6700人以上のロヒンギャ、ミャンマーで殺害される――MSFが独自調査
2017年12月14日掲載
「掃討作戦」と同時期に多くの死亡例
調査結果はロヒンギャが8月25日以降の"暴力"の標的にされてきたことを示している。ラカイン州では8月25日、武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が警察署と軍事基地を襲撃したことに対し、ミャンマー軍、警察、民兵がロヒンギャの「掃討作戦」を強化。以降、64万7000人を超えるロヒンギャがミャンマーからバングラデシュに避難した(12月12日 部門間調整グループ ISCG調べ)。
「家族が殺されたと話す人の数、その殺され方と暴力の残虐性に愕然としました。死者数が最多となった時期は、ミャンマー治安部隊による掃討作戦が行われた8月最終週とぴたりと重なっています」。ロヒンギャ難民から直接話を聞いたMSFの医療ディレクター、シドニー・ウォン医師はこう説明する。
銃撃、焼き討ち、殴打――死因の多くは暴力関連
MSFは、死亡率に関する遡及的調査をバングラデシュのコックスバザール県内にある難民居住地の異なる6ヵ所で11月初旬に実施した。調査対象地域の人口は60万8108人、そのうち50万3698人は8月25日以降ミャンマーから避難した人だった。
調査対象世帯の8月25日から9月24日の間の総死亡率は、1日1万人あたり8.0人。同期間、ミャンマーから避難した50万3698人における死亡率は、2.26%(95%信頼区間:1.87%~2.73%)と推定される。死者数は9425人から1万3759人にあたり、そのうち少なくとも1000人は5歳未満の子どもであったことになる。
一連の調査では、8月25日から9月24日にかけての死亡原因の少なくとも71.7%は暴力によるもので、その中には5歳未満の子どもも含まれていた。少なくとも6700人の成人と730人の子どもにあたる。暴力関連の死因の内訳をみると、銃撃によるものが69%を占め、自宅での焼死(9%)と殴打(5%)が続いている。5歳未満の子どもでは、59%超が銃撃によって殺害され、15%が自宅で焼死し、7%が殴打、2%は地雷によって命を落としたとされている。
帰還計画は時期尚早
今回の調査はバングラデシュ国内の難民居住地全てを網羅したものではない。また「全員が家に閉じ込められたまま火がつけられ一家が全滅したという話も聞いた」(ウォン医師)と言うように、ミャンマーから脱出できなかった世帯は調査対象に含まれていないため、実際の死者数は調査結果の死亡率を上回っている可能性が高い。
「現在も人びとの避難は続いています。国境超えに成功した人たちはここ数週間でも暴力を受けたと言います。ラカイン州マウンドー郡に入れる独立した援助団体はごくわずかであることから、MSFは今もミャンマーにとどまっているロヒンギャの身の上を案じています」
ウォン医師がこのように話す通り、難民の帰還に関するミャンマーとバングラデシュ政府間での合意締結は時機尚早であると考えられる。ロヒンギャには帰国を強いるのではなく、そのような計画を真剣に検討する前に、その安全や人権を保証する必要がある。
他の疫学調査資料(英文)
Health Survey in Kutupalong and Balukhali Refugee Settlements, Cox's Bazar, Bangladesh
Retrospective mortality, nutrition and measles vaccination coverage survey in Balukhali 2 & Tasnimarkhola camps
MSFは1985年よりバングラデシュで活動。コックスバザール県のクトゥパロン仮設居住地付近では2009年より、ロヒンギャ難民と現地の人びとを対象に、基礎医療と救急医療の総合診療のほか入院治療と検査業務を行っている。2017年8月以降の難民の一斉避難に対しては、医療をはじめ給排水・衛生活動を大幅に拡充している。バングラデシュ国内では他に首都ダッカにあるカムランギルチャル・スラムで活動。心理ケア、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する健康)、家族計画、産前健診のほか工場労働者向けの衛生プログラムを行っている。