北朝鮮の核攻撃を受けたら東京だけで最大800万人を超える死傷者シミュレーションも!米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」の試算をIWJが全文仮訳! 2017.12.15

記事公開日:2017.12.15 テキスト

(文・訳:尾内達也・城石エマ 文責:岩上安身)

※公共性と緊急性に鑑み、全文仮訳してフルオープンで公開!

 北朝鮮が東京とソウルに核兵器(現在の北朝鮮の核兵器の能力を、爆発力25kt、爆発確率80%と推定する)を使用すれば、死者は210万人、負傷者は770万人にのぼる――。さらに、「38ノース」のシミュレーションでは、最大爆発能力250ktのときの被害もシミュレーションしており、そのときの死傷者数は、東京だけで800万人を超える!

 米朝間の緊張が高まる中、米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」が、2017年10月5日、北朝鮮の核兵器が実際に使用された場合の被害想定を算出、発表した。東京とソウルで死者210万人、負傷者770万人にものぼるというこのニュースは、日本でも韓国でも報じられた。

 日本政府はこの間、米朝間の緊張の高まりを前に、あくまでも対米追従を続ける姿勢を貫いている。11月29日の参院予算委員会で、自民党の山本一太議員が、「日本国民を守るために必要だと感じた時、総理がトランプ大統領に『今は攻撃を思いとどまってくれ』と助言する覚悟があるのか?」と問いただした際も、安倍総理は「『全ての選択肢がテーブルの上にある』というトランプ大統領の方針を、私は一貫して支持」と、戦争に巻き込まれるのを是とするかのような、驚きの答弁を繰り広げた。

▲2017年衆院選で、北朝鮮の脅威を煽る演説を繰り返した安倍晋三総理(2017年10月7日IWJ撮影)

 実際、防衛省は着々と戦争準備を進めている。12月12日、小野寺五典防衛相は、地上設置型の弾道ミサイル防衛システムの「イージス・アショア」を、1基1000億円で2基購入することを発表した。

 しかもこのシステムは、実際には米国(ハワイやグアム)へ飛んでいくICBMを落とすためのもので、日本国土の防衛用ではない。米国のために、米国に対して、日本国民の税金を2000億円もつぎ込みながら、私たちの生活は守られない。それどころか、北朝鮮のミサイルを撃ち落せば、日本が報復攻撃を受ける可能性も高まる。

 報復攻撃を受けたら、一体どれだけの被害を受けるのか――? 実は防衛省は、被害想定のシミュレーションをしているものの、それを国民に公表していない。同12日、IWJは小野寺防衛相の記者会見で、 防衛省が被害想定を公表しない理由を問いただしたが、小野寺防衛相は「仮定のケースには答えない」として、回答を忌避するばかりであった。

 防衛省が被害想定を公表できないのは、核攻撃を受ければ、壊滅的な被害になることが国民にバレてしまうからではないのか。

 IWJは、手がかりとなるこの「38ノース」のシミュレーションを、写真・表を含めて独自に全文仮訳した。

 このシミュレーションでは、ソウルと東京への集中的な核攻撃を前提にしており、同時多発的に、複数都市に核攻撃が行われることは前提されていないことや、北朝鮮の核弾頭の保有数が25発とされていることなど、気になる点もあるが、核弾頭の爆発力を7通り、そのそれぞれに爆発確率を3通りと、計21通りのシナリオを設定して、詳細に死者と負傷者を算出している点で、注目すべきである。

 現実的には、迎撃リスクや爆発確率のリスクから、複数の核弾頭による複数都市への同時多発核攻撃が想定される。さらに、北朝鮮の核弾頭の保有数については、2017年7月に発表された米国防情報局の報告書では60発と推定されている。実際の核攻撃による被害は、このシミュレーションよりもさらに大きなものになる可能性もある。

 岩上安身は、すでにこの「38ノース」のシミュレーションを用いて、複数の有識者の方々へインタビューをしている。あわせてご覧いただきたい。

 また、フリージャーナリストの横田一氏は、IWJへの寄稿の中で、「すでに永田町や霞が関では、米国の軍事オプションを前提とした気運が広がりつつある」と明かしている。「朝鮮半島有事」は、もはや「あり得ない話」ではなくなってきているのだ。

