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Innovators 100 Series Vol.19 斎藤 克摩

人工衛星部品の微細組立て技術の名工

2015年1月22日

Vol.19 CHAPTER2 人工衛星部品の微細組立て技術の名工 斎藤 克摩NECスペーステクノロジー:斎藤 克摩(かつま)

―30人のスタッフを率いるチームリーダとしての、主な役割とは何ですか?

写真:斎藤 克摩 氏

斎藤:チームでは、国内外の衛星に関するさまざまなプリント基板の組立てを行っています。そうしたさまざまな機器の製造工程において、リードタイムや工数を考慮しながら組立てる機器の優先順位の決定、個々の作業工程のコントロールやマネジメントがチームリーダの主な仕事です。設計部門や生産技術部門、社内外の生産協力会社などから作業に関するいろいろなオファーや相談がありますから、各部門との調整や折衝も私の重要な役割です。

一方、実際の組立て作業では、難度や付加価値の高い部品のハンダ付けや、工程内品質確認が私の担当です。また、部下にノウハウや技術の指導、若いスタッフが手がけたハンダの手直しを自らの手で行うこともあります。

―衛星部品の組立てにおける苦労を教えてください。

写真:斎藤 克摩 氏

斎藤:組立て作業には、さまざまな工程や工法があります。また、高度化する設計の要求にも応えていかなくてはなりません。ですから、いまでも日々試行錯誤の連続ですね。部品は一点もので替えの部品はないという環境での作業にも細々とした苦労はあります。

また、近年の衛星開発では小型・軽量化が大きなテーマとなっています。それに伴い、部品の高密度化や高集積化がさらに進み、ハンダ付けなどにおいても、より微細で高いレベルの技能が求められます。スタッフの中でも高いスキルを持つ人は限られていますので、若手や中堅など人的リソースをうまく振り分けて、作業全体を滞りなく進めることも苦労のひとつですね。

―斎藤さんにとって、いまだから話せる失敗などはありますか。

斎藤:実際の衛星開発において部品組立ての大きな失敗はありません。何度も言うように、失敗は許されませんから。でも新人の頃、実際には飛ばすことのない試験用のモデル機を制作した時、配線などがなかなかうまくいかないという、小さな失敗はありました。そんな時は、ひとりで何度も作業を繰り返して、うまくできる解決法を自分自身で見つけ出して、乗り切りました。

衛星はいまや、人々の生活に不可欠な存在

―衛星部品の組立てにおける、斎藤さんのやりがいとは何ですか。

写真:斎藤 克摩 氏

斎藤:通信をはじめ、カーナビ、気象予測、災害監視など、人工衛星は地球で生活する私たちにとって、いまや欠かせないものになっています。人工衛星は、地球や人類の未来を支えるために、その重要度はこれからますます高くなっていくはずです。そんな重要かつ最先端のモノづくりに関わっていることに、大きなやりがいを感じます。

また、宇宙の神秘や地球の起源などの解明に役立つ惑星探査機などの開発は、宇宙の新たな扉を開いたり、人類が新しい歴史の一歩を踏み出すなど、夢やロマンに満ちた仕事でもあります。2014年12月に宇宙に飛び立った「はやぶさ2」には、さまざまな快挙をトラブルなく成し遂げて欲しいという願いとともに、「どうか、無事に帰っておいで」と声をかけてあげたいですね。

―チームリーダとして、後進の指導で大切にしていることを教えてください。

斎藤:若いスタッフに対しては、私からいろいろなことを言わずに、まずやらせてみることにしています。自ら経験したり、苦労することで、正しい技術や知識が早く身につくと考えているからです。また、中堅スタッフには若手技術者をできるだけ教えさせるようにしています。人に教えることによって、自身が知識をきちんと整理できるようになり、また人に正しいスキルを伝えるトレーニングにもなります。

―斎藤さんのチームの現在の仕事の状況を教えてください。

斎藤:私たちの仕事では、つねに複数のプロジェクトが同時に進行しています。現在は小型の地球観測衛星といくつかの海外向け搭載機器の生産を同時に行っています。

若手の中から、新しい「現代の名工」の育成を

―技術者として、また今後の展望を聞かせてください。

斎藤:これまでもそうでしたが、技術者としては早く、安く、高品質なモノづくりをこれからも追求していきたいと思っています。衛星開発におけるモノづくりは、非常に多岐にわたります。25年以上の経験を積んだ40代半ばの私ですが、太陽電池パネルなどまだまだ手がけていない領域があります。衛星開発の進化に伴って、機器の設計や組立ても進化します。これからもさまざまな衛星の、いろんな領域のモノづくりに積極的にチャレンジしていきたいですね。

―「現代の名工」に選ばれた斎藤さんの率直な気持ちを聞かせてください。

写真:斎藤 克摩 氏卓越した技能者(現代の名工)の盾

斎藤:今回の選出された「現代の名工」の中で、私はかなり年齢が若い方でしたので、うれしさと同時に、恐縮という気持ちが正直な感想でした。「現代の名工」という賞を頂きましたが、『これで満足』と歩みを止めるわけにはいきません。現在40代半ばの私にとっては、定年まで長い年月がこの先にあります。自分自身ではロケット、衛星搭載機器組立ての技術者として「まだまだ」という気持ちや「これから」という想いもあります。技術の追求に「ゴール」はありません。

これからも知識やスキルの向上を図りながら、会社にもっと貢献したいですし、何よりも衛星開発という日本が誇るモノづくりをもっとお手伝いしたいと願っています。自分自身を磨きながら、今後は若手の中から新たな「現代の名工」を育てるのが、もうひとつの私の願いであり、務めだと思っています。

―精密機器の技術者として、大切にしているこだわりとは何ですか。

斎藤:「できない理由を考えるのではなく、どうやったらできるのか理由を考えろ」。若い時に上司から言われた言葉なのですが、これを肝に銘じて仕事を続けてきました。

設計部門などからは難しいオファーなどがいろいろあります。そんな時、努力や考えることなしに、できないと判断してしまったら、そこで終わってしまいます。時間的な制約などを見極めた上で自ら知恵を絞ったり、仲間と相談しながらどうやったらできるかを追求することが大切です。課題解決のアイデアや方法を導き出すことができれば、自分やチームの成長にもつながりますし、さらによりよいモノづくりが可能になります。

―斎藤さんの趣味やオフタイムの過ごし方を教えてください。

斎藤:趣味は、落語を聞くことですね。「子別れ」などの人情噺が好きですね。上野広小路あたりの小さな寄席に足を運んだりもします。プライベートでは、噺家の友人もいますよ。私たちのスタッフの中には、日々微細な部品の精密加工をしているにも関わらず、休日にはプラモデルの細かな組立てを趣味にしているような強者もいますが、私はちょっと・・・(笑)。それから休日の子供との触れ合いも、私にとっては大切な時間です。

写真:斎藤 克摩 氏

~インタビューを終えて~

インタビュー後、斎藤さんの仕事場を見学することに。ヘアキャップ、シューズカバー、防塵服を身につけ、さらにエアシャワーを浴びて、斎藤さんのチームが作業するクリーンルームへ。部品の緻密さ、ハンダの細さ、そして微細な作業を目の当たりにして、取材スタッフ一同ビックリ。話を聞くのと、実際に目にするのでは大違い。スタッフのひとつひとつ丁寧な仕事が、衛星の宇宙における無事な旅と多くの活躍を支えているのだと、実感しました。

(2015年1月22日)

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