【ブエノスアイレス=外山尚之、ジュネーブ=細川倫太郎】アルゼンチンで開かれていた世界貿易機関(WTO)閣僚会合が13日閉幕した。全参加国の合意が必要な「閣僚宣言」を6年ぶりに採択できなかった。トランプ米政権発足後、初の会合だったが、米代表はWTOが機能不全だと終始批判。加盟国の足並みがそろわなかった。世耕弘成経済産業相は閉幕後、WTOが「漂流してしまうのではないか」と懸念を示した。
閣僚宣言を出せなかったのは、途上国と先進国の対立が激化した2011年の閣僚会合以来。主要テーマである漁業補助金の削減や、国が農家から穀物を買い取る食料備蓄制度などを巡って実質的な進展はなかった。
会合全体を通して、議論の足を引っ張ったのは米国だ。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はWTO批判に終始。従来であれば、主要テーマは会合前から米国が率先して調整を進めて交渉をまとめ上げていた。だが今回はそうした姿はなく、大国のリーダーシップ不在で議論は錯綜(さくそう)した。
WTO事務局は閣僚宣言を採択できなかった要因として個別の国の名前は挙げなかった。だが、WTOのアゼベド事務局長は米国など議論に反対した国を念頭に「加盟国は反省する必要がある」と話し、不満を示した。議長を務めたアルゼンチンのマルコラ前外相は「膠着状況を前に進める必要がある」と述べた。
世耕経産相も閉幕後、「議論のやり方そのものを改革していく必要がある」と強調。このままでは「WTOは何も決められない組織として漂流してしまう」との懸念を表明した。
米国の姿勢は、WTOの紛争解決にも影を落とす。通商問題の裁判所では最高裁にあたる上級委員会のメンバーの選考に米国が反発し、欠員が長引いている。本来、7人いるはずの委員は、閣僚会合中に1人の任期が切れ4人になった。
米国は後任の選考にも反対しており、打開策は見えていない。18年9月にはモーリシャス出身の委員の任期が切れ、3人に減る可能性があり、WTOのもうひとつの大きな柱である紛争処理も機能が停滞する懸念が高まっている。