1993年に登場したスーパーファミコン用ソフト「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」(チュンソフト/現スパイク・チュンソフト)。2018年に25周年を迎えるレトロゲームではありますが、遊んでいた方は今でも、あのキャッチコピーを覚えているのでは?
「1000回遊べるRPG」
主人公トルネコが挑む「不思議のダンジョン」は、入るたびにダンジョンの形状が変化。また、いくらレベルを上げても、地上に戻るとレベル1に戻ってしまうという不思議な性質がありました。これらのゲームシステムのおかげで、何度でも新鮮な気持ちで遊べることから、「1000回遊べるRPG」というコピーが採用されていました。
一見、大胆と思えるこの表現、実際には“謙虚すぎた”かもしれません。というのも、今回取材した秋川さんは、同作を実機で4000回以上プレイ。現在もダンジョンに潜っては、Web上にプレイ日記を公開しつづけています。しかも、その日記がめちゃくちゃ細かく、真剣さが伝わってくるのです。「この人、本当にダンジョンに潜っているのではないか」と思ってしまうくらい。
「トルネコの大冒険」の一体何が、彼をこれほどまでに熱中させているのでしょうか。「1000回遊べるRPG」が、1000回では遊び尽くせなかった理由を伺ってきました。
●「1000回遊べるRPG」を、4000回プレイした男
―― 今まで「トルネコ」にどれくらい時間を使いましたか?
私の場合、「もっと不思議のダンジョン」を1回クリアするのに、2~3時間かかるので……。
―― 少なくとも数千時間は費やした計算になりますね。
当時のSFCのソフトの定価が1万円くらいだったのですが、これくらい遊ぶと、1プレイあたり2円台で楽しんでいることになりますね(笑)
―― プレイ回数はどうやって把握しているんですか?
「トルネコ」は、セーブデータにダンジョンに潜った回数が表示されるので、そこを見ています。
―― スーパーファミコンって、セーブデータが消えてしまうことがありますよね。データの保護はどうやって?
私は部屋に本体を出しっぱなしにしてプレイしているのですが、データ紛失が怖いのでソフトは抜かないようにしています。「データ保持に使用されているカセット内の電池がダメになっても、本体を通電しておけば大丈夫」と聞いたことがあって。
でも、コントローラーはたまに買い替えていますよ。何年間も使っていると、ボタンが劣化してしまうので。
―― 「トルネコ」はランダム要素が強いゲームですが、4000回の中で印象に残っているプレイはありますか?
いろいろありますが、最近だと攻撃が9回連続でミスしたことですかね。私が調べたデータでは、攻撃が外れる確率はトルネコ、モンスターともに8分の1。ここまで連続する確率は、約1億3422万分の1です。相手はさまようよろいだったのですが、HP全快の状態から瀕死に陥りました。
―― そこまで低確率だと「たった4000回のプレイで起こった奇跡」といいたくなりますね。
ええ。運が良かったのか、悪かったのか……。20年くらいプレイしていると、こんなことも起こるんですね。
●「パソコン少年」憧れの名作が、スーパーファミコンにやってきた
―― 「トルネコ」に出会ったきっかけは?
私は現在45歳で、物心つくころには「月刊コロコロコミック」があって、インベーダーブームが起こって……という世代です。
「こんにちはマイコン」(※)を読んで、子どもながらに「PCってすげえ!」と驚いた覚えがあります。「ゲームセンターあらし」のキャラクターが登場し、プログラミングの方法などが学べる漫画で、プログラミング言語「BASIC」にのめり込むきっかけになりました。
※1982年に発売された、すがやみつるによる学習漫画。コンピュータの歴史や仕組み、簡単なプログラミングなどを学ぶことができ、当時の“マイコン少年”たちに多大な影響を与えた
―― 1970~80年代に現れた、いわゆる「パソコン少年」「マイコン少年」だったんですね。
中学生のころだったかな。1985年前後に、PCゲーム情報などを扱う雑誌「ログイン(LOGiN)」で、「Rogue」という作品が猛プッシュされました。「トルネコ」を含む、いわゆる「ローグライクゲーム」の元祖となる作品です。
「主人公が1人でダンジョンに潜り、深階層にある『イェンダーの魔除け』を入手した後、ダンジョンからの脱出を目指す」という内容なのですが、ゲーム画面には絵がなく、代わりにASCII文字が使われていました。
―― グラフィックがなく、文字で敵やアイテムを表していたんですよね。今となってはかなり取っつきにくいゲーム画面でしたが、面白さから熱狂的なファンがいたとか。
当時の「ログイン」編集部もハマっていたらしく、同誌オリジナル版作品が作られるなど盛り上がりを見せていました。しかし、残念なことに、私の所有していたPCでは「Rogue」が遊べなかったんですよ……。
21歳くらいのとき、「Rogue」をベースにしたスーパーファミコン用ソフトが発売すると聞き、「うひょーっ!」と飛びつきました。それが「トルネコの大冒険」だったんです。
―― 憧れのゲームがようやく家にやってきたわけですね。ちなみに、初めてプレイしたときのことは覚えてます?
