航空自衛隊のF-15J戦闘機はその約半数が近代化改修を済ませ、今後も長年にわたり使用されると見られますが、残りの半数についてはそれが困難な状態となっています。同じF-15で、なぜ差がつくのでしょうか。

数が多いぶん深刻なF-15Jの改修問題

 2017年現在、航空自衛隊が201機保有する主力戦闘機、F-15J「イーグル」の性能陳腐化が深刻な問題となりつつあります。自衛隊パイロットですら「近代化改修を行っていないF-15で現代戦を戦うことは非常に厳しい」といった声を漏らしています。

 現在、航空自衛隊ではF-4EJ改「ファントムII」を新しいF-35A「ライトニングII」へと機種更新を進めていますが、現時点においてF-35Aの調達数は42機に過ぎず、今後も日本の防空を担う主力はF-15Jです。その主力戦闘機F-15Jにいったい何がおきているのでしょうか。


F-15J全体の約半数を占め改修困難という問題に直面している航空自衛隊のF-15SJ(画像:航空自衛隊)。

 F-15Jには大まかに分けて性能向上を果たした「F-15MJ」と、従来型の「F-15SJ」の2タイプがあり、それぞれおよそ100機ずつを占めます。このうちF-15MJは別の戦闘機として生まれ変わったと表現しても過言ではないほど大幅な性能向上を果たしていますが、「F-15SJ」については1970年代当時の能力からほとんど変わっていません。

 飛行性能自体はF-15SJとF-15MJに差はありません。問題は搭載電子機器にあります。特にF-15SJの頭脳となる「セントラルコンピューター」は8ビットCPUでありメモリーもキロバイト単位しかなく、性能的には1983(昭和58)年に任天堂から発売された家庭用ゲーム機「ファミコン」こと「ファミリーコンピュータ」とほぼ同等、そのうえプログラムのロード用に5インチフロッピーディスクドライブまでも搭載しており、もはや「化石」と言っても過言ではなく、これ以上の拡張は望めない状態にあります。

問題は通信線にアリ?

 飛行機のセントラルコンピューターは信頼性が最優先されるため、「化石」のようなものが搭載されている例はよくあることなので、それ自体は珍しくありません。また戦闘機の性能向上においてセントラルコンピューターの載せ替えは定石であり、F-15MJも近代化改修にあたって新しいセントラルコンピューターに載せ替えられています。

 もちろんF-15SJもセントラルコンピューターを載せ替えすることでさらなる性能向上を実現できるわけですが、ところがF-15SJの機内に張り巡らされた通信線が現代軍用機の標準となっている「MIL-STD(ミルスタンダード)-1553B」とよばれる規格に準じておらず、初期のF-15特有の「H-009」とよばれる規格に準じているため、現代水準の性能に引き上げることが非常に困難となっているのです。

 F-15MJに改修された機はすべて後期に生産されたタイプであり、最初から「MIL-STD-1553B」に対応していたため、比較的容易に近代化改修が行えました。またF-16やF-22、F-2、F-35といったのちの世代の戦闘機やその搭載機器、ミサイル類もほぼすべてMIL-STD-1553Bないし上位互換で通信容量の大きい「MIL-STD-1760」に対応しているので、新しいミサイルを搭載する場合は、パソコンとプリンターをUSBで接続しドライバーをインストールすれば使用可能になるのと同じように、比較的簡単に装備を追加できます。

改修よりも最新鋭機に買い替えか

 しかしながらF-15SJにはそれがありませんから、F-15SJをF-15MJ相当に性能向上させるには、H-009に対応したセントラルコンピューターやその他機器、装備品を独自開発するか、または機内に張り巡らされた通信線をMIL-STD-1553Bとし、搭載機器ほとんどすべてを載せ替えるしかありません。そしていずれの選択肢も巨額の予算、1機あたり数十億円が必要になるのではないかと推測されます。


F/A-18 E/Fに装備されテスト中のLRASM(Long Range Anti-Ship Missile、長距離対艦ミサイル)(画像:アメリカ海軍)。

 2017年11月から12月にかけ、F-15Jに対し新しい巡航ミサイルAGM-158 JASSM-ERおよびその対艦型LRASMの搭載について検討する方針であることが報じられました。JASSMの照準には標的の赤外線画像を送信しなくてはならないので、ファミコン並みのF-15SJでは情報処理できませんから、対地・対艦攻撃機とすることも不可能です。

 八方ふさがりとなってしまったF-15SJはもはや第一線の戦力とはいいがたい存在です。これに大金をかけてF-15MJ仕様へと性能向上させるならば、いっそのことF-15SJを早期退役させてしまいF-35Aの追加調達を行ったほうがコストパフォーマンスに優れるのではないか、という計画案が有力になりつつあります。

【写真】暗緑の迷彩をまとったF-4EJ「ファントムII」


航空自衛隊岐阜基地60周年と各務原飛行場100周年を記念し実現した「飛行開発実験団」のスペシャルマーキング機。F-4EJ改ではない数少ない非近代化機(関 賢太郎撮影)。