米ディズニーのフォックス事業買収 競争環境の変化映す
米映画・娯楽大手のウォルト・ディズニーが、メディア大手21世紀フォックスの事業の大半を524億ドル(約5兆9000億円)で買収することに合意した。両社は、買収により、急激に変化するメディア業界で、競争力を高められると述べた。
ディズニーはフォックスの映画スタジオやテレビ番組部門のほか、英衛星テレビ局「スカイ」の39%の株式などを買収する。一方のフォックスは、残りの事業部門で新会社を設立する。
半世紀以上メディア事業を拡大させてきた、フォックスのルパート・マードック会長(86)にとって、今回の買収は大きな転換となる。
マードック氏は21歳のとき、父親からオーストラリアの新聞社1社を譲り受け、その後世界的なニュース・映画会社を築き上げた。
マードック氏は、ネット広告や動画をネットで有料配信する新興勢力との競争が高まるなか、事業分割は正しい決断だと述べた。
マードック氏一族などフォックスの株主らは、ディズニーの25%の株式を取得する見込み。
マードック氏は14日、投資家たちとの電話会議で、「今日の発表を受けて、次なる偉大な、新しい道に進む」と強調した。
マードック氏はその後、「後退しているかって?それは絶対にない」とも話した。
ディズニーが買収するのは?
ディズニーはフォックスの映画スタジオやテレビ番組部門、一部地域のスポーツ放送網や海外事業などを手に入れる。
ディズニーは映画「スター・ウォーズ」の旧3部作やアメコミ「マーベル」のスーパーヒーロー作品、「アバター」、「デッドプール」のほか、人気テレビ番組「モダン・ファミリー」や「ザ・シンプソンズ」などの興行収入の大きな作品を持つ。買収により、さらにヒット作が加わることになる。
テレビではフォックスの米国の有料放送番組「FX」や「ナショナル ジオグラフィック チャンネル」、地域のスポーツ放送網も手に入れる。
また、メディア会社「スター・インディア」やフォックスが持つ衛星テレビ局「スカイ」や「タタ・スカイ」の株式を得て、海外事業を拡大する。
さらに、動画配信「Hulu」(フール―)の経営権も取得する。Huluには米ケーブルテレビ最大手「コムキャスト」や米メディア大手「タイム・ワーナー」も一部出資している。
ディズニーは買収合意の一環で、フォックスの負債137億ドル(約1兆5400億円)を引き受けるため、買収総額は660億ドル(約7兆4000億円)を超える。
ディズニーが買収する理由
ディズニーはすでに、ニュースや映画、娯楽企業を数多く傘下に持っている。しかしメディア業界は、アマゾンやネットフリックスなどのIT企業が新たな視聴方法で消費者を引きつけるなか、大きく変わりつつある。
ディズニーは、有料テレビ事業の落ち込みや新興勢力の攻勢に対抗するため、ネット動画配信への投資を拡大している。
同社は買収を通じて、規模を拡大し競争力を高め、買収後はコスト削減で「少なくとも」20億ドル(約2240億円)を捻出すると見込んでいる。
マードック一族が所有する英紙サンのデイビッド・ヤランド元編集長はBBCに対し、買収により、ディズニーはカリフォルニア州の大手IT企業に対し、優位に立つことができると語った。
「10年後には、大手中国企業2社と大手米企業4社がいて、(既存の娯楽企業のうち)生き残るのはディズニーだけだろう」
フォックスは、ニュースや主要スポーツ・イベントの生中継などに焦点を当てた、小規模の会社を米国に設立している。
フォックスの主要チャンネルと言える以下は手元に残す予定だ。フォックス・ニュース・チャンネル、フォックス・ビジネス・ネットワーク、フォックス・ブロードキャスティング・カンパニー、フォックス・スポーツ、フォックス・テレビジョン・ステーションズ・グループ、さらにスポーツ・ケーブル・ネットワークのFS1やFS2、フォックス・デポルテス(スペイン語スポーツ放送)、ビッグ・テン・ネットワーク。
ルパート氏の息子で21世紀フォックス会長のラクラン・マードック氏は、「統合後の事業で重要なのは規模だが、新生フォックスで重要なのは、自分たちのルーツである、無駄が削ぎ落された、積極的で挑戦者的なブランドだ」と語った。
今回の買収で、フォックスがニュース事業に再合流するチャンスが生まれるとの憶測が流れている。フォックスは2013年、英国での電話盗聴事件を受け、ニュース事業を分社化している。
これにより出来たのが、独立した新聞・出版グループ、ニューズ・コーポレーションだ。同社は、英国紙のザ・タイムズやザ・サンを傘下に置き、マードック氏が引き続き経営している。
ルパート・マードック氏は、フォックスはこうした可能性を視野には入れておらず、そのような動きがあるとしても「ずっと先」の未来だと話した。
買収取引の一部として、フォックスの株主は、規模が拡大されたディズニーの約25%に相当する株式を受け取る。
スカイにとって何を意味するか
英国では、フォックスは放送局スカイの未保有株を買収しようと動いているところだ。しかし買収規制当局の英競争・市場庁(CMA)が調査を行っており、CMAは来年1月に暫定的な調査結果を発表する予定だ。
今回のディズニーのフォックス買収はCMAの調査に影響しないとみられることが、BBCの取材で分かった。
スカイ買収が承認されれば、おそらくディズニーによるフォックス買収よりも先に手続きが進むことになるだろう。そうなると、スカイ全体がディズニー保有となる可能性が高い。
買収が承認されなかった場合、フォックスが現在保有しているスカイの39%だけがディズニーに渡ることになる。
ルパート・マードック氏は、「うまくいかなかった場合、既存の(スカイ)株式は、ディズニーに渡る。それをどうするかはディズニー次第だ」と話した。
いずれにせよスカイの未来は、第一にディズニーの手中に委ねられることになる。
マードック家自体はどうなるのか
事態の行方を観察していたほとんどの人たちは、ルパート・マードック氏が、自身の巨大なメディア帝国を息子たち(ジェームズ氏とラクラン氏)に譲るだろうとみていた。
そのため、分割という決断はちょっとした驚きだった。
新生フォックスの経営陣については、今も協議中だ。しかしルパート・マードック氏はスカイに対し、長男のラクラン氏が最高経営責任者になるのを望むと話した。
ジェームズ氏については、ディズニーで上級の役職に就任するだろうと多くが予想している。
ディズニーのロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)は14日、両社の統合にジェームズ氏も関わると述べた。アイガー氏は、2021年末までディズニーの指揮を執ることが決まっている。
将来に関しては、「当社にジェームズ氏の役割があるか否かについて、彼と一緒に今後も協議を続けるが、私は話し合いを楽しみにしている」と語った。
規制当局は認可するのか
両社は、取引が1年~1年半以内後に完了する見込みだと話した。
しかし、映画やスポーツ関連のメディア産業の統合を進めることになる今回の買収が、米国の規制当局に受け入れられるか否かははっきりしない。
米司法省は11月、米通信大手AT&Tによるタイムワーナーの854憶ドル(約9.6兆円)での買収を阻止するため訴訟を起こしている。消費者や競争相手にとって料金の値上げにつながるというのが理由だ。
ディズニーとフォックスの統合も同様に、当局が認めない可能性があり、その場合、ディズニーは25憶ドル(約2800憶円)の違約金をフォックスに支払うことになる。
テレビや映画の作家を取りまとめる西部全米脚本家組合は、すでに相当な権力を持つディズニーにさらなる力を与えるという理由で、この買収に反対の立場を取っている。
「この買収で生じる反トラストの懸念は明白かつ著しい」と述べた。