IWJが全文仮訳! ジョンズ・ホプキンズ大学米韓研究所 「38ノース」プロジェクトの北朝鮮による東京・ソウルへの核攻撃被害想定シミュレーション

※文中の強調部分はIWJによる。原文はこちらから(38 NORTH)

ソウルと東京に対する想定核攻撃:朝鮮半島の戦争の人的被害

マイケル・J・ザグレック・ジュニア
2017年10月4日

 この数週間のうち何度も、トランプ大統領と政権メンバーは、北朝鮮がさらなる核ミサイル実験ができないように軍事的圧力をかけてきた。いかなる軍事的オプションであれ、米国がこれを実行に移すと、韓国と日本への核攻撃など、北朝鮮による軍事行動が激化するリスクが非常に高まる。以下に示す予測によれば、「不測の事態」が起きて、ソウルと東京の上空で核爆発が起きると、現在推定できる北朝鮮の核威力を考慮すると、死者210万人、負傷者770万人にのぼる。

背景

 2011年以降、北朝鮮は98回の弾道ミサイル実験を行ってきた(※IWJ註)。この実験で、ミサイル性能が向上し、ペイロード(有効搭載量)も増加し、飛行距離も拡大し、おそらくは信頼性も向上した。同時期に、北朝鮮は4回の地下核実験を実施した。最新の実験は2017年9月3日である。2017年7月4日および7月28日に、北朝鮮ははじめて、米国のほぼ全域をカバーする能力のある大陸間弾道弾の実験を実施した。専門家の分析によれば、北朝鮮は弾道ミサイルに核弾頭を搭載する能力を持ち、基本的な核在庫としておよそ、20から25の核弾頭を保有し(※IWJ註)、爆発力は15から25キロトン(※IWJ註)である。9月3日の核実験は、推定爆発力が108から250キロトンの核融合装置だった可能性がある。これは、北朝鮮の核保有が最終的により大きな爆発力をもった熱核兵器(※IWJ註)にまで達したことを示している。

※2011年以降、北朝鮮は98回の弾道ミサイル実験を行ってきた:2017年10月4日時点。北朝鮮はその後、11月29日にも、ICBMと見られるミサイル発射実験を行った。

※核在庫としておよそ、20から25の核弾頭を保有:米国防情報局(DIA)は、2017年7月現在、北朝鮮の保有する核弾頭を60発と見積もっている。

※TNT火薬15000トンから25000トンに匹敵する爆発力

※熱核兵器:重水素の熱核反応を利用した核兵器、水爆のこと

 北朝鮮体制の目的は、米国に対する有効な核抑止力を持つことによって、金一族の支配を継続することであるように見える。だが、北朝鮮のミサイル開発の継続と核能力は「挑発的であり不安定要因」になると認識されている。そして、米国の同盟国――韓国と日本――とアジア地域の米国資産、米国本土への重大な安全上の脅威になっている。国連や米国、韓国、日本、EUによる北朝鮮への多重制裁も、国際社会の非難の高まりも、北朝鮮のWMD(大量破壊兵器)の開発を止めることはできなかった。伝統的に北朝鮮のもっとも強力な支持者で、第一の貿易相手国である中国さえ、北朝鮮の核兵器開発やミサイル開発計画が継続している事態を批判し北朝鮮との貿易額を縮小している。そして、もし朝鮮半島で衝突が起きたなら、それは北朝鮮の自己責任であるとはっきり述べている。

 さらに、米国と同盟国は北朝鮮のミサイル配備と実験継続によって防衛力を増強してきた。終末高高度防衛システム(THAAD)が韓国に配備された。日本はイージス・アショア対弾道ミサイルシステム(訳注:イージス・アショアは、陸上で使用するイージス・シスムテム)を選択した。米国はICBMに対抗するために、地上配備型ミッドコース防衛(GMD)対弾道ミサイルシステム(ABM)も実験し、2017年末までにGMDの配備数を44まで増加する予定である。

