TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』(平日22時~)
新世代の評論家・荻上チキが送る発信型ニュース番組
2017年12月15日(金)のニュースコーナー「Daily News Session」で、「米軍ヘリの窓落下事故を受け、翁長知事が菅官房長官に抗議」というニュースについて、菅官房長官との会談直前の沖縄県・翁長知事に荻上チキが単独インタビューした模様を放送しました。こちらでは、インタビューの完全版をお届けします。また、ジャーナリストの神保哲生さん、放送大学教授の高橋和夫さんにもお話伺いました。
【インタビュー全文書き起こし】
荻上:早速ですが、今回、米軍機の窓が落下するという事故、事件がありました。この件について、まず知事としてどのようにお考えでしょうか?
翁長:沖縄県は戦後72年、本当に色んな事件・事故があってですね。5000件を超えるようなものがあるんですけれども、特に今回大きく問題となったのが、この2件とも、ひとつは保育園の屋根に落ちたことと、もうひとつは普天間第二小学校という小学校の運動場に、体育の授業をしているど真ん中に7.7キロの窓が落ちてきたということ。
県民の生命と財産を守るというのが一番大きな政治の眼目ですけれども、子どもたちのことがその中でも大きい。私たちは子どもたちのために、孫のために、一生懸命頑張っているというのが、多くの人の考えだと思うんでね、やっぱりこの件は我慢ならない。今までの基地もさることながら、今回の2件で、もっと大きく真剣に沖縄の基地問題を考えてもらいたい、ということで今回抗議にまいりました。
荻上:今回の事故を受けて、県民の方から、県庁、あるいは知事のところに、抗議や応援など何かしらの声は届いているんでしょうか?
翁長:基地が沖縄県民の生命・財産に及ぼす悪い影響というのは、全部共有していますので。基本的には保守も革新も、政治的な立場は関係なく今回は許せないと。大概の事件・事故は許せないということでありますけれども、今回は本当にみんなが一丸となって、「これはダメだ」という話になっています。
ただ、部品が落ちてきたことについて、米軍がまだ調査中というのが1件あるもんですから、これについて「お前たち自作自演だろ」と。自分たちで投げておいて、自分たちで落ちてきているように見せかけているんじゃないか?というようなものが1000件のうち10件20件あるんですけれども、こういう人たちはいつでもいますので。しかし県民全体は今おかれている環境から、これは間違いないというこそれから小学校に部品が落ちたのはビデオにも録られていて。
荻上:映像がありますね。
翁長:映像がありますのでね、こういったことなどを踏まえながらの今の沖縄県民の反応だと思いますね。
荻上:そして今回上京して、直接政府を意見を伝えるという事ですけれども、上京してまで今回伝えたい思いというのはどういうものなのでしょうか?
翁長:上京という意味では結構上京してきているんですね。去年の、ちょうどおととい小学校に落ちた日はですね、ちょうど1年前にですね、オスプレイが名護市の東海岸に墜落して炎上していますので。それから1年経っている間に、いろんな機種、いろんな事件・事故、それからパラシュート訓練もやっちゃいけないところでやったりとか、いろいろあったんですが、やはり子どもたちに直接危機感が迫ってきたと。
いつも心配しておったんだけれども、まさしくそういうことになったということと、それが連続しているということですね。CH5-3Eというですね、大型、50名ぐらい乗れる大型ヘリコプターなんですが、つい8月にはですね、えー10月ですね、2ヶ月前、これが民間地に不時着・炎上して大変な騒ぎになったんです。しかし、数日後にはまた、原因究明もないまま飛び立っていってですね、そして保育園、小学校と続いたもんですから、同じ機種で。本当に米軍は沖縄の県民のですね、安心安全までも考慮に入れながら訓練をしているのか、ということがひとつと。
それからやはり日本全体でですね、こういうものは考えてもらわないといけない。そして、日本政府の当事者能力といいますか、この事件・事故があるときに、いつも防衛大臣も外務大臣も「絶対に許さない」と言うんですけれども、数日後にはみんな飛んでいくんですね。この実態は沖縄県民しかわからないので、大変多くの本土の方々にご理解いただくのは難しいんですけれども、この繰り返し繰り返しの中で、今回子どもたちを集中的に危険な目にあったものですから、これは私が直接言ってしっかり抗議しなきゃいけないなということで、きのう、きょう。で、きょうはこれから官房長官にお会いしますけれども、しっかり伝えたいと思います。
荻上:このあとすぐ菅官房長官に会われると思いますが、きょう特に話したいことはどういうことでしょうか?
