半日で終わるイベントに、毎年50億円の国家予算が使われている。小学6年・中学3年の全生徒が受ける「全国学力調査」である。教育現場からは種々の弊害への悲鳴が聞こえる。
子どもや教師に有意義な調査となっているのか。今後も巨額を投じていく意味があるのか。開始から10年目を迎えた今、立ち止まって考えたい。
2017年4月18日、ある親子の会話
子「学校でテストがあったよ」
親「よくできた?」
子「難しかったよ。学校で習ってる内容と違うし」
親「そのうち先生が教えてくれるよ」
子「でも、採点結果が返って来るのは5ヵ月先だって。」
親「えっ、夏休みの後まで返ってこないの?」……
という会話はフィクションだが、そんなテストが実際にある。文部科学省が国公私立の中3・小6の全生徒200万人を対象に実施する「全国学力調査」である。
毎年4月20日頃、全国一斉に実施される。新学年が始まり、名前を覚えて、クラスのまとまりを作り、一人ひとりの基礎学力を確認しながら新しい単元を教えていく時期。慌ただしいなかで半日の授業を削ってまで調査を行うことに、現場の負担感は大きい。
明日からの授業づくりに役立つならば意味はある。しかし実際は、今の授業範囲と異なる出題である(学校で使う教科書にも準拠していない)。
全生徒200万人分の集計と分析に時間を要するので、採点結果は忘れた頃に返ってくる。これを日々の授業内容に組み込んで活かすのは難しい。
全国学力調査は2007年4月に開始した。国家予算は毎年50億円規模(文部科学省と国立教育政策研究所の関連予算合計)。10年で500億円になる。
そのうち毎年約40億円は受注業者への委託料である。2017年度は下記の業者が受注した。
【小学6年】
ベネッセコーポレーション
21億5千万円
【中学3年】
株式会社電通
19億8千万円
1日で使い切る金額ではない。全体計画の立案、出題用紙の作成・配送・回収、採点者の確保と研修、採点実施と集計、さらに情報漏洩の防止費用まで含んでいる。
情報漏洩といえば、ベネッセコーポレーションから名簿業者へ約3,500万件の個人情報が流出した事件が記憶に新しい。2014年7月に発覚した後も、同社は小学校の調査を受注し続けている。
この調査では生徒に生活習慣を、保護者に家族構成や年収を尋ねるアンケートも実施される。こうした膨大な個人情報を、特定の民間企業が公教育の場で収集できる仕組みに不安を感じる。漏洩しなくても、情報が一手に握られていること自体に問題がある。
文科省が巨額を投じた調査の分析結果は、どのようなものか。