 現状が受け入れがたく外交も効果を発揮しないのなら、どの時点で軍事的対応が行われるのだろうか。北朝鮮とその隣国、米国の間は、国連総会の期間中、米国と北朝鮮の間での言葉の応酬とトランプのツイートが続いて、現在、その緊張は非常に高まっている。歴史は大きく計算違いをした「合理的なアクター」であふれている、とくに危機の解決のときには。もう一度北朝鮮の核実験があったら――特に、空中あるいは水中で爆発した場合――、あるいは、たとえば、グアムの米軍基地に非常に近い海域にまでペイロードを持つICBMやミサイルの実験を行うと、ワシントンの反撃を招くおそれがある。この中のオプションには、実験ミサイルを撃ち落とす試みや、北朝鮮のミサイル実験、核関連施設、ミサイル配備エリア、あるいは金正恩体制そのものを攻撃するオプションも含まれるだろう。北朝鮮の指導部は、金一族を権力から排除する試みと見なすかもしれず、その結果、全滅前の最後の一撃として核兵器を使用した反撃に出るかもしれない。したがって、「不測の事態」が起きたときの結果は検討してみる価値がある。

想定攻撃

 北朝鮮が使用可能な核兵器を25個、保有していると仮定する。攻撃を受けた場合、保有核兵器のすべてをソウルと東京に向けて発射すると仮定する。核弾頭の爆発力は15―250キロトンとする(この数値は現行の能力と将来可能な能力である)。さらに空中爆発のタイミングは最適高度とする。この仮説にもとづいて、7つの異なる爆発力をもった核弾頭ごとに7つの仮説を組み立てた。

 人口密集地での核爆発の潜在的な効果を算定するには、多数の変数が存在する。こうした変数を数多く組み合わせることで無数のシナリオができ、幅広い結果が導かれる。単純化するために、シミュレーションの算定は、既存の爆発圧による人口脆弱性の数値をベースにした。7つの核兵器の爆発エリアの大きさは、核爆弾効果コンピューターを使用して算定した。

◆ソウルと東京の最新の人口・エリア・人口密度
都市名 人口 エリア(キロ平米) 人口密度(キロ平米あたり)
ソウル/インチェオン 24,105,000 2,745 8,800
東京/横浜 37,900,000 8,547 4,400

 人口密度はソウル、東京ともに非常に高い。たとえば、ソウル特別市の人口密度は、17,002/km²であり、東京23区は14,950/km²である。さらに、この二つのエリアの人口密度の水準は平日にはさらに増える。

因果評価

 上記の仮説に基いて、ソウルと東京の中心地上空で、250キロトンの核弾頭一発が確実に空中爆発したときに、予測される被害は次のとおりである。

250kt 死亡者数 負傷者数 死亡者+負傷者
ソウル 783,197 2,778,009 3,561,206
東京 697,665 2,474,627 3,172,292
合計 1,480,862 5,252,636 6,733,498

 

 以下の地図は、250キロトンが爆発したときの多様な爆発圧のエリアを示している。

 ソウルは250キロトンの核弾頭の空中爆発で4つの爆発圧エリアが生じる。12+ psi、5-12psi、2-5psi、1-2psiである(※IWJ註)。

※psi:pound per square inchのこと。一平方インチあたりの圧力を表す単位。0.00689を掛けて、より一般的な単位、MPasへ単位変換できる。

訳注2 爆発圧による人口脆弱性の既存数値は次のとおりである。

PSI 死者割合 負傷者割合 安全割合
12+psi 98% 2% 0%
2-5psi 5% 45% 50%
1-2psi 0% 25% 75%

 

▲図1 ソウル上空で250ktの核弾頭が爆発したときの爆発圧エリア

 東京は250キロトンの核弾頭の空中爆発で4つの爆発圧エリアができる。12+ psi、5-12psi、2-5psi、1-2psiである。

▲図2 東京上空で250ktの核弾頭が爆発したときの爆発圧エリア

 当然のことながら、100%確実なミサイルシステムというのは存在しない。保有ミサイルの中でもっとも実験回数の多い、米国のICBM、ミヌットマンⅢは、ほとんど100%近い信頼性が実験結果から出ている。だが、あらゆる兵器システムに言えることだが、そのオペレーション上の信頼性は100%とはいかない。さらに、韓国はTHAADシステムを配備し、北朝鮮のミサイル攻撃に備え、日本はイージス・アショアABMシステムを導入中である。したがって、北朝鮮の核ミサイル25発の核弾頭すべてがそのターゲット上で爆発するとは限らない。死傷者数の算定では3つの爆発確率の水準を設定した。20%、50%、80%である。

