湯山玲子の“現代メンズ解析”

「懐に鋭利なナイフを常にしのばせていたいという気持ちはある」ウエンツ瑛士が心にともす“炎”

  • 湯山玲子
  • 2017年12月12日

  

 男のカッコよさって何だろう――。簡単なようでいて実に難しい問いです。

 かつては「学歴」「出世」「カネ」「権力」などが“イケてる男”の証しとされていました。それらをもつ男性は、同性から一目を置かれ、女性からの人気も高かったのです。

 そこから時は流れ、今では男性のライフスタイルも多様に。ヒエラルキーのトップに近づく生き方が必ずしも魅力的に映らない時代になりました。それと同時に、多くの男性が「生き方の指針」や「理想の男性像」を探しながら迷っている時代ともいえます。

 そこで、今輝いている男性の話に耳を傾けながら、現代的なオトコの魅力について考えてみたいと思います。

 この企画のナビゲーターを務めるのは、著述家、プロデューサーの湯山玲子さん。湯山さんに、今の時代を象徴する男性を選んでいただき、その魅力に迫っていただきます。

 トップバッターとして指名されたのはウエンツ瑛士さん。子役としてキャリアを重ね、今ではテレビ番組の司会からミュージカルまで多岐にわたって活躍されています。そんなウエンツさんの魅力を探るべく、まずは仕事観について語り合っていただきました。

同調圧力や古い慣習に疑問も ひそかに燃やす心の炎

  

湯山玲子(以下、湯山) まず、なぜ私がウエンツさんを尊敬するに至ったかを説明しますね。2017年9月末まで、ウエンツさんとは「スッキリ」(日本テレビ系)の“同僚”だったんですよ。完全にテレビタレントに軸足を置いている方だと思っていたのですが、ミュージカルの舞台に出演されるというので、観に行ったら、それが素晴らしかったんですよ。難しい演目でセリフ量も多く、歌や踊りもふんだんにある役柄をこなしている。

 でもそういった苦労なんかは、もちろん「スッキリ」の現場ではおくびにも出さない。出演の合間にミュージカルに関していろいろ話すと、非常に“教養強者”でもある。ウエンツさんは子役から芸能活動をしてきたでしょう? 仕事とは自分にとってどういう存在でした? 年とともに変化していったと思うんだけど。

ウエンツ瑛士(以下、ウエンツ) “仕事”と思って捉えたことは一度もないかもしれないですね。俺にとって、親に与えられたこの体と心を死ぬまでにどれだけ伸ばせるか、というのが人生の目的であって、仕事はそのためにやっていることのひとつ。そこに、たまたまお金が発生しているから仕事と見なされているだけで、お金が発生しなかったとしても、捉え方に差はないと思います。

湯山 なるほど。日本って同調圧力が強いですよね。限りなく“普通”とは違う道を幼いころから歩んできて、長い物に巻かれそうになったことはないですか。

ウエンツ もともとタイプ的には「巻かれたい」と思うほうです。ただ、これまで敷いてもらったレールが一般的ではなかったので、結果的に本来の自分になかった感覚も鍛えられたと思います。今では同調圧力というものに対して感じる自分の思いに誠実でいるほうが難しいですね。

ウエンツ瑛士(うえんつ・えいじ)/俳優、タレント、歌手。1985年生まれ。東京都出身。4歳からモデルとして芸能活動を開始。NHK教育テレビ『天才てれびくん』・『天才てれびくんワイド』にレギュラー出演。俳優として活動する一方、小池徹平とのデュオ「WaT」として歌手活動も行うが、2016年2月12日解散。近年はバラエティ番組の司会業やミュージカルの主演など活動の幅を大きく広げている。

湯山 どういうこと?

ウエンツ 上の世代にはしきたりや暗黙のルールがあるじゃないですか。そういうものに対して僕らの世代は「おかしくない?」と疑問を持つことが多いと思います。その思いをねじ曲げずにいられるか、いかに自分の本心にウソをつかないでいられるか。そこが難しい。

湯山 それはうまくやれてると思う?

