内線電話を使わず、人が介在しない受付システムを提供するディライテッド(東京・渋谷)。橋本真里子最高経営責任者(CEO、36)は、2016年に派遣社員から起業家に転じた。受付業務に11年携わったプロだが、プログラミングも事業運営も未経験。社員や訪問客が行き交う受付で培った人脈を生かし、エンジニアら専門人材を味方につけ戦う。
■iPad操作で来客通知
派遣社員を経て起業したディライテッドの橋本真里子CEO
「受付嬢がいる会社って、実はぜいたくなんですよ」。1人配置するだけでも人件費など年間数百万円のコストがかかる。同社の受付サービス「レセプショニスト」は月5千円から。登録する従業員が10人以下の場合は、無料で使える。
レセプショニストのアプリをiPadのタッチパネルで操作し、面会予定の社員の名前を検索して選択すると「スラック」などのチャットで社員に来客の通知が届く。通常は受付係がいたり、受付係がいない場合は内線電話が置いてあったりするケースが多い。しかし電話での呼び出しは、誰かが業務を中断して電話を取り次ぐ必要がある。
導入や運用コストが安いほか、システム上で来訪者の管理ができるのも売りで、IT(情報技術)関連企業を中心に導入が広がる。大企業の受付で働いた橋本CEOの経験がサービスの原点だ。
「企業の最前線にある受付をさらに価値あるものにしたい」。今でこそ明確な目標を掲げるが、20代の頃は迷いの中にあった。大学進学を機に三重県鈴鹿市から上京。卒業間近になってもやりたいことが見つからず、卒業後1年間はフリーター。その後、派遣社員として、トランスコスモスやUSEN、ミクシィ、GMOインターネットの受付で働いた。
客と訪問先の社員の間を取り次ぎ、会議室に案内してお茶を出す。最初はその繰り返しだったが、次第に受付業務の奥深さに気づく。
「この社員は訪問客の迎えに時間がかかるから、連絡は早めに」「この企業はいつも数人で来るから大きな応接室にしよう」「この役員はコーヒーではなく日本茶が好み」。訪問客が不快な思いをしないよう、社員が滞りなく仕事ができるよう、黒子として動いた。
だが「受付の仕事は賞味期限が短い。生涯はできない」。雑誌の求人募集要項を見ると受付職は20代から30代まで。同僚も20代後半が中心だった。職場の先輩たちは年齢を重ねると退職するか、総務などに職種転換していった。