翁長:一番は、そういった事件・事故において当事者能力が欠けている。その中で今回も米軍に厳重に抗議するという話ですが、今おかれている日本の立場というものについてね、(菅官房長官が)どういう風にお考えになっているかということ。それから普天間基地の5年以内の運用停止という約束がありますので、これについては全く前に進んでおりませんから。きょうは宜野湾市長もご一緒しますので、宜野湾市の市長からも5年以内の運用停止について話してもらって。これだけ危険な場所ですから。それから、時間があるかどうかわかりませんけれども、やはり工夫の仕方というものを、県が考えているものがあるものですから、県が考えている普天間基地の軽減策、これをやろうと思えばやれると思っていますから、このへんのところを提案して、是非やってもらいたいと訴えようと思っています。
荻上:従来、政府などは沖縄の基地負担軽減ということを口にしつつ、その中身というのは普天間から辺野古へというのが唯一の案だ、というスタンスを取っていますが、それに対する沖縄側の提案というのはどういったものになるのでしょうか?
翁長:前知事が了解をして、いわゆる辺野古の埋め立て承認をして、なおかつ政府のほうからは5年での運用停止ということがあったんですが、基本的には辺野古は順調に行っても10年かかるんですよね。埋め立てに5年、上部構造に5年。そうすると、10年間はいずれにしろ辺野古の基地は新しくできなかったわけですね。それだけで5年以内の運用停止をお約束したわけですから、基地が完成するまでに返さなきゃいけないんですよ、いずれにしても。
で、私の場合には美しい海と、それと戦後強制的に接収された普天間飛行場が老朽化したから、世界一危険になったから、さあ移そうとするんだけど、やっぱり沖縄県だと。沖縄県の美しいところというのは、秋田県でいえば十和田湖、滋賀県あたりでいくと琵琶湖、それから宮城県でいえば松島湾。そこらへんを215ヘクタールも埋め立ててやるもんですから、自然環境という意味では大変なロス。観光立県の沖縄からしても、美しい海がそれだけなくなるわけですから、こういったことなどを訴えて、政府の考え方を問いただしていくということになると思いますね。
荻上:環境問題として、沖縄としても声を上げていく。一方で例えば、軍事の専門家の方などが新しい提案をアメリカなどでもされて、要するに、ルーティーンで回していくことで、沖縄の軽減策を具体的に辺野古以外でもできるんじゃないかという案が民間からも出たりしています。これについてはどうですか?
