業務用バーコードプリンターの国内最大手サトーホールディングス(HD)は、2020年に英語を社内公用語にする。松山一雄社長がそう宣言したのは2013年。今では経営会議は一部英語で行い、社員の英語能力テストの平均点は16%上昇した。
同社の英語公用化の特徴は、「ゆるさ」。英語力を昇進や評価の目安にも基準にもしていない。英語公用化が業績に本当に寄与するのかもわからない。それでも、松山社長が「じわじわ浸透してきた」と喜ぶ、そのワケは?
経営会議は英語が必須
「Good morning. I start to participate in executive meeting from this time, and I am happy and excited to challenge new big mission. ありがとうございました」
10月末の定例経営会議。この日から同会議に出席することになったサトーホールディングス(HD)の吉富秀樹氏は緊張気味に英語であいさつした後、日本語に切り替え、改めて自己紹介した。続いて会議冒頭の訓示をする松山社長がマイクをとる。
「Today I have decided to speak about only one thing. Getting back to basic, I want talk about ……」
訓示はさらっと英語で始まる。出席者の中には、用意された同時通訳イヤホンをしている人もいるが、そのまま聞いている人もいる。松山社長は英語で約5分話し、「それでは日本語にします」と切り替えて会議が進んだ。
サトーHDは、業務用バーコードプリンターの国内最大手だ。海外にも進出しており、海外売上高比率は4割弱ある。同社は2013年、海外展開を加速するために2020年までに英語を社内の公用語にすると宣言。定例の経営会議では、自分のプレゼン前に英語でのスピーチを義務付けている。現場を含む全日本人社員に英語習得を要請するなか、経営陣が率先して身に着けるという意思表示でもある。
だが、サトーHDの英語公用化のプロセスは、「ゆるさ」が特徴だ。楽天やファーストリテイリング、資生堂のようにTOEICのスコアを昇進の目安や条件にするといったことはしてない。本誌の特集でも紹介したが、サトーHDが社員に課す目標は日本英語検定協会などが開発したテストの「CASEC」で571点以上。TOEICだと500点程度で、TOEIC受験者の全国平均よりも低い。ロバート・クー英語推進グループ長は「現実的な目標を掲げて、やる気をそがないようにしている」と話す。
目標は2000人の全社員が2020年までにCASEC571点以上を取得すること。そのために13年8月、社員の英語学習を支援する専門部署「英語推進グループ」を立ち上げた。メンバーはクー・グループ長以下、インターンシップの学生を入れて4人だ。
地道な活動、英語学習の手法は現場に委ねる
この英語推進グループが中心となって、全社員に英語学習を促しているのだが、学習の手法は現場に多くを委ねている。実際、英語学習計画は拠点ごとに異なる。集まる社員の属性も勤務体系も拠点によって違うからだ。
国内の工場や営業所など55拠点では、少なくとも1人の「英語推進リーダー」を選任。彼らが勤務の状況に合わせて「オンラインツールでの学習コンペ」「朝礼での英語スピーチ」などの計画を立てる。それを本社の英語推進グループに報告し、予算が下りるという形だ。
今年4月には、初めてリーダー同士が集まる「英語推進リーダーサミット」を東京の本社で開いた。松山社長も参加し、リーダーとしての悩みなどを打ち明けあった。英語推進グループの伊藤麗係長は「リーダーは結構大変で孤独な戦い」と話す。
英語推進グループは毎日、ワインポイントイングリッシュと題して例文を社員にメールで配信。毎月手作りの教材も配信している。
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