復刻マンガ「マタギ」が異例の重版 背景にジビエ人気や獣害?
「釣りキチ三平」で知られる漫画家の矢口高雄氏(79)が40年以上前に発表した「マタギ」が復刻され、異例の重版を続けている。
東北地方の伝統的な狩猟集団であるマタギを描いた作品で、山と渓谷社(東京)が10月に文庫サイズで復刻、12月1日までに早くも4刷、計1万3000部を発行した。背景には、狩猟で得た野生鳥獣の肉を食材とするジビエ人気や、各地で相次ぐ野生の鳥獣被害への関心の高まりがありそうだ。(藤沢志穂子)
「マタギ」は矢口氏の故郷・秋田県で伝説的な存在の「阿仁マタギ」を描いている。若いマタギの三四郎とクマなど獣との駆け引きが生き生きと描かれ、昭和50~51年に週刊誌で連載、51年に日本漫画家協会大賞を受賞した。平成2年に愛蔵版が出版されて以来、長く絶版となっていた。
山と渓谷社では近年、獣害やジビエへの関心が高まっていることで、「時代に合ったストーリー」として復刻を決めた。秋田県出身で、子供のころからマタギと接していた矢口氏は、「自然と人との関わりを描くことが僕の作品の一貫したテーマ。『マタギ』は自然との関わりを最も色濃く表現できるドラマだった」と振り返る。
復刻に当たり、原本は矢口氏が原画を寄贈し、デジタル保存作業を進めていた横手市増田まんが美術館(秋田県)から提供を受けた。本の雑誌社(東京)が6日、発行する別冊「おすすめ文庫王国2018」では、編集部が選ぶ「2017年の文庫本ベスト10」の3位となり、今後ますます版を重ねそうな勢いだ。
狩猟に関するマンガは関心が集まっており「山賊ダイアリー-リアル漁師奮闘記(岡本健太郎著)や「罠ガール」(緑山のぶひろ)などが知られている。山と渓谷社の稲葉豊さんは「『マタギ』の作画力、自然の描写は素晴らしい」と話す。
近年の狩猟への関心の高まりについて専門誌「狩猟生活」(地球丸)編集部の鈴木幸成編集長は「東北地方の野山や里の風景を懐かしみ、山の恵みを大事にするマタギの風習や、伝統について知りたい人が多いのでは」とみる。
一方で、狩猟者不足と高齢化は深刻な問題となっている。鳥獣被害の増加で政府は、ジビエの利用拡大を進めているが、猟の担い手は不足している。環境省の統計では、26年度の狩猟免許交付者数は全国で約19万3762人とこの10年で約1万人の減少で、大日本猟友会(東京)によると、約7割が60代以上という。
猟友会では女性をはじめ若手の参入を促そうと、専用サイト「目指せ!狩りガール」を設けて若手の新規参入に努めている。女性の免許交付者数は26年度で3184人と、この10年で3倍となった。大日本猟友会の浅野能昭専務理事は「人材はまだまだ不足している。猟だけで生活するのは難しいなど課題も多いが、より多くの人に関心を持ってほしい」と話している。