翁長:数年といいますか、10年前からジョセフ・ナイさんというアメリカの上院議員、それからマイク望月さんというジョージワシントン大学の教授等々がですね、本来沖縄には地上部隊と、それから飛行機があるわけですね。だけれども、長崎のほうには佐世保とですね、海兵隊を送る揚陸艦、船があるわけですね。で、こういった風に2つ分裂しているもので。それから北朝鮮とか朝鮮問題の場合には海兵隊が一番そこに早く駆けつけていけるのは北九州のほうなので、むしろ沖縄の機能をそっちに持っていって、そして九州のほうで対応したほうが抑止力があるというようなことで。
ですから普天間は県外、それを九州のほうにということでですね、案が出てはいるんですが、しかし、佐賀県の飛行場が候補になると佐賀県の知事は反対しますよね。それから市長も反対する。むこうは市長と県知事が反対したらすぐに引き下がるんですけれども、沖縄県は全市町村長、全県会議員、知事もみんなでダメだという。
それから選挙でも知事選挙から含めてね、衆議院選挙、参議院選挙でダメだという人がほぼ100%当選してもね、沖縄県民の意思というのは問わないですね。それでも(基地を)置くっていうんですよ。だから本当にどちらのほうが抑止力があって、そして日本全体で安保を守るというね、安全保障を守るというためには、それぞれが引き受けてくれなければたった0.6%(の土地)に70%も米軍基地をおくというのはですね、これは同じ日本国民として、その割合に応じたものは、当たり前だけれども、こんなに70%以上も受け入れることになるとね、これはやっぱりおかしいのではないかと。
だから沖縄にいろいろおっしゃる方がいますけれども、自分たちの国は自分たちで守るというそれがなければ、やっぱり自立した日本にはならない。だから、都道府県47ありますけれども、それぞれに応じてね、日本という国を守るという気概を持ってやっていただかないと、自分たちの知らないところで基地が機能して、日本の安全が守られているというのはね、それはおかしいのではないかという風に思うんですよね。
荻上:今回、新しい基地を造らなくてもいい具体的な案というのも民間から出てきている中で、本当にフラットに様々な案を検討するということが、政府にも、それからいろんな都道府県をはじめとした国民にも求められるということなんでしょうか?
翁長:そうですね。ですから、全国の知事会でもその話をして、日米地位協定の改定っていうね、それも難しい話ですけれど、それはみんなで、変えなければ日本の自主独立はない、ということで、ほぼ全知事が一緒なんですが。ところが、それが沖縄の知事を負担を分かち合ってやりましょうということについて言うと、「わが県は・・・」という形でみんな駄目になっちゃうんで、全国知事会でもなかなか難しい。
その中で政府は、先ほど言いましたように、他の県の知事さんや市長さんが反対といったら提案もしないで去っていくというような感じですので、沖縄県しかないということで、唯一ということで、こればっかりしか言わない形で今やろうとしているものですから。沖縄県はいつまでそういう負担を受けたらいいのかという県民の素朴な感情があるものですから、いま政治的にも、それから県民の思いという意味でも、なかなか納得ができないということだと思いますね。
荻上:先の衆議院選挙では、日米地位協定の見直しを口にするような議員、あるいは候補者、政党というのもありました。今回の事故があったとしても、県としてあるいは政府として検証の限界があるという点もあります。日米地位協定についてはどういった提案をされたいでしょうか。
翁長:日米地位協定についてもいろいろな提案をさせていただいていて、17年前には沖縄県独自で1回申し入れて、それから渉外知事会といって47都道府県のうちの(米軍)基地のある15ぐらいの県が改めてみんなの意見を集約して注文をつけているんですね。
その中で沖縄県は今年、17年ぶりに日米地位協定の改定ということでですね、いくつか出しております。ですからこの刑事裁判権の問題もそうですけれども、それから日米地位協定に書かれている条文も、それから運用を管理する日米合同委員会というのがあるんですね。この日米合同委員会で書かれていることの運用、解釈をするんですが、これが国民にも知らされないまま不透明な形で運用されているものですから。
例えば、夜の10時から朝の6時までは、夜中は飛行機は飛ばないということになっているんですけれども、運用解釈ではどうなっているかというと、「できる限り飛ばない」ということになっているんですね。ですから2時間飛ぼうが、3時間飛ぼうが「必要だったんでしょ」と。「できる限り抑制はしていると思いますよ」と。夜中じゅう飛ぶ高江という部落がありますから、こういうところの人は子どもたちがですね、夜中に爆音みたいな音が聞こえますから。
こういったような状況なども、触れないものが日米地位協定、あるいはそれを運用管理する日米合同委員会。これは日本の官僚と米軍の司令官とかですね、そういった上層部が一緒になってやっているんですけどね。むしろこれの中で物事決まっていることが日本の法律、場合によっては憲法の上を行くぐらいの力を持っているので、日本政府は何も言えないと。言ったとしても聞き流されると。そのままでは、日本の自主的な独立という気持ちにはなれないのではないのかというのが私たち、日米地位協定の最前線にいる沖縄からは、日本のひ弱さがよくわかるんですね。
荻上:これはとてもわかりやすい不平等協定であると同時に、自治権の侵害にも当たると思うんですが、ふだん不平等さであるとか、海外との対等な交渉、あるいは日本の自治ということを主張する「保守」と名乗る方が、沖縄の問題に関しては不寛容であるとか、あるいは共感を示さないということも実際にはあると思うんですが、その点についてはどうお感じでしょうか?