 以下のグラフは、この計算結果を示している。グラフに使用したデータ表は注に記載してある(注)。この死傷者数は、上記の仮説を前提にしている。

▲図3 爆発力および爆発確率ごとのソウルの死傷者数

▲図4 爆発力および爆発確率ごとの東京の死傷者数

▲図5 爆発力および爆発確率ごとのソウル東京の死傷者数合算

(注)グラフに使用したデータ表は次のとおりである。ここでは、北朝鮮保有の核弾頭25発がすべて東京あるいはソウルに撃ち込まれたときの被害をシミュレーションしている。

訳注)北朝鮮は、現在、爆発能力15から25キロトン(TNT火薬換算)の核弾頭を搭載した弾道ミサイルを20から25発実戦配備しているとされ(先にも述べたように、2017年7月に発表された米国防情報局の報告書では60発と推定している)、この数値を現在の推定値として報告書の中では使用している。表の中では、最大の現実推定値として赤字で示した。

 しかし、「38ノース」は、2017年9月3日に行われた北朝鮮の水爆実験の爆発規模を、米地質調査所(USGS)および、核実験の監視などを行う包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、ノルウェー地震観測所(NORSAR)が発表した、爆発に伴う揺れの規模(マグニチュード)を根拠にして、250キロトンだった(広島原爆の16倍強)と推定しており、このシミュレーションの最大爆発能力の250キロトンは、決して、遠い将来の非現実的な数値とは言えない(ちなみに、日本政府の推定値は160キロトンである)。

 1950年から1953年の朝鮮戦争のときには、韓国の死傷者数は、おそらく、死者373,599人で負傷者は229,625人、拉致行方不明者が387,744人だった。日本の第二次世界大戦での民間死亡者数は500,000~800,000人だった。今日のソウルと東京の人口密度は1940年代や1950年代と比べてはるかに高い。現在の北朝鮮の爆発力評価を前提に、ソウルと東京で複数の核兵器爆発が起きると想定すると、死者の数は40万人から200万人にのぼる。兵器の数は同じでもそれが水爆だったら、死者の数は130万人から380万にのぼるだろう(※IWJ註)。

※IWJ註:死傷者数の最大の見積もりでは、両都市とも100万人近くが死傷する。このレポートのシミュレーションは、北朝鮮の核弾頭保有数が25発であり、それが同時多発的に複数の都市を攻撃するのではなく、あくまで、ソウルと東京を標的にしている。ただし、シミュレーションでは、25発すべてを使用する、という前提である。

 

欧州の独立系シンクタンク「欧州外交評議会」が作成した標的リストを基に、IWJが独自にシミュレーションした結果、250ktの爆発力を持つ核攻撃を東京・横浜・名古屋・大阪・京都が受けると想定すると、死傷者は約1000万人!

 上記の「38ノース」のプロジェクトの試算とは別に、同時多発核攻撃を前提にIWJで試算してみた。ロンドンに本拠を置く欧州の独立系シンクタンク、欧州外交評議会が、北朝鮮の資料を基に作成した核攻撃標的リストで、標的になっている5都市(東京、大阪、横浜、名古屋、京都)が同時多発攻撃を受けたと仮定して、その被害者数を算定すると、次のようになる。この場合、各都市に一発の攻撃となる。

 このシミュレーションは、本報告書で紹介されている核攻撃シミュレーション・プログラムで算出したものである。

◆日本五大都市への同時核攻撃の場合の被害想定(爆発力:250kt)
都市 死者数 負傷者数 死傷者合計
東京 758,060 2,551,390 3,309,450
横浜 383,120 1,066,230 1,449,350
名古屋 425,600 1,028,450 1,454,050
大阪 600,220 1,838,650 2,438,870
京都 442,930 611,580 1,054510
合計 2,609,930 7,096,300 9,706,230

 

 日本の五大都市が250ktの爆発力を持った核兵器の同時多発攻撃を受けると、その死者の総数は260万人強、負傷者は700万人を超える。死傷者の合計では、1,000万人近くなる。しかも、各都市に核弾頭は一発である。北朝鮮には、このとき、まだ20発の余力がある(すでに述べた通り、北朝鮮の保有する核弾頭数が25発である保証はない。2017年7月に発表された米国防情報局の報告書では60発と算定している。したがって、死傷者1000万人という被害想定は、最大限の見積もりではない)。

※プログラムの性質上、算定には誤差が出ると思われ、計算するたびに、数値は若干変化する。

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