「大人の科学」がまたやった! 付録を超えたクオリティの机で遊べる印刷機で活版印刷の妙味を味わってみた
かつて印刷は、「活版印刷」という方式で行われていた。文字を凸型に彫り込んだ木や金属製の“活字”を並べ、そこにインキを塗って紙に刷る、19世紀末から20世紀末まで主流だった技術だが、デジタル化によって、時間も手間も膨大なこの活版印刷は、みるみる姿を消していった。世界最大規模の印刷会社、大日本印刷(DNP)も、127年もの間日本の出版文化を支えてきた自社の活版組版部門を、2003年に閉鎖している。
ところが、音楽カルチャーにおいてレコードやカセットテープが再び人気を博しているのと同じように、アナログな温かみに新鮮さを感じるひとたちの間で、活版印刷への関心も、ひそかに高まっているらしい。実は筆者もそのうちのひとりである!
そこへ、『大人の科学マガジン』にこの活版印刷を卓上で楽しめてしまうキットが付録として付いてくるらしい! という情報がTwitterで拡散され、大きな話題に。12月15日に晴れて発売となったので、早速手に入れて遊んでみた。
『大人の科学マガジン 小さな活版印刷機』3780円/学研プラス
『大人の科学マガジン』とは、1963年に創刊した月刊の付録付き学習雑誌『科学』『学習』(2010年休刊)の魂を受け継いだ、好奇心にあふれる大人向けの雑誌だ。今回、12月15日発売の最新号に付いてくるのが「小さな活版印刷機」。まずはセット内容を確認してみよう。
・卓上活版印刷機(組み立て式)
・活字
・印刷用紙(片面が光沢加工された「キャピタルラップ」、やわらかな風合いの「ハーフエア・コットン」)
・黒インキ
・吸い取り紙
・スポイト
・活字外し器
・組み立て専用ドライバー
本書の説明通りに組み立て、完成するのは「テキン」や「フートプレス」と呼ばれる手動式の平圧印刷機。A5サイズ程度のスペースに収まるコンパクトさながら、細部まで精巧に作り込まれている。準備ができたら、いよいよ制作開始。今回は名刺サイズの紙に印刷してみよう。
1 活字を選ぶ
まずは2つのシートに結束された活字を、プラモデルさながらひとつひとつカットし、準備。続いて、作りたい単語や文章を構成する活字をひろっていく。
2 活字台にセットする
小さな穴が並んだ活字台に、活字を一文字一文字、並べるようにはめていく。凸凹になるとインキののりにムラが出る上、上手く紙に接地しなくなるため、高さがそろうように、最後にしっかり押し込んで。
3 インキ台に吸い取り紙をセットする
インキ台をいったん外して吸い取り紙を挟み、セットする。
4 吸い取り紙に水を垂らし、インキ台に貼り付ける
吸い取り紙にスポイトで水を垂らして全体的に湿らせ、インキ台に貼り付ける。ちなみに不織布やキッチンペーパーでも代用可能。
5 インキをインキ台にのせる
インキをインキ台の吸い取り紙上に出す。まずは付属のお試し用の黒インキで。ローラーにまんべんなく付くよう、はみ出さない程度で横いっぱいに均等に。
6 インキをインキローラーで練る
レバーを操作しながらインキローラーをインキ台の上で転がし、インキを練り、まんべんなく付着させる。インキローラーの表面はふかふかの起毛素材が貼られているので、インクが馴染むよう念入りに。
7 活字台を版盤にセットする
ハンドル位置を上にしローラーを下げた状態で、あらかじめセットしておいた、活字をはめ込んだ活字台を版盤にセットする。
8 活字にインキをのせる
ハンドルを上下に動かしてインキローラーを上下させ、インキを活字の上にのせる。何度か転がして、しっかりインキをのせるようにする。
9 圧盤に紙をセットする
手前に倒した圧盤に印刷したい紙を差し込む。
10 ハンドルを下まで倒してプレスする
ハンドルを下まで倒し、グググっと力をかけてプレスする。土台の脚部など本体をおさえたり、脚部にネジ穴があるのでそれであらかじめデスクに固定しておいたりして、安定させるといい。
ここまでが一連の流れ。
さて、ハンドルを上げて紙を覗いてみよう! ワクワク……あれ?
お察しの通り、われらが「Get Navi」と印刷したつもりが、「ivaN teG」になっている! しかも「G」が上下逆。ハイ、記念すべき第1回目は、失敗です。
当たり前だが、活版印刷はハンコといっしょなので、文字の列も、文字自体も左右反転。いつもの文字を思い浮かべながらサクサク活字を選んでセットすると、こんなことになる。ウッカリのないよう、活字の上下を確認しながら、まるで昔の看板を作るように右から一字ずつ並べ、セットしていくこと!
さて、やり直しだ。
右から左方向へ単語をつくるように、活字を並べる。
こんな感じ。
再びグググっと盤を押し込んで……
できた!
今度は成功。「Get Navi」無事。
インキを活字にのせるとき、ローラーを念入りに上下すれば、その分印刷にムラがなくなるのだが、手作りのあたたかみ、のようなものを出したいなら、むしろちょっとムラがあるほうがいいだろう。活字の高さに凹凸がないよう、しっかり押し込まなければならないが、一文字一文字の傾きもまた、味になる。
活字の並びは慎重に、活字の向きやインキののりには鷹揚に! がコツだ。
ちなみに、セットに含まれるインキは試用サイズのブラックのみだが、市販の水性インキを使えば、カラーでも刷れる。
インキ台でインキを練ってローラーで活字にのせるため、基本的に単色になるのだが、いくつかの色をマーブル状に練れば、ランダムなカラーを楽しめそう。
名刺を作ってみたり、しおりを作ってみたり。今のシーズンなら、クリスマスカード作りに活用してみてはどうだろう。手作りの質感がにじみ出る、思いのこもったカードを贈れそうだ。