翁長:本土の「保守」の政治家が沖縄に関心を示さないということですね?だからいわゆる米軍基地というものは、その意味でいうと他の都道府県でも受け入れがたいものなんですね。で、沖縄に置いておいた方が大変便利である。72年前の戦争のあの地上戦も本土防衛のためにいくらかでも、本土を米軍が襲うために沖縄でいくらか止めて、沖縄で消耗させようとしたものですから、沖縄県民は日本の軍部と一緒にね、地上戦を戦って、ひめゆり部隊などは看護師となって。看護師っていってもやったことないのに、負傷した兵士を助けながらやったから、(日本側全体で)20万人も死んだというようなことがあるわけです。その後27年間米軍に支配されて、そして復帰をしての今日の中で基地が固定化しているんですね、強制接収で。
日本全国にあるような米軍基地はですね、もともと日本軍の基地なんですよ。だから基地が基地に変わったんですね。沖縄の場合は基地がないところにですね、戦争が終わったんで今ある基地は全て強制接収なんですよ。強制接収をされて基地ができたもんですから、収容所に1年間入れられている間に。
沖縄県の住民はね、収容所から解放されて帰ってみたら、普天間飛行場ができていた、嘉手納飛行場ができていた。自分の家はそこにある、市役所もそこにあったというような中でそこに住むことができないものですから、基地の周辺で生きていく以外なかったわけですよね。そして、農業にしろ何にしろ、生産手段は全部爆弾でやられていますから、その意味でいうと基地で働くしかないわけですよ。今までは自分たちで生計を立てておったものが、そういった生産手段もなくなったので、米軍が朝鮮戦争など含めてね、どんどんどんどん基地を拡充していく。沖縄に基地を作るお手伝いをするということが生活の糧になっちゃったものだから、大変誤解も生んでね、ややこしくなっておりますけれども。
だからこういったような沖縄県が置かれている状況で、沖縄県民は基地に慣れているだろうと。基地があってもあまり気にしないだろうということが、本土の方々が思っている可能性がある。それから、まだ基地で沖縄県は生計を立てている、と思っているんだと思うんですが、それが大間違いだということをね、きょう、もし時間があったら説明させていただきたいと思っていますけどね。
荻上:基地が存続する、例えば関連の商業などは全体の沖縄経済の中でもごくごくわずかだという指摘もされていますよね?