ウエンツ うーん、どうですかね……(笑)。まあ、人前ではその炎をおさめるけど、自分の中では消えてないことを確認できるようにはしています。

湯山 そうか。心に燃え上がってしまう炎は「無いこと」として飼い慣らすのではなくて、自覚して制御するんだ。

ウエンツ そこで屈して、火を消して仕事するのは、なかなか難しいんじゃないかな。それはほかの職業でも同じだと思いますけど。

湯山 でも、この国で生きるには、火を消したほうがラクでトクなんですよ。特に会社員は心の中の火が燃えさかっているようじゃ、出世もおぼつかない。どうしてウエンツさんは心の炎を消さないほうがいいと思うようになったの?

ウエンツ 一般の友だちを見て、気付かされたんです。そいつらはアパレルやネット系など芸能界と比べると自由な業界にいるから、それに比べて自分は良くも悪くも古いしきたりに縛られていると感じることが多い。とはいえ、しがらみのない自由さもどこかしんどく感じてしまって……。結局、自由な場に身を置いて火を消してしまうよりは、戦っているほうが楽しい部分もあるなと思ったんですよね。戦っているとはいえ、上の世代には感謝の気持ちもありますし。

湯山 なるほど。

ウエンツ 上の人たちを見て、間違いを指摘するのは簡単じゃないですか。そうじゃなくて、間違っていると思いながらも、彼らが生きてきた道や実績を尊敬したい。心の中の火を消しちゃうとそれも一緒になくなって、むしろ対立することもあると思います。

湯山 考えてみれば、火を消してしまったタイプの人は、下の世代の心の中の「火」を絶対に許さないかもね。燃えてるやつが気に食わなくなるし、火を消さなければいけなくなったシステムに対する恨みが多くなっちゃうんですよ。実はこれ、企業病のひとつ。会社の悪口を言いながら、会社の儲けのタネを潰していくという精神風土が育っていく、という。

ダサい!? 今も信じる“ライバル”の価値

  

ウエンツ 僕は友だちだけでなく、先輩にも恵まれているんです。例えば昔から仲良くさせてもらっている爆笑問題の田中(裕二)さん。人生経験が豊富なのに口には出さず、聞いてもサラッとしか言わない。かっこよすぎてしょうがない。

湯山 ウエンツさんが思う「かっこいい男」ってどんな人なの?

ウエンツ 今田耕司さん、田中さん、ヒロミさんかな。共通しているのは、40代、50代でも20歳以上年下の人間を“後輩”と見なさず、一人間としてフラットに接してくれるところ。偉ぶることなく、でも豊かな経験と知見をしっかり持っている。自分が同じ年齢になったときに、どうしたらそういう大人になっていられるのだろうって思いますよ。

湯山 今、“男らしさ”の在り方が転換期を迎えていると思いますが、ウエンツさんは昭和的な“男らしさ”を信じている部分はありますか。

ウエンツ “ライバル”が自分を高めてくれる、という考え方は信じています。職種が違っても友人から「こんな仕事をしてきた」「今こんなふうになっている」という話を聞くと、悔しさを感じる。そういう感覚、女の子は「ダサい」と言うかもしれないですけど。

湯山 そういうところはオヤジ世代も共通にありますね。王VS長嶋の感覚。

ウエンツ 自分が30代に入ったから、というのもあると思います。友人たちも仕事のステージが上がってグッと力を入れ始めているし、結婚して子どもが生まれて変わるやつもいる。やっぱり同世代からは誰であっても刺激を受けます。

湯山 悔しさっていうのはどのへんに感じるの? 他人の成功?

ウエンツ “成功”ではないですね。一歩踏み出しているところです。踏み出すのって勇気のいることだけど、その分、結果に関わらずいい経験ができる。そこが悔しい。逆に、大きな成功をおさめていても、チャレンジをせず、普通のことをしているだけなら羨ましさは全くありません。

仕事に芽生える自信 実績の大小は関係ない

  

湯山 逆に、オヤジ世代の“男らしさ”で信じていないことは?

