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【コラム】

筆洗

 その歩き姿にぎょっとする。深夜、歩きながら、スパゲティを食べている若い会社員と擦れ違う▼結構な大きさのお皿を抱え、すすり、歩く。見れば小脇にはビジネスバッグ。見ている方がむせる。もはや、曲芸の域である。連れていたウチの犬がほえるのも無理はない▼「ながら」でいえば、スマートフォンを凝視しながら歩く人を見かけない日はない。トイレで小用をたしながら操作する人も見たことがある。そこまで日本人は忙しくなかろうて▼スマートフォンを操作しながら、自転車に乗っていた女子大学生が歩行者に衝突し、死亡させてしまった事故が川崎市内であった。大学生は両手をハンドルに添えた状態で右手に飲み物、左手にスマートフォン、左耳にイヤホンをしていたとされる。その「曲芸」が悲しい▼歩きながらや自転車に乗りながらのスマートフォンがこれほど批判されているのに、なにゆえ、やめられぬのか。時間の節約や効率の得を考えているのかもしれぬが、その危険を考えれば大損しかあるまい。この女子大学生も取り返しのつかぬ事故に後悔しているだろう▼悪いが、「ながら」の君をよけるたび、こちらは心の中でののしっている。たぶん、大勢の人がそうだろう。ぶつかればの想像力もなく、人の迷惑も考えない人間でござい。そう自分で宣伝しながら歩いている大損になぜ、気がつかぬ。

 

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