翁長:戦争が終わって、いわゆる生産手段が全て破壊されたときの沖縄県のGDPに占める基地経済の割合というのは50%でした。それから約27年間経ちましてね、復帰をするときには50%から基地の(経済規模の)大きさは15%。経済の効果がですね。で、今は5%まで下がっているんです。そして、基地が返還されますとね、那覇市の新都心みたいに、いわゆる米軍の住宅地域が新宿の新都心みたいにですね、うんと栄えてくるんですね。
ですから、税収にしても、経済効果にしても、雇用にしてもですね、30倍から100倍になるんですよ。それぐらい基地が返されたら発展していくという状況が、戦後70年経って出てきてているものですから、「基地で沖縄県が食べている」というものはですね、ほとんど死語になっているんですね。
むしろ基地がなくなったほうが沖縄の経済が発展して、観光も、物流も、情報通信産業も、アジアを中心として大きく発展してきていますので。そういった誤解が解けないまま本土の皆さん方が、基地があるから生活が楽なんじゃないの?というようなことが、大きな誤解だということを是非ご理解いただきたいと思いますね。
荻上:また、今回のような事故が起きた場合に「普天間に基地があるから」ではなくて、「基地のそばにわざわざ住むことを沖縄県民が選んだのだから自業自得だ」と言わんばかりの、告発を無効化するような発言がいろいろなネットの書き込みなどでも出てくるわけですが、これについてはどうお感じでしょうか?
翁長:これも先ほど申し上げましたけどね、日本全体にある米軍基地はもともと日本軍の基地が米軍の基地に変わって、県民や国民の土地が基地に変わったのではないのですよね。沖縄県の場合はもともと基地が何にもない場所で、戦争が起きて米軍が占領したものですから、沖縄県の戦争というのは大変な戦争ですから。ほとんど爆弾でやられて、今でも不発弾の問題が解決するためにあと70年かかるというぐらいあるんですが、その普天間の飛行場も嘉手納の飛行場も、沖縄県の住民は戦争が終わってから半年から1年は収容所に入れられていましたから、収容所に入れられている間に銃剣とブルドーザーといいますか、農業だったり、ちょっとした建物を全部倒して飛行場に変わったんですね。
で、飛行場に変わったらどうなるかというと、収容所から帰ってきて家に帰ろうとしたらもうそこはフェンスが敷かれて「普天間飛行場」、「嘉手納飛行場」、それ以外の基地になっているものだから帰れない。帰る場所がないものですから、自分の元の土地があったところの周辺にみんな住むようになったから基地の周りに沖縄県民が住むようになったんですね。決して、基地が沖縄県民の生活を支えるからその周辺で飯を食おうということではなくて、帰るべきところがなくなっちゃったので、じゃあなくなったときにやはりそれでも自分の家のあったところに住みたいというのは、それから沖縄県はほとんどが基地ですので、他のところに行っても基地がある話ですから、そういったような意味からすると米軍基地の周辺でね、住む以外にはなかった。そして、朝鮮戦争である意味で極東の安全ということでですね、沖縄からどんどん米軍が、爆撃機から何から行ったわけですよね。そうするとそのための飛行場の建設がやられる。
つまり、ある意味では、日本国を守るために沖縄県民は自分の土地も差し出してね、基地の建設にも携わったという意味では、大変忸怩たるものがあるですね。厳しい環境を強いられてきたという思いですね。
荻上:そういった歴史的経緯をすっ飛ばして、「住んでいるから自己決定、自己責任だ」というような切り取り方が起こっているのは、歴史に対する理解が行き届いていないということになるわけですか?
