M.M いえのかぎ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 77 2~3 2017/8/15
作品ページ サークルページ



<笑いあり涙ありドキドキあり、等身大の小中学生が真剣に挑むサスペンスをお楽しみ下さい。>

 この「いえのかぎ」は同人サークルである「活動漫画屋」で制作されたビジュアルノベルです。活動漫画屋さんはこれまで「犬神使いと少年」「片輪車と雪女」「百鬼社中」「柊鰯」「あまいしる」「よつどもえ」と数多くのタイトルを発表されており、そのどれもが別ジャンルであり設定も違っております。活動漫画屋さんの特徴は小説を読んでいるかのような縦書きの表示と、出典を大切にしている丁寧なテキストです。ソースがハッキリとしている事実を突きつける事でプレイヤーを納得させようとしており、シナリオ展開一つ一つに説得力を与えております。是非余裕があったら、そうした出典元を辿り自分の知識や教養を深めていってみては如何でしょうか。作品を味わう以上に得るものがあると思います。

 今回レビューを書いている「いえのかぎ」も過去にない設定であり、これまでの作品にはない雰囲気を感じます。最大の特徴はやはり女の子のビジュアルですね。メインヒロインは全部で4人いるのですが、そのうち3人は小学生で1人は中学生です。ビジュアルを担当したMUK氏(
公式HPはこちらからどうぞ)のイラストは素朴さを感じさせながらも丁寧な塗りが特徴で、いわゆる萌え絵とは違った温かさを感じます。そしてそれは表情のみならず服装や下半身まで徹底されており、全身で小学生中学生らしさを演出しております。また主人公は25歳の男性教諭ですが、重度のロリコンです。そしてそんな自分に引け目を感じており、そのような自分の性癖と後ろめたさを感じさせる立ち絵となっております。逆に校長先生は自信たっぷりであり、凛々しさが際立ちます。女性キャラも男性キャラも、もっと言えば背景も含めて人物や場面を把握したものとなっており、まさにビジュアルノベルに欠かせない要素を充分活かしたものとなっております。

 そしてシナリオですが、この作品はサスペンスです。主人公である黒柳博士(くろやなぎひろし)は新任の小学校教諭です。日々の授業や終わったあとの準備などで全然休む暇もなく、毎日の生活の中で心を摩耗させながら生活しておりました。そんな黒柳ですが、重度のロリコンです。それは学校のトイレに盗撮カメラを仕掛ける程に発展してしまい、充分犯罪者になってしまう程のものでした。ですが、そんなロリコン生活にもピリオドが打たれます。自分が担任をしているクラスの女子である佐久間梨香(さくまりか)に盗撮カメラを見つけられてしまうのです。これで教員生活どころか人生の終わり、そう覚悟した黒柳に梨香が話したのは、とある陰謀を暴く為の強力だったのです。

 ほんわかしたシナリオを想像したのですが、それは見た目だけで実態はコテコテのサスペンスです。学校のトイレに盗撮カメラを仕掛ける程の変態を味方に引き入れてまで梨香がやりたい事、それは学校に隠された数千万円の大金を手に入れる事でした。何故学校に数千万円の大金が隠されているのでしょうか?その大金はどんな色が付いたお金なのでしょうか?そのお金を手に入れて梨香は何をしたいのでしょうか?梨香の計画は同じクラスメイトの獅童晶(しどうあきら)や風見紀子(かざみのりこ)、登校中に出会った中学生である橘美沙(たちばなみさ)を巻き込んで発展していきます。一つ間違えば警察沙汰になる緊張感、それを可愛い女の子が真剣に取り組む様子がギャップとなり、独特の雰囲気を作り出しているのです。難しい内容はありません。是非主人公やヒロイン達の気持ちになってその緊張感を味わってみて下さい。

 上でも書きましたが、この作品は表向きはコテコテのサスペンスです。ですがそれが等身大の小学生中学生を中心に展開されることでどこか和やかと言いますかホンワカとした様相にも感じてしまいます。もちろん彼女らは真剣です。むしろ真剣だからこそ応援したくなる、そのような印象ですね。そしてその真剣さは綿密な作戦となり、大人顔負けの展開となります。冒頭で活動漫画屋さんの特徴として出典を大切にしている丁寧なテキストと書きましたが、まさに彼女たちは作戦を成功させる為にあらゆる情報を調べで根拠をハッキリとさせて臨むのです。子供だからと言って侮るなかれ!確かな出典に基づいた作戦は例え大人といっても容易に防げるものではありません。後は子供らしい直情的な性格も加わり、どのような結末になるのか全く読めない点も魅力ですね。そしてロリコン教師も唯のロリコンで終わる事はありません。小学生に弱みを握られながらも、その逆境を逆手にとって子供顔負けの活躍を見せくれます。笑いあり涙ありドキドキあり、あっという間の時間を楽しんでみて下さい。

 プレイ時間は私で2時間10分程度掛かりました。選択肢はなく、分岐を気にせず読む事が出来ます。そしてこの作品はヒロインフルボイスです。活動漫画屋では初めての試みですね。どの声もキャラクターの性格を掴んでおり、普段どんどん飛ばして読む私も思わずクリックを停めて聞き惚れてしまいました。全部真面目に聞いたら恐らく3時間は超えていたと思います。また他の特徴として画面が大変大きいことが挙げられます。私が普段使用している20インチのモニタですと、ウィンドウモードよりも全画面モードの方が小さいんですもの!一般のプレイヤーにとっては嬉しい仕様だと思いますが、メモ書きをしている私にとっては誤算でしたね。そんなハイクオリティなシステム周りも特徴です。活動漫画屋さんが送るロリ変態学園サスペンスノベルです。パッケージを見て何かを期待した人、その期待以上の物が待っていると思います。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<知識はその人の個性や深みを熟成させます。皆さんも頑張りましょう。>


