知的生産の舞台裏をのぞき見るのはいつだって楽しいものです。その意味で、本書もたっぷり楽しめます。
» メイキング・オブ・勉強の哲学 (文春e-book)[Kindle版]
2017年4月に発売された『勉強の哲学』は、以前この連載でも紹介しましたが、その本がいかなる背景と手法によって生み出されたのかが解き明かされる一冊です。
目次は以下の通り。
第一章 なぜ勉強を語るのか 東大駒場講演
第二章 メイキング・オブ・勉強の哲学
第三章 別のエコノミーへ
手書きノート
知的生産の技術として注目したいのは、第二章の「メイキング・オブ・勉強の哲学」でしょう。
この章では、著者と佐々木敦さんとの対談がまとめられているのですが、そこでノートやアウトライナーをどのように使っているのかの実例が示されています。興味津々な内容です。
まずノート(紙のノート)は、
アイデアを爆発的に展開したいときにはたいてい手書きノートを用います。
とあります。これは私も同じです。
まったく何も構造がないような状態や、つかみどころがない状態では、まず、とっかかりとなるものが必要です。論理構造を整えるのではなく、頭の中にある概念の関係性を一旦表出させてしまう。書き出し、固定化し、可視化してしまう。そういう場合に、紙というツールは大いに活躍します。
脳内にある情報は、別段論理立てられてもいませんし、筋道立ってもいません。だから、四方八方に書き広げられる紙が使いやすいのです。
また、円でグルーピング、線でリレーションが表現でき、必要ならばイラスト(図解)も書き加えられます。シンプルで、クイックリーでありながら、十分な表現力を備えているのが、手書きの良さです。
もちろん手書きであっても、頭の中身をそのまま直接移し替えるのは難しいでしょう。そこには何かしらの変換や次元の削減が発生しています。とは言え、できるだけその構造を損なわないように書き出すが、最初の一歩としては良さそうです。
アウトライナー
次にアウトライナーの出番になるわけですが、著者はこう言います。
僕のアウトライナーの使い方には二つあります。「総合的」な使い方と、「分析的」な使い方です。
何度か紙のノートに書いているうちに、徐々に「流れ」ができてくる。そうなると、その論理構造をベースに「必要な論理的ステップを箇条書きで書き出し、適切に並べ替え」える。それが著者の言う「総合的」な使い方です。項目一つひとつを断片的に扱い、それをリニアに並べて順番を整えていくこと。アウトライナーの一般的な使い方でもあります。
では、対する「分析的」な使い方とは、どのようなものでしょうか。
一方で「分析的」な使い方というのは、行き詰まっている問題にしっかり直面し、それにひたすら自己ツッコミをかけていき、難点をあぶり出していくというやり方です。
さきほどの使い方を「配列する」使い方と呼ぶならば、こちらは「掘り下げる」使い方と呼べるでしょう。アウトライナーは、一つの階層に対していくらでも下に階層を設定できるので、項目に対する問いかけに対する問いかけに対する問いかけ……と、いくらでも掘り下げていけます。
以上両方の用途にアウトライナーは使えるわけですが、大切なポイントは、この二つが別の作業であると認識することでしょう。
まったく個人的な感覚ではありますが、「配列する」するときは配列のみに思考を向け、「掘り下げる」ときは掘り下げことだけに思考を向けた方がうまくいきます。両方を同時にやろうとすると、収集がつかなくなる、言い換えれば認知操作が複雑になりすぎてしまうように思います。
上記二つの使い方については、本書内でもう少し詳しく掘り下げられていますので、ご興味ある方は直接本書をあたってみてください。
さいごに
今回は、本書のほんのさわりだけを紹介してみました。一冊の本が生まれ出るプロセスというのは、それが一冊一冊ごとに違っているがゆえに、いつでも面白く読めます。
それだけではありません。「章立ては変わる」のように、「うんうん、やっぱりそうですよね」と共感できることも多数あります。違ってはいても、同じようなことはやっぱりあるものです。
というわけで、知的生産の技術やコンテンツの作り方に興味があるならば、楽しめる一冊でしょう。
また、本書は『勉強の哲学』の副読本としても読めるので、少しメタな視点から『勉強の哲学』を読み解きたい場合にも有意義な一冊になるかと思います。
» メイキング・オブ・勉強の哲学 (文春e-book)[Kindle版]
刻々と、刻々と年末が迫ってきておりますが、その速度に原稿の進捗は追いついているのか。神のみぞ知る問いかけです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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押井 守 日経BP社 (2013-10-10) |
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全編、映画作品の解説 → 分析 → 現実へのフィードバック、という三段構成で「あぁ、あの映画はそういう風に解釈するのか!」とか「あのシーンはそういうことだったのか!」あるいは「そこに落とし込むのか!」といった「!」の連続。
人生の時間は限られているので、あらゆることを経験することは不可能。となれば、誰かの経験を疑似体験することで糧にしていくしかない。
映画はそんな疑似体験のためのかっこうの手段といえる。
映画は2時間前後という尺...