あっさり死にましたね……。
―― ですよね(笑)。「Rogue」よりも分かりやすいゲームになっていますが、やはり立ち回り方が分からないうちは……。
「まどうし(※)をうっかり攻撃 → ラリホーで眠らされ、行動不能になっているあいだにボコボコにされる → ももんじゃ(※)に連行される」という一連の流れは誰もが経験すると思います。
「不思議のダンジョン」攻略後に解放される「もっと不思議のダンジョン」も苦労して、クリアまでに50回くらいチャレンジしましたね。30階以降にある奇妙な箱がようやく地上に持ち帰れたときは、「もう二度とクリアできないだろうな」と思いましたよ。
―― そこから何千回もクリアすることになるわけですが……。
※まどうし:接近するだけなら何もしてこないが、攻撃を加えると目を覚ましてしまう。ラリホーが危険なので、うかつに手を出さないのが基本。
※ももんじゃ:ダンジョン内でゲームオーバーになると、倒れたトルネコをももんじゃが4体がかりで地上まで運ぶシーンが流れた。「やめて、トルネコのHPはゼロよ!」と言いたくなるくらい、わりと乱暴。
●アイテム強化にハマった10年間
―― 日記には1986回目のプレイから掲載されていますが、それ以前はどんな風に遊んでいたんですか?
データ的には4000回以上プレイしていることになっていますが、そのうち1000回くらいは「装備などのアイテムを強化するために、巻き物をダンジョンに持ち込んで、リレミトの巻物で帰る」みたいな遊び方だったと思います。そうやってアイテム強化に励んでいた期間が、10年くらいありました。
―― 10年間……! そこまで育てた装備って、どんな感じです?
武器、防具の修正値の上限は「+99」と思われがちなのですが、「もっと不思議のダンジョン」でゲットできるパルプンテの巻物(※)を使うと、さらに上げることができます。やりすぎると、数値がオーバーフローして一気に「-128」まで下がりますが。それを利用して「マイナスと表示されているのに、めっちゃ強い装備」を作りまくったり。あと、「鍛えすぎてなぜか呪いのマークがついた杖」を大量に集めたりもしていました。
※秋川さんのWebサイトによると、「(ランダムに効果が出る)パルプンテの巻物の効果の1つである『アイテムの効果が3上がった』を利用すると、ちからの指輪を鍛えたり武器や盾を+100以上にしたりすることができる」
―― なんか俺の知ってる「トルネコ」と違う。
アイテム強化目的でダンジョンに入るついでに、ゲーム内の現象に関するデータを収集して、統計的な分析もしていました。ゲーム内のダメージ計算を独自に解析して「ダメージ計算シミュレータ」を作ったり、各モンスターを1000回ずつ倒して、アイテム所持率を調べたり。
―― 「最高値で売れるアイテムは、銅の剣-11(65534ゴールド)」なんてまったく知りませんでした。当時の攻略本を読んでも、知っていることしか書かれていないのでは?
公式ガイドブックは、ちからの指輪の価格など一部に誤植があります(即答)。
―― ……攻略本よりも上の次元にいましたか。
●発売から12年後に始まった「トルネコ日記」
―― 「トルネコ日記」をつけはじめたきっかけは?
昔、友人が「このゲームは面白いけど、運要素が強すぎる」と話しているのを聞いて、疑問を抱いたんです。「確かに不確定なところはあるけど、自分は『もっと不思議のダンジョン』を9割くらいクリアできているような気がするし、プレイヤーの腕の方が大事なのでは?」って。
紙に記録して、正確な自分のクリア率を調べてみたところ、50回ダンジョンに潜って約20勝。「最近やっていなかったから、本調子が出なかったのかな」ともう50回やってみたら、また20勝台。さらに50回挑戦しても20勝台。「クリア率9割」という体感と、本当の実力に大きな開きがあることが分かりました。
この出来事をきっかけに、2005年ごろからクリア率アップを目指して「トルネコ日記」をつけるようになりました。Web上に公開していますが、自分用の記録として使っていて、空き時間などに読み返しています。
―― 「もっと不思議のダンジョン」のクリア率はどう推移していますか?