「幼女のオシッコすばらしー!!」


 すげーよこの主人公。本物のロリコン、いやペドフィリアだったんですね。でも本当に凄いところは、ペドフィリアと認めつつもちゃんと独自の倫理観を持っているところですね。いや、学校のトイレで盗撮していた行為はもちろんアウトですので、それさえなければ決して周りから責められないんですけどね。少なくとも、最後神宮寺校長に「ドMだからこそ女性を傷つけるのは嫌いだ!」「立場の弱さを知って食い散らかすクズ野郎!」と言い放ったのは見事だと思いました。ペドフィリアだからこそペドを大切にする!愛でる!触らない!黒柳のペドフィリアっぷりが事件を解決に導いたんですね。

 とまあ主人公への賛辞はこの辺りにして、事件解決に向けて活躍していたのは梨香を中心としたヒロイン勢で黒柳は殆ど振り回されてばかりでした。梨香の科学的に調べそれを日常生活したところから見えた応用力、そして人物の性格を掴み逆手に取るところから見えた観察力、そしてそれらを迷いなく実行に移すところから見えた決断力、普通の人間では尻込みして出来ない事を見事にこなしておりました。晶も梨香に振り回されつつも持ち前の発想力で現金奪還に成功しました。紀子もただ生真面目で盲目的なだけではなくちゃんと善悪の判断を持っておりました。そして美沙は知恵遅れな部分はありますがしっかりと姉として妹を守りました。全員が全員の大切にするものを活かして、今回の事件を解決したのです。

 もちろん一筋縄では行きませんでした。神宮寺の持つ権力と資金力と執念は相当のものであり、校長室に仕掛けられた監視カメラと花壇に隠した数千万円の大金の紛失を見つけ、すぐに対策を取りました。ですが、神宮寺は根本的に誤っていたんですね。それは学校が完全に自分のテリトリーだと思っていた事、そしてヒロイン達を小学生中学生だと侮っていた事です。クラスでの持ち物検査も、小学生に任せず自分で行えば良かったのです。自分が手を出した女子について、ちゃんと素性を把握していれば良かったのです。そこをサボった結果が、ヒロイン達に出し抜かれた結果だと思います。作中でも「自分は特別って思ってる人が差別をする」と言っておりました。これは言葉だけの意味ではなく、こういう人は自然と人を侮り甘く見るという意味もあるのだと思います。神宮寺の慌てふためく表情は見ていて痛快でしたね。

 そしてそんなサスペンスの裏側でしっかりとヒロイン達の心理描写についても記述しておりました。特に梨香と美沙の姉妹関係は考えさせられました。作中で「知識への罪悪感」という言葉がありました。シナリオの中では知恵遅れの美沙に対して本を読み物をよく知っている梨香が引け目を感じているという意味合いで使われておりました。本当は姉も持つべき知識を自分が奪っている、そんな有りもしない正義感に悩んでました。ですが、人生は知識が全てではありません。人間の持つ魅力は知識だけではなく、性格、人柄など様々です。美沙には他人の為に自分が嫌なことを引き受ける博愛精神がありました。そして美沙はきっと梨香だけではなく周りの人みんなにこの博愛精神を振りまくのでしょう。これ程美しいものはありませんね。そして梨香も美沙がやるくらいなら自分がやる覚悟を持っておりました。これは決して知識への罪悪感だけから来た気持ちではないでしょう。姉妹愛というものを確かに見る事が出来ました。

 何よりも、この事件を解決に導いたのはその殆どが梨香の持つ知識によるものです。学校のトイレに設置した監視カメラを見つける、花壇の中に隠された大金を見つける、持ち物検査を拒否する、給食センターのトラックを止める、そして神宮寺のわいせつな場面を写真に残る、これら全てが梨香の持っている知識を応用する事で成し得た事です。この応用力、自分も見習わなければと思いましたね。作中で梨香が「学校の授業って役に立つよね~!」と言っておりました。知識は持っている事も大切ですが、このように応用して初めて活かされるのかも知れません。学校の授業が役に立つ、こんなセリフをリアルで言えた事が何度あるでしょうか。加えて梨香は学校の授業だけではなく自分で本を読んで知識を溜め込むことに努めました。知識はその人の個性や深みを熟成させます。皆さんも頑張りましょう。

 振り返ればあっという間に終わってしまった印象でした。黒柳が梨香に丸め込まれ、晶を加え、数千万円の大金を入手したかと思えばそれで美沙を取り返し、最終的に神宮寺を逮捕にこぎ着けました。見事な連携プレーであり計画性でした。そして一人一人の個性がにじみ出ており、愛着が湧きました。これもMUK氏の丁寧なビジュアルと夕街氏のテキストが組み合わさったからこそ実現出来たと思っております。何よりも主人公のペドフィリアっぷり!是非全国の紳士の皆さんも真似するべきですね!楽しかったです。ありがとうございました。


→Game Review
→Main