ウエンツ 先輩後輩の関係性ですかね。バカバカしいところまで行っちゃうのは好きじゃない。礼儀は必要だと思うけれど、「何日かに一回飯に誘え」とか「連絡は下から」とか……。折り返しくらいは先輩からかけてくれてもいいでしょう、それは礼儀ではなく意地でしょう、と思う。ただ、俺はずるくて、バラエティタレントにも役者にも軸を置いていないので、そうした関係に巻き込まれることはほとんどない。“本業”が決まってませんから。

湯山 そこが、先ほどの心の中の「火」の部分ですよね。やっぱり自立してますよね。そりゃ、自分の名前で立っているわけだから、当たり前か。一般に、日本の男性は所属、命なんですよ。群れることで安心し、自立どころか組織に対しての滅私奉公に快感を感じる。若い世代は違って見えるけれど、自由に自分の力で活動するよりも、集団に所属してその力を頼りにしたいというモードは変わっていないと思う。ウエンツさんのように自分の位置を自分で定めて全方位に付き合っていくことはなかなかできない。

ウエンツ 僕ももともとは内気だったんですよ。だから自分ひとりで人と対等に渡り合うのは苦手だったんですが、今それができるようになったのは自信がついたから。仕事に自信がついてからは、どこに行っても恥ずかしくなくなったし、怖くなくなった。

  

湯山 なるほど。

ウエンツ 今でも言われるんですよ。いわゆるサラリーマンじゃないから、自分の肩書もないし、「何者?」って。でも、自分はこれだけやってきた、という自信と実績があるから、それが外から見て小さかろうが大きかろうが関係ない。そう思えるようになるまで本当に時間がかかりましたけどね。

湯山 ミュージカルも最初はそうだったんじゃないかな。ウエンツ瑛士という人気者の名前があるから、それだけで成立すると思われるわけじゃないですか。

ウエンツ 思われてましたね。

湯山 だけどそれでは自信にはならないよね。

ウエンツ 「名前だけ」と言われるのは嫌ですし、子どものころからバレエ、ダンスを続けてきた役者さんがたくさんオーディションを受けていることも知っています。俺も子役のころは何百、何千というオーディションを受けてやっとテレビに出ていたから。

 そういう方たちにバックで支えていただきながら、自分はたいした経験もないのに歌ったり踊ったりすることの恥ずかしさが、3年前の初舞台のときは大きかった。それで千秋楽では舞台上で泣いてしまったんです。できなかったらできるようになるしかないでしょう。

湯山 「できなかったらできるようになるしかない」、ホントにそうなんですよね。その努力ができるか、どうか。「スッキリ」でもコメントの質がどんどん上がりましたから、さぞ影で勉強しているんだろうなと思ったことがあった。

ウエンツ 情報を幅広くインプットすることはもちろんですが、しゃべり方が難しいんですよね。テレビ用にしゃべることが。

湯山 短い時間で、どんな質問の球が飛んでくるかわからない。

ウエンツ しかも、キャッチボールじゃないんですよね。一球だけ投げることの難しさ。

湯山 そうなんですよ。昔だったら、タレントは当たり障りないことを言えばよかったけれど、この2、3年で変わったように思う。コメントに個人的な“角度”をつけないと視聴者が許さない、という。

  

ウエンツ 湯山さんや(ロバート)キャンベルさんのように実績とバックボーンがある方と並んで、自分が出る意味はなんだろうと思ったときに、ある先輩から「視聴者のはけ口になればいい」と言われたんですよ。確かに、バラエティ番組はそう。リラックスしているときに見る番組ですし、俺は「こいつバカだな」と指差して笑われる位置にいなければならないと思う。

 でも、コメンテーターとしてもそのポジションになればいいと言われたとき、腑に落ちた部分と疑問を感じた部分があるんです。いらないプライドなのかもしれないですけど、日本の将来や政治経済について話すとき、「『こいつバカだな』と指を差される位置でいいのかな?」という自我が出てしまって。

湯山 ある種のポジション・トークをするのは嫌だったんだ?

ウエンツ 嫌だったし、バカなコメントをすることで、テレビ以外の仕事、例えば舞台の演技の質も下がるんじゃないかとか、すべての仕事に波及してしまうんじゃないかと感じたんです。

湯山 世代を背負って立たねばならないという責任もあるんじゃないですか。

ウエンツ そうですね。「投票率が低い若者」という同じ分類で片付けられるのも嫌。一生懸命生きている人間を知ってるから、そいつらに申し訳ない。年を重ねてから「あの時なんであんなに尖ってたんだろう」と振り返るのかもしれないけど、今はやっぱり懐に鋭利なナイフを常にしのばせていたいという気持ちはありますね。

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(文・ライター 安楽由紀子、撮影・小島マサヒロ)

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PROFILE

湯山玲子(ゆやま・れいこ)

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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