日記を書き始めたころは5割程度でしたが、2010年からクリア率が9割に到達するようになりました。かつて思い込んでいた「自分の実力」の水準ですね。
―― 秋川さんはどんなプレイスタイルなんですか?
私はアドリブ力が弱いので、完全な事前準備型です。今も「トルネコ」をプレイしている方の中には、RTA(リアルタイムアタック)に挑戦している人もいますが、私は苦手ですね。どちらかといえば、慎重に進めていきたいタイプで、経験を積めば誰でもできるような方法論を確立することを目指しています。
方法論は少しずつ変わっていて、例えば、以前はスモールグール(※)が出現するようになる4階でやられることが多かったんですが、今は対策を取るようにしています。……とはいえ、「歩いているうちにHPが自然回復するから、ダンジョン内にループで歩き回れる場所を見つける」みたいな地味なテクニックですよ。
「トルネコ」は、「風来のシレン」(※)と違ってアイテムなどの効果が弱いので、革新的な攻略法が生まれにくくて。でも、私には、その地道さが合っている気がします。
※スモールグール:攻撃を受けると、時々分裂するモンスター。トルネコの立ち位置が悪くて挟み撃ちされたり、増えすぎて戦闘が長引いたりとかなり厄介。
※風来のシレン:「不思議のダンジョン」シリーズ第2弾として、チュンソフトから1996年に発売。SFC版「トルネコ」には無かった壺(つぼ)のほか、アイテムの合成、ダンジョン内の店舗などが導入された。
―― 日記の中では、過去の失敗に触れることが多いですよね。2985回目のときに「2711回目や2737回目の反省が生きたぞ」とか。そんなことよく覚えてるなー、と。
さすがに「このパターン、○○回目のダンジョンで見たやつだ!」って記憶してるわけではないですけどね(笑)。「前にもこういうこと、あったな」とぼんやり思い出してから、日記で確認して書いたんですよ。何度も読み直しているので。
●「トルネコ」の本質は“リソース管理”
―― 「もっと不思議のダンジョン」を攻略するうえで、重要なアイテムってあります?
うーん……やっぱり「かわのたて」は大きいと思います。
―― 腹減りの速度が半減する防具ですよね。でも、防御力が低くて使いにくくないですか、あれ。
「トルネコ」で大事なのは、空腹度やレベル、アイテムといったリソースをうまく管理することだと思っています。
―― リソース管理ですか。
「普段はかわのたて、戦闘時はもっと防御力の高い盾」と使い分けて腹減りを抑えると、食糧面で楽になります。その余力で経験値稼ぎ、アイテム集めに注力できると楽になるんです。
●最も難しいのは、1階
―― 日記を読んで、1階でよく死んでいることに驚いたんですが。
低層階は難しいですよ。特に1階は、最難関フロアといってもいいと思います。
―― え、誰でも突破できる最初の階じゃないですか!? どろにんぎょうにレベル下げられたり、ドラゴンが火を吹いてきたりもしませんよ。
そういったモンスターが出る深い階層なら、装備やアイテムで何とかできる可能性があります。でも、ダンジョンに入った直後の1階は、何も持っていません。
―― でも、1階で出てくるモンスターなんて、せいぜいスライムとかドラキーとか……。
いえ、ゴーストがめちゃくちゃ強いんです。ダメージなどを計算すると、2体同時に遭遇した場合の生存確率は約50%しかありません。しかも、厄介なことに、1ターンに2回行動する特殊能力があるので、逃げようとすると「移動 → 攻撃」と追い打ちしてHPを削ってきます。
「トルネコ」のベースになった「Rogue」にも、倍速移動するモンスターが1階から出現しますが、こちらは追い打ちできない設定。プレイヤーが1マス逃げると1マス追ってくるけど、攻撃はしてきません。
要するに、ゴーストはあえて特殊能力の強化が行われているんですよ。できることが少ない最序盤に、あんなに強いモンスターを出すという判断を下した開発チームはすごいです。ゲームづくりの妙があると思いますよ、ゴーストには。
―― そういえば、1階で死亡したときの日記は、つらさがにじみでてますよね。嫌な形で現れたゴーストに対処できなかったことに対して「これはしょうがなかったんじゃないかなあ……」「これはどうしようもな……くない」「やはり1階は難しい」など、かなり悩んでいる様子が伺えます。
1階が抜けられるかどうかには、どうしても運が絡んでくるんですが、それでも、プレイヤー側の工夫で何とかしたいという気持ちがあって……。昔は1階でやられると悔しくて、すぐに再プレイしていたのですが、今はひとまず日記を書いて、自分の考えをかみ砕いて消化するようにしています。
―― ゲームとは思えない真面目さ……!
