過剰な敬語
もちろん『週刊EXILE』を毎週録画して観ているのだが、最近は新たな弟分グループのヴォーカリストオーディションの模様が繰り返し放送されている。なかなか興味深いのは、まだメンバーにもなっていないのに、参加している男性達の敬語が、EXILE周辺の方々がそうであるように、どこまでも過剰であること。自分が記憶しているかぎりでは、TAKAHIROが先輩のUSAに「テキーラを呑まさせていただいて」と述べていたことがあるが、彼らの敬語がちゃんとしすぎている気持ち悪さに疑問を持たない参加者は、当然、同じように過剰な敬語を使ってくる。毎週観てしまうのは、ヤンキーテイストに過剰な敬語が常備されている光景に、慣れるはずがないからである。
丁寧な対話
とんねるずの石橋貴明が、2013年10月から翌年3月までという短期間で『リシリな夜』というトーク番組を持っていたのを記憶している人は少ないと思う。自分は大きなショックを受けたものだから、色濃く記憶している。石橋が屋台の店主という設定で様々なゲストを招き、大物男性芸能人だけではなく、日本オリンピック委員会・竹田恆和会長や小説家・伊集院静など他ジャンルのゲストとの対話を繰り広げた。この番組での石橋は、とにかくその大物の機嫌を損ねないよう、功績を持ち上げ、相手の話したいことを引っ張り上げることに終始していた。こちらが当然のように期待する、いつものガサツさはいつまでも顔を出さず、「石橋貴明の丁寧な対話」を見せられて終わってしまった。とてもつまらなかった。あれは一体何だったのだろう、と未だに思い出す。
石橋貴明はガサツだから嫌われる、とされる。でも、その場の話を自己都合で寸断し、乱暴な投擲によって場の空気を破壊させたら、右に出るものはいない。今、毒舌と言われる芸能人を思い起こすと、彼らは毒を吐いた後に、必ず笑う。ほぼ間違いなく笑う。笑うことで、今しがたの毒素はユーモアであって、本格的に相手への嫌悪を表明するものではないことを、本人と視聴者に伝える。「実は優しい人」というメッセージを2秒後に伝えるからこその毒舌。石橋貴明の横暴さというのは、そうやって善人に見られようとする配慮に乏しい。それは稀有な存在である。だからこそ、『リシリな夜』を思い出し、「普通に対話できる自分」のプレゼンに励んだことに繰り返し驚く。
「家族や知人の間での評判が悪い」6%
石橋貴明は『日経エンタテインメント!』の「嫌いな芸人2017」アンケートで1位にランクインしている。2年連続で1位となったが、結果を発表した号(2017年7月号)に添えられている投票者の意見は「自分が大物芸人で暴力的な言動が許されると思っている」(56歳女性)である。2位は江頭2:50、3位はあばれる君と、個人的に好きな芸人が続くのだが、4位の青木さやかまで入れると、一つの傾向が見えてくる。それはつまり、先ほど記したことと同じ。怒ったり、叫んだり、喚いたりという芸を完遂した後に、彼らや彼女はさほどフォローしない。そのままにする。後処理をしない。実はいい人なんでしょ、を呼び寄せない。このアンケートには、嫌いな理由を答える5項目があり、「ネタがつまらない」「キャラクターが嫌い」と一緒に「家族や知人の間での評判が悪い」という項目が入っており、それなりに数値を獲得している(石橋貴明は6%)。こんな項目が入り込んでくる窮屈さにたじろぐ。なぜ家族や知人の間での評判が好き嫌いのバロメーターになるのだろう。
コージー冨田にしろ、原口あきまさにしろ、石橋貴明のモノマネをする人は、石橋が前のめりになってキレる場面を真似る。その自分勝手っぷりを見て、「そうそう」と頷く。原口あきまさは加藤浩次のモノマネから石橋貴明のモノマネにリレーすることがあるが、私たちはもはや加藤浩次をキレる人とは見ていない。極めて心身の安定している人が稀に羽目を外す場面として、キレる様子を見つめる。「食わず嫌い王決定戦」で若い女優やアイドルが出てきた時に、石橋はもれなく「オジさんとデートしよう」と迫る。そのアプローチは一辺倒だったし、「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」でネタの後に一言二言、博識を挟みこもうとする手つきは、勢い良くネタをかました鮮度をわざわざ落とすことにもつながった。我欲を排除できない感じが時代遅れだと思われたし、今年、改めて「保毛尾田保毛男」を引っ張り出した判断には、当人だけでなく彼周辺の全体に鈍感さを強く感じた。
「ノスタルジーを評論に変換しないで」
石橋貴明は「ハッタリ」が好きで、正月の特番でスポーツ選手と対決する時には、8割型ハッタリで笑いをとっている。ホームラン宣言やホールインワン宣言など、ハッタリを重ねることで笑いを得る。その昔、「必要以上に自分たちを大きく見せなきゃいけない時もある。だから、はったりというのもテクニックとして身につけなきゃいけない」(石橋貴明・木梨憲武『とんねるず 大志』扶桑社文庫)と語っていたが、そういうハッタリが、このご時世、「乱暴」や「空気読めない」に変換されていった。
それでもそれを気にしない、という姿勢なのかと思ったから、『リシリな夜』での真面目な石橋貴明に動揺した。ヤンキー的メンタリティを持つエンタメ部族の言葉遣いが過剰に丁寧な時代、そして、「嫌いな芸人」アンケートに「家族や知人の間での評判が悪い」が盛り込まれる時代、怒ったままでいる、叫んだままでいる人が、いよいよその場を奪われてしまったのだろうか。今回、ここまで重ねてきた議論が、「それはキミが同時代的にとんねるずを見てきたからそう思うだけっしょ。単なるノスタルジーを評論に変換しないで」との意見によっておおよそひっくり返されることを知っている。嫌われ方が雑なのに、それを覆せないのだ。
(イラスト:ハセガワシオリ)
第1回 超国語教室~日本語の新食感を味わう『倉本美津留の超国語辞典』刊行記念
日時:12月16日(土) 19:00~21:00 (18:30開場)
出演:倉本美津留(放送作家)、武田砂鉄(ライター)
場所:本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料:1500円+1ドリンク
http://bookandbeer.com/event/2017121602_bt/