「若干名」では済まない大数の従業員がまつりさんと同じような休日出勤・長時間勤務の状態にあったことが伺える。
パワハラやセクハラに関しても同様の被害があった可能性が高い。まつりさんが「(20時間残業の末の)眠そうな顔」を叱責されたのは会議の席だった。このことから、「隠された事実」ではなく、むしろ「公然の秘密」として、異常な労働環境やセクハラ・パワハラが横行していると考えるのが自然だろう。
「電通社内では異常なセクハラが横行しているのではないか?」
当メディアが1年前に発した問いは、今回はあちゅう氏が告発した電通内の性犯罪から、ほぼ答えが出たと言っていいだろう。
上記の通り、はあちゅう氏は岸氏からの性的強要についてハラスメント関係部署を含む複数の電通社員に相談していた。BuzzFeedの記事から改めて引用する。
これらの岸氏の行動は、人事やハラスメントの関係部署でも知られていたようだ。はあちゅうさんは、退社後に岸氏のハラスメントについて相談するメールを複数の電通社員に送っている。
ハラスメント関係部署の担当者からの返信には、これらの女性問題について「聞いている」と記されていた。また、対応が不十分だったことへの謝罪の言葉もあった。
つまり、はあちゅう氏はとっくに声を上げていたのだ。
しかも、人事関連部署とハラスメント担当部署に相談するという、極めて正しく、クレバーな方法で、声をあげていた。
それにも関わらず、8年間、岸氏は電通から懲戒処分を受けることなく、業界で権力を振るい続けたのだ。
これは、今回の事件が岸氏個人の犯行ではなく、企業ぐるみで隠蔽されつつ行われていたことを示している。つまり、電通は、性犯罪をもみ消していたわけだ。
こうした電通時代の記憶について、はあちゅう氏はサブ垢でこう呟いている。
https://twitter.com/bot_hachu/status/905721185941336064
https://twitter.com/bot_hachu/status/905722494954254338
電通時代の異常な体験は、はあちゅう氏の心に大きな傷跡を遺したのだろう。
「公」と「私」を分けない日本の企業文化
これら電通社内で生じた異常かつ野蛮な性的凶行について、一刻も早い全貌の解明が望まれることは言うまでもない。そして、これらの凶行を──つまり、性犯罪を──隠蔽し続けていた電通という企業の体質にもメスが入るべきだろう。
…もちろん、残念ながら、これは電通だけに起こっている問題ではない。
日本の少なからぬ超大企業には、電通と同じく、この手の性犯罪文化が根強く残っている。
これは、何に起因しているのだろう。
あくまで私見だが、「公」と「私」を分けない日本の企業文化にその根っこは存在するのではないか、と僕は考えている。
高橋まつりさん、はあちゅうさん、2回にわたり明らかになった電通の性犯罪は、全て上司─部下という会社の上下関係を私的な関係にまで拡大するという構造の中で起きている。
つまり職場の上司が、定時後も偉そうにしている、というのが問題の根幹だ。
労働者は、奴隷ではない。仕事を離れれば上司に指図される謂れはない。その当たり前の常識が、多くの日本企業では通用していない。そういった構造がある。
冒頭で
>これらの企業内性犯罪について男性側が発信していくことが、如何に「男性側にとっても」重要かつ有益なのかについても語っていきたい
と書いたのは、このような構造は男性もまた苦しめていると確信しているからだ。
業務時間外の仕事のメールや電話、飲みの誘い、週末のイベント参加の強要、時間外のパワハラ…。
苦しみの種類は違えど、男性もまた「公」と「私」を分けない日本の企業文化に苦しめられている。はあちゅう氏が受けた傷は、形は違えど男性労働者の中にも刻まれているはずなのだ。
この悪習と戦うためには、はあちゅう氏の事件を対岸の火事と傍観せず、男性側もこの件について一考を加えるべきだろう──と僕は考える。
ブラック企業は、人と国家と社会に対する犯罪だ。
優秀な人材を使い潰し、社会慣習を乱し、労働者とその家族を傷つけ、経済そのものにも歪みを与える。それらを戦うのに、性別や年齢は関係ない。
ひとりでも多くの方が、この問題について考えてくれることを願っている。
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【執筆者】
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