翁長:大変さびしい話ですけどね、沖縄県が日本国の一員になったのは1879年。ですから、ペリーが日本にきたのは浦賀になっていますけれども、本当は琉球のほうに6回も来て、85日間も滞在して、そこから浦賀に行ったりしているんですね。ですが、歴史の中にそれがない。ですから沖縄県は日本国民の一員となってですね、まだ130年ぐらいですね。
その中での色んな出来事、文化の違い、いろんな言葉の違いがあったりする中で、72年前の戦争を迎えて。その後はサンフランシスコ講和条約で沖縄は切り離されて、日本国の独立と引き換えに沖縄県は米軍に差し出されたわけですよね。僕は法政大学の出身ですけれども、ずっとパスポートで行っていましたから。沖縄に帰ったらドルですからね。そして、日本国憲法の適用もないし、アメリカの憲法の適用もないわけですから、そういったような人権を守るものがない中に沖縄は過ごしてきて。
そして本土復帰という形でやるんですが、その流れの中で何か、沖縄は遠いところでもあるし、そこで「便利に日本を防衛してくれるんだったらその方が良いのではないか。文句を言う沖縄は何だ」というのが少しでもあるとするとね、大変残念な、日本国の包容力と言いますかね、アジアの盟主としてアジアと一緒に力をあわせてがんばっていこうという日本の国のあり方がね、国内の1県に対してそれだけの基地を押し付けておいて、それをまた批判をする。「こんなに大変ですよ」といったら、「何を言っているんだ。お前たちが引き受けるんだよ」と言ってね、そういうような状況があること自体が、やはり日本という国の民主主義としての、あるいは地方自治としての、成熟度合いが問われるんじゃないかと思いますね。
荻上:つい先日、昨日ですけれども、東京MXテレビの放送(「ニュース女子」)についてBPOが報告書を出しました。その内容は、放送に対する非常に厳しいコメントがつけられていたわけですけれども、その放送内容というのは、沖縄について誤解を拡散するような放送内容だったと思います。
具体的には例えば、反対運動をしている人たちはまるでテロリストで、雇われた人や外国人が混じっていて沖縄の民意ではないと。沖縄の大多数の人たちは、その基地については反対の声は聴かないという意見であるとか。あるいはそうした反対運動に県警などが取り締まるのが消極的なのは知事が基地に反対派であるから、そうしたものに対しての動きが鈍いんだという意見が拡散されました。こうした放送の中で言われた意見に関してはどう感じられますか?
翁長:それもやはり歴史の過程も話をさせてもらいましたが、大変さびしい話でね。基地の周辺で、基地の周辺で反対運動をしてる人のほとんどがですね。戦争を経験したか、あるいは戦争でほんとに苦しい思いをしたお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんから、戦争の悲惨さを聴いた中で、基地がこれ以上あったらいかんということですね。みんな言ってる話でありまして。これが非難されるというのは、本当にある意味、日本国民として残念な想いですね。
で、私が基地に反対しているからということで、翁長知事は中国のスパイじゃないかとかね。(私の)子どもたちは中国人と結婚したり、それからひとりは留学してるらしいとかね。こんなのがインターネットで流れていくと止めようがないんですね。
うちの娘2人は、中国には1回も行ったことがないんですよ。で、私などが中国に行くのは、昔から自民党も社会党とか関係なく、隣の国は台湾にしろみんな姉妹都市というのがあるんですね。その姉妹都市の延長線上で5年に1回行き来をするというのが、もう沖縄県でも、長崎県も長崎市もみんなそういう交流をしてるんですよ。爆買いで中国の観光客が来るの、みんな歓迎してるでしょ?
そういったものと少しでもわたりをつけると、沖縄だけはね、中国と裏で結んでるに違いないなどというね。こういうヘイトスピーチいうか、そういうものが流れていくので、その量がまあ恐ろしい量でね。なんで日本という国がこんなに変わったのだろうかと思うくらいね。それぞれ弱いのを見つけてはね、たくさんのネットがね、流れていくということについては、これから先の日本の国のあり方というようなことを含め、真剣に考える必要があるんじゃないかなと思います。
荻上:中国と繋がっている。あるいは、実は左翼であるみたいな言い方を一言添えさえすれば、もはや具体的な内容を吟味しなくても反論が終了したかのような、あるいは共感を示さなくていいかのような態度というのが一部で広がってしまっていますね。これについてはどう思いますか?
