スパイダーマンの映画といえば、一昔前はサムライミ監督でトビーマグワイヤーが主役のシリーズを思い起こす人も多いと思います。
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トビーマグワイヤー主演、サムライミ監督のスパイダーマン
 

パート3まで出たのですが、そのあとはアメージングスパイダーマンとタイトルを変え、主役もアンドリューガーフィールドに変わり、完全に新しいシリーズとなりました。
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アンドリューガーフィールド主演のアメイジングスパイダーマン

トビーマグワイヤーのスパイダーマンは中途半端なまま終わりを遂げたのでした。
続きが気になる人も多いかと思います。 



しかしそのスパイダーマンには実は続きがあったのです。



幻のスパイダーマン4



なんと私はその幻の映画に関わっていたのでした。


今回はその体験談を書きたいと思います


そのプロジェクトは始まりから過酷でした。


こちらの仕事の時間というのは、ほぼ1日8時間で週5日と 割ときっちりしているのですが、この仕事は撮影まで時間がないらしく、シフトは朝7時から夜9時までで週6日というものでした。


ただまあ時給制なので働く分収入が増えるのはありがたいのですけどね。


そこで任されたのは、メインの敵役のデザイン造型でした。

原作があるのでコンセプトやざっとしたデザインはすでに決まっていて、それを粘土で立体で具体的にするのです。


Vulture というハゲワシのキャラでした。


そう。スパイダーマン最新作であるスパイダーマンホームカミングでの敵役ですね。



ジョンマルコビッチが演じるVultureが悪役となる最初のシーンで、彼が暗闇の中でコートを着て立っているのだけど、主人公が近づくとそのコートだと思っていたものが突然広がります。

実は彼が着ていたのはコートではなく、彼の作った機械の羽であったという衝撃のシーンのプレゼンのために、コートのような羽をまとっているVultureの造形をしました。

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そしてそのあとにもう一体、Vultureが羽を使って相手の攻撃を避けているところなどを造形してサムライミ監督に見せたところ、監督は、

”機械の羽で飛ぶということにイメージが湧かなかったけど、これを見たら彼が飛んでる映像がクリアになった! 彼は飛べる! ありがとう!!” 

とめっちゃ喜んでくれたのでした。

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さて、次の問題はこれを実際に作るのか、それともCGにするのかという事になり、最終的にはCGになることになりました。普段ならこの選択はがっかりするのですが、このキャラに限ってはホッとしたのでした。

何しろこんなもの実際に作ったら大変すぎて過労死レベルだった事でしょう。

このあとももっとデザインを具体的にするために、もう一体かっちょいいVultureの造形をしたのですが、残念ながら写真を撮る間がありませんでした、、、

今頃はソニーの倉庫のどこかで朽ち果てていることでしょう。 


私はこの仕事では敵役専門でしたが、そのスタジオではスパイダーマンのコスチュームも作っていました。

一見単純に見えるこのコスチュームは、実はとんでもない複雑で大変なプロセスを経て作られているのです。

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まずスーツの下には彫刻された筋肉の形のパットが入っていています。

それをコンピューターでデザインされた、色とパターンがプリントされたスパンデックスを縫い合わせて人が着れるようにします。
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そしてその上につける立体の蜘蛛の巣のパターンは、原型は平らな鉄板の上に粘土で造形されたものです。

それを型取り、フォームラテックスと言う素材で起こします。
そのフォームラテックスを型から取る時にびらびらがはみ出るので、それを全て丁寧に焼いて取らねばなりません。

スーツ一体にくっつくフォームラテックスは指まであるので、相当な数になります。

しかも主役なので、確かそれを60体くらい作る予定だったと思います。


20人くらいの人たちがひたすらフォームラテックスの蜘蛛の巣のびらびらを毎日綺麗にしていました。

スパイダーマンスーツ製造工場です。


それを全てのスーツに一つ一つ接着剤がはみ出さないように、丁寧に貼り付けていくのです。
 

映画では主役の青年が自分でスーツを作った設定ですが、裏事情を知る人は映画を見ながら笑っていたことでしょう。



まあそんな風に撮影に向けてめちゃくちゃ忙しくしていたのですが、そのような日々に突然終わりが訪れます。


ちょうどその日は金曜日

工房で特別に昼ご飯が出て、それを食べながらオーナーからアナウンスがありました。


ソニースタジオがスパイダーマンの製作を中断することに決めた。
今から一ヶ月サムライミ監督が脚本を書き換えるけど、それで監督とソニースタジオの意見が合わなかったらスパイダーマン4の製作は打ち切りになり、映画は新しいスパイダーマンとしてリブートされるとのこと。


ということで、念のためスパイダーマンのスーツの製造は継続するけど、その他の仕事は製作が確定するまで中断ということになり、仕事がその日に終わりということになってしまったのです。


フリーランスワークの恐怖体験の一つですね。


このような経験を積むことによって、自分の中の、何があってもなんとかなると思える強さがついていったのかなぁと思います。


何ヶ月か予定していた収入が、次の日からいきなり0になるのですから、、、
 


結果スタジオは一ヶ月後にスパイダーマン4の打ち切りを決定。
アメージングスパイダーマンとしてやり直すことになったのです。



それまでに一体何億の金を使ったのか? 


いやー、映画って、本当に恐ろしいものなんですね。というオチにまたまたなってしまうのでした。



しかしながら私にはすぐ次の週にバトルシップという映画の仕事が入ったのでした。


やはりなんとかなるものなんですね。

バトルシップのエピソードに続く 

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