記者が見た!「ゆるい」英語公用化の現場

社員の英語力は全国平均以下でも「成功」のワケ

2017年12月18日(月)

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 業務用バーコードプリンターの国内最大手サトーホールディングス(HD)は、2020年に英語を社内公用語にする。松山一雄社長がそう宣言したのは2013年。今では経営会議は一部英語で行い、社員の英語能力テストの平均点は16%上昇した。

 同社の英語公用化の特徴は、「ゆるさ」。英語力を昇進や評価の目安にも基準にもしていない。英語公用化が業績に本当に寄与するのかもわからない。それでも、松山社長が「じわじわ浸透してきた」と喜ぶ、そのワケは?

経営会議は英語が必須

 「Good morning. I start to participate in executive meeting from this time, and I am happy and excited to challenge new big mission. ありがとうございました」

 10月末の定例経営会議。この日から同会議に出席することになったサトーホールディングス(HD)の吉富秀樹氏は緊張気味に英語であいさつした後、日本語に切り替え、改めて自己紹介した。続いて会議冒頭の訓示をする松山社長がマイクをとる。

 「Today I have decided to speak about only one thing. Getting back to basic, I want talk about ……」

 訓示はさらっと英語で始まる。出席者の中には、用意された同時通訳イヤホンをしている人もいるが、そのまま聞いている人もいる。松山社長は英語で約5分話し、「それでは日本語にします」と切り替えて会議が進んだ。

 サトーHDは、業務用バーコードプリンターの国内最大手だ。海外にも進出しており、海外売上高比率は4割弱ある。同社は2013年、海外展開を加速するために2020年までに英語を社内の公用語にすると宣言。定例の経営会議では、自分のプレゼン前に英語でのスピーチを義務付けている。現場を含む全日本人社員に英語習得を要請するなか、経営陣が率先して身に着けるという意思表示でもある。

英語プレゼンが必須の経営会議(撮影:栗原克己)

 だが、サトーHDの英語公用化のプロセスは、「ゆるさ」が特徴だ。楽天やファーストリテイリング、資生堂のようにTOEICのスコアを昇進の目安や条件にするといったことはしてない。本誌の特集でも紹介したが、サトーHDが社員に課す目標は日本英語検定協会などが開発したテストの「CASEC」で571点以上。TOEICだと500点程度で、TOEIC受験者の全国平均よりも低い。ロバート・クー英語推進グループ長は「現実的な目標を掲げて、やる気をそがないようにしている」と話す。

 目標は2000人の全社員が2020年までにCASEC571点以上を取得すること。そのために13年8月、社員の英語学習を支援する専門部署「英語推進グループ」を立ち上げた。メンバーはクー・グループ長以下、インターンシップの学生を入れて4人だ。

地道な活動、英語学習の手法は現場に委ねる

 この英語推進グループが中心となって、全社員に英語学習を促しているのだが、学習の手法は現場に多くを委ねている。実際、英語学習計画は拠点ごとに異なる。集まる社員の属性も勤務体系も拠点によって違うからだ。

 国内の工場や営業所など55拠点では、少なくとも1人の「英語推進リーダー」を選任。彼らが勤務の状況に合わせて「オンラインツールでの学習コンペ」「朝礼での英語スピーチ」などの計画を立てる。それを本社の英語推進グループに報告し、予算が下りるという形だ。

 今年4月には、初めてリーダー同士が集まる「英語推進リーダーサミット」を東京の本社で開いた。松山社長も参加し、リーダーとしての悩みなどを打ち明けあった。英語推進グループの伊藤麗係長は「リーダーは結構大変で孤独な戦い」と話す。

 英語推進グループは毎日、ワインポイントイングリッシュと題して例文を社員にメールで配信。毎月手作りの教材も配信している。

「英語公用化の虚実」の目次

「記者が見た!「ゆるい」英語公用化の現場」の著者

庄司 容子

庄司 容子(しょうじ・ようこ)

日経ビジネス記者

日本経済新聞社に入社し、社会部、横浜支局を経て企業報道部へ。化学、医療、精密業界、環境などを担当。2017年4月から日経ビジネス記者。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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