翁長:そうですね。私は自民党県連の幹事長もして、それで沖縄県で右と左がやり合っていてもこれは問題解決しないということで、みんなで力を合わせてね。日本の地方自治と民主主義、それから沖縄の基地問題を解決しましょうよ、ということで。ある意味では、沖縄の保守として、日本全体の保守というのは、やっぱり日米安保体制が全てですから。日米安保体制に少しでもイチャモンをつけると許されない、というのが日本全体の保守の一番大きな価値観のベースになっていると思います。
沖縄の保守は何かと言うと、その日米安保体制に理解を示しつつもですね、なぜたった0.6%の面積にね、70%以上も米軍基地を押し付けて72年間、それで老朽化した、あるいはまた世界一危険になった普天間をね、なんとかしようという中でもね、やっぱり沖縄県内でね、美しい海を埋め立ててね、そこに新しい基地を作るんだというふうに変わっていくわけですね。
ですからそういったようなものと考えると、私は、沖縄の保守と日本の保守の違いは、日本の保守というのは安保体制がすべて。他の国々とのいろんなものでね、アメリカを中心にしてね、もうアメリカだけが頼りっていうようなものがあります。で、その部分は、重要性はわかりますよ、私も。だけど、それなら日本の国をしっかり守るためにはね、抑止力のあり方から含めてね。日本国民全体がその想いを持ってやらないと。自分の目の見えないところに基地を置いといてね。勇ましい言葉をね、自分のふるさとでね、「あれは許さん、これは許さん」という形でね。やるのはね、やっぱり一人の人間の生き方としてどうだろうかと。やっぱり同じ想いでね、やる分には沖縄県民は何にも文句言ってないんですよ。
極端な話、普天間飛行場を返せというと、なんか沖縄の基地を全部返せと言っているような感じがするでしょ?普天間飛行場が返って、嘉手納以南が返還されて、どれだけ返還になるかというとね0.7%なんです。いま70%台ですから、これが70%くらいにしかならない。うそだろと、普天間が返るんだったらほとんどが返るんじゃないの?とほとんどの人が思ってるかもしれませんけれども、0.7%なんです。それはなぜかというと、嘉手納以南の米軍基地もどこに移すかというと、それ以外の基地もね全部沖縄なんですよ。それから、普天間飛行場も辺野古を埋め立てて作るわけでしょ。だから、少ししか減らないんですね。
で、嘉手納を僕ら出てけと言ってる訳じゃないんでね。それを少しを捉えて、沖縄県民は全部の基地に反対してるという話になってる。たった0,7%に反対してるんですよ。これだけは勘弁してくれと、72年間経つから、もうこれぐらいだけでもね、九州であったり、あるいは国外であったりね。どこでもいいから無くしてくれというのが、今の沖縄のわたしを中心とする人たちの考え方であって、ここのところをもうほんの少しの知識でね、沖縄は基地全部に反対してるの?中国のスパイじゃないの?とかね、そんなようなね「沖縄出ていけと言ったって、僕らの生まれ育った何百年何千年という住んでたところから出ていけという権利が誰にあるのか、と言いたいところではありますが。
まあしかし、ぼくら別にケンカするつもりで基地問題を扱っているわけじゃありませんから、日本全体が日本国がやっぱり民主主義の冠たるものとしてアジアのね、リーダーになってもらいたいし、それから日米安保体制も品格のある、だって民主主義とか人権とか平等とかっていうのを守るために、日本とアメリカが一緒になって、そういう価値観を持たない国に対してね、対峙してるわけだから。自分の国の国民とか県民にはね、そういった民主主義とかね、地方自治とかね、人権とかね、みんな守るようにしてはじめて、その安保体制の品格が生きてくるわけですから。
だから、こういう見方をすると、沖縄の置かれている環境はやはりおかしいと。だからここのところをしっかり理解をしていただいて、そのために日本という国が安心安全で、どこからも侵略もされることなく、そして一人一人が気概をもって日本の国を守っていく。そして、また同じ価値観をもつ国々が増えていって、世界が平和になるように、というようなことに沖縄県が貢献をする。
沖縄問題の解決なくしては日本という国が変わりません。なぜかというと、今回は保育園とか小学校に落ちましたけど、住宅街にもっと恐ろしいのが落ちてくるかもしれないでしょう。そうすると、沖縄で米軍基地を支えるというのはね、機運が萎えてしまって、全くできなくなりますから。やはりその意味での節度ある対応をしてもらわないと、長い意味での日米安保体制もですね、危ういものになるのではないのかなと、こう思っているわけですね。
荻上:押しつけの反対、主権自治をしっかりと維持する、それと郷土を愛する。こうしたロジックというのは本来どの保守も口にはずなんですが、沖縄だけが例外状態に置かれていると。そうした沖縄に対する誤解があるということで、今、沖縄県からも色々誤解を解くための情報発信されていますね。この放送は主に首都圏の放送なわけですけども、こうした方々が沖縄のことをより知りたいと思ったときに、どういったことをまずは調べてほしいと思いますか?