●「トルネコ」をやりつづける理由
―― もう1つ、日記で印象的だったのが、すごく人間臭いところでした。「この人、ゲームじゃなくて、本当にモンスターと戦ってるんじゃないか」と思ってしまうくらい真剣な文章を書いたり、お酒を飲んだ後にプレイしちゃってものすごく後悔したり(笑)
・真面目なときは求道者のごとく
「可能性が極端に低くとも、そこに生き残れるチャンスがあるならば全力を尽くさなければならない」(2297回目)
「我に返れる冷静さと、易きに流れない心の強さが欲しい」(3610回目)
「連勝は34でストップ。(中略)まだまだ精進が足りない」(3773回目)
「もっと緊張感を持ってプレイするべきだろう。ぬるい」(4175回目)
・でも、たまにやっちゃう飲酒プレイ
「酒を飲みながらやっていたらえらいピンチに」(2121回目)
「ビール飲みながらやってたというのがそもそもの間違い」(3104回目)
「だから酒飲んで帰ったときにトルネコの続きをやるなと言ってるのに」(4067回目)
お酒を飲みすぎたときは、やっぱりダメです(笑)。視野が狭くなって、画面の隅にいる敵を見落とします。休日の朝なんかも、コンディションが良くないですね。
―― 2009年に「単純ミスを無くすために、声出し確認すべきか」と検討していましたが、あれはどうなりましたか? 「クリア率を上げたい」「でも、さすがにやりすぎか……」と葛藤していたようですが。
結局、採用しませんでした(笑)。でも、階を移るときに「その階の注意点」「やるべきこと」「持っているアイテム」などを確認するだけでも、けっこう違いますよ。危機管理能力みたいなところが問われるゲームなので。
―― 最後にどうしても聞きたかったことを。秋川さんはなぜ、そんなに本気で「トルネコ」を遊びつづけているんですか?
最近のゲームは、ゲーム側が“遊ぶ目標”を用意してくれますが、昔は違いましたよね。ハイスコアを目指すなど、プレイヤー側が自分なりに見つける必要がありました。
私にとっての“遊ぶ目標”は「『もっと不思議のダンジョン』で最適に動いた場合の理論的なクリア率」を確かめること。運要素も多少絡んできますが、95%くらいになるような気がしています。
分かりやすく言うと「もしも、めちゃくちゃうまい人がノーミスで100回プレイしたら、95回は奇妙な箱を持ち帰れる」という仮説を立てているんです。これを証明したくて、自分がどこまでクリア率が高められるのか挑戦しています。
―― 出現するアイテム、ダンジョンの形状などによって冒険の内容は毎回変わるのに、腕があればほぼ確実に攻略できる……というわけですか。驚異的なゲームバランスですね。
この課題が終わったら、私の「トルネコの大冒険」は終わりかもしれません。
ですが、今でも試行錯誤の積み重ねで、遊んでいて楽しいですよ。周囲からはずっと同じことをしているように見えると思いますが、私は攻略法のバージョンアップを繰り返していますから。この間は、ミイラおとこが出現するようになる5階の立ち回りについて検討していました。
今までは4階でアイテムの識別を行うようにしていたのですが、それを改めたほうがいいんじゃないかって考えているんですよねえ……。
―― え、こんなにやり込んでいるのに、まだ悩むことがあるんですか?
今でも不思議でいっぱいですよ、「もっと不思議のダンジョン」は。
「不思議のダンジョン」シリーズは初代「トルネコの大冒険」以降、「風来のシレン」のほか、「チョコボの不思議なダンジョン」「世界樹と不思議のダンジョン」といった派生作品が登場。秋川さんは他作品に手をつけながらも、今日まで「トルネコ」を遊びつづけてきたそうです。
同氏のWebサイトに設置されている掲示板では、今でも「トルネコ」プレイヤーからの書き込みが。攻略情報の交換、クリア報告などを行っており、古い作品ながら現役のファンが存在することに驚かされます。発売当時は誰も予想していなかったかもしれませんが、「1000回遊べるRPG」は「数千回遊んでも、数十年たってから遊んでも色あせないRPG」として愛されつづけているようです。
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