翁長:首都圏というとね、米軍基地と関係ないような感じをみんなもっておられると思うんですね。(東京都には)横田基地がありますね。米国が基地を置いているところは世界で100か国ありますが、首都圏に米軍基地があるところというのは日本だけなんですよ。ですから羽田から飛行機が飛んでいくときにはね、上空は全部米軍の管制下におかれているもんだから、飛行機が飛んでいくときに急カーブして飛んでいくのはわかりますかね。あれば米軍の管制的なものを避けて飛ぶからそうなっているんです。
そして都心にも赤坂の周辺にですね、2か所ヘリコプター基地があるぐらい、つまり無縁ではないんですね、東京都もね。で、なおかつ沖縄県にある基地の大きさっていうのはどれくらいかっていうかとですね、東京23区の13区分。それも沖縄本島だけですよ。宮古・石垣・西表にはありませんからね。沖縄本島に110万人住んでいますけども、110万人住んでて、23区並みの人口過密度なんですけどもね。そこに東京23区の半分以上の面積の基地が点在しているんです。だから今、23区がありますよね。何かがあって、あの23区の中の半分以上がですね、米軍基地があると思ったらですね、区全体が基地になるわけですよ。新宿だったり世田谷だったり。
これが13区くらいがまるごと米軍基地になるわけですから、これくらいのものを支えているんだとうことをね、首都圏のみなさん方にはね、ご理解いただきたい上に、決して首都圏の人は米軍の人とは関係なく生きているのではなくて、横田基地という大きなものを抱えていますよ、ということをですね、目の前に現れないからわからないのであって、その辺のところをですね。関心を持ってもらいたいなと思いますね。
そういうことで、いろいろフェイクニュースもあるものですから、大量に流されているものですから、沖縄県として「Q&A Book」というものを作っています。本土の方々がいろいろ誤解されてることがたくさんあるんですね。何もなかったところに米軍基地が出来て、その周りに人が住んで、沖縄の人は生活が豊かになったんじゃないですか、とかね。それから環境問題とか、日米地位協定の問題とか、これも誤解がありますので、30分もあれば読んでご理解いただける本を作っていますので。それからホームページでも沖縄県の方から発信していますから、ぜひ、ご覧になっていただいてですね、日本の安全保障の問題と、それから国民1人1人のそういったものへの生き方としての気構えといいますかね、そういったことを学んでいただきたいと思います。
チキ:わかりやすい過激な論調が独り歩きしがちな現代だからこそ、こういった資料や実際の当事者の声により耳を傾ける機会を作ることが大事だと。
翁長:そうですね。やっぱり事実関係を100%とはいわなくても、普通の国民はね、一定程度ご理解いただいたうえでの今のお考えだったらいいんだけど、間違った情報でもってね、それでもってね厳しい激しい言葉でねポンポン、ポンポン人に投げかけるっていうのは、これは私は国民としても人としてもどうなのかと。本当の意味での素晴らしい日本にするには、国民全体がそれぞれの立場に理解を示しつつ、発信をしていくということが大切だと思うので、その辺のひとつの糧にね、この沖縄の「Q&A Book」というのを読んでいただければありがたいなと思います。
チキ:わかりました。翁長知事ありがとうございました。
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