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2018年の税制激変で「一番損する人」と「得する方法」

介護保険の変化も要チェック

高所得者を中心とした増税――最近、活発に議論されている税制改正だが、これは再来年以降の話。来年から始まる新しい制度はすでに定まっている。何が増え、どうすれば得をするのか。全国民必読。

「日本はサラリーマンに甘い」

11月22日、自民党本部9階の会議室に「インナー」と呼ばれる自民党税制調査会の非公式幹部会メンバーが集まった。この日行われたのが、自民党税調の総会。

「税制のプロ」が集い、かつては時の総理大臣ですら口を挟むことが憚られた、税制の「最高機関」である。

インナーを率いる宮沢洋一税制調査会長がこう口火を切る。

「税制改正の会議が今日から始まります。昨年はたしか配偶者控除、所得税等々を議論してまいりましたが、今年も所得税の基礎控除、給与控除等を含めた所得税を議論してまいります」

メディアに許された取材は冒頭だけ。議論は記者をシャットアウトした状態で行われる。この場で、国民にとっての最大の関心事、税について話し合われるのだ。

党税調と対をなす政府税調(総理の諮問機関)のメンバーが明かす。

「私たちは党税調に先立って、11月20日に行われた総会で高所得者を中心とした給与所得者の控除の引き下げを提言しました。日本のサラリーマンは欧米に比べて優遇されていて、控除額が圧倒的に多い。そこにメスを入れたいのが本音です。

ところが、急に税制を変えると、『サラリーマンいじめだ』という大きな批判を受ける。支持者の票を減らすと危機感を抱いた党税調側から反発を受けますが、その中で税収が安定するよう落とし所を探っていく」

 

政府税調と党税調のせめぎあいのなか、今年度の税制改正で大きく変わったのが配偶者控除だ。'18年1月から、妻の収入によって夫の納める税金が大きく変わってくる。

これまで配偶者控除でよく言われてきたのが、「103万円の壁」だ。妻の年収が103万円以下だと、夫の所得税の対象となる年収から38万円が控除されてきた。

夫の年収が600万円であれば、妻の年収が103万円以上の世帯に比べて、単純計算で所得税と住民税あわせて、7万1000円ほどトクするようになっていたのだ。

来年からこの上限が150万円まで引き上げられる。今回の改正で、妻の年収が150万円以下なら、税金が最大で年間12万400円の減税になる。なお、年収150万円とは、時給1000円で1日6時間、週5日働くイメージだ。

夫の年収が600万円の場合、今回の改正によって妻の年収が150万に達するまで一律に約7万円の減税となる。「103万円の壁」に代わって、新たに現れたのが「150万円の壁」だ。つまり、妻の年収が150万円を超えると、減税幅が小さくなるのだ。

年収600万円の夫の妻が年収160万円稼いだとすると、150万円以下だった場合に比べて、1万円ほど税金が高くなる。だったら、妻には「150万円の壁」にぶつかるまで働いてほしいのが夫の本音だが、ことはそう簡単ではない。

夫がサラリーマンや公務員の場合、妻には「106万円の壁」「130万円の壁」というものが存在するからだ。

「妻の年収が130万円を超えると、夫の扶養家族から外れ、夫の会社の健康保険や厚生年金に加入できなくなってしまいます。妻は勤め先の社会保険に加入しなければいけません。これが『130万円の壁』と言われてきました。

たとえば、妻の収入が140万円の場合、夫は配偶者控除を受けられますが、夫の年収が600万円で所得税率が10%なら減税額は3万8000円。一方で妻は社会保険料を年間20万円程度負担しなければいけません。結果として、負担増になるので注意が必要です。

一般に妻が年収130万円以上を稼ぐなら、155万円以上でないと手取りで損になる可能性があります。それを避けたいなら、130万円以下に留めるほうがいいでしょう」(社会保険労務士でファイナンシャル・プランナーの井戸美枝氏)

さらに昨年から、501人以上の従業員がいる企業で働くパート従業員は年収106万円以上で夫の扶養から外れることになった。

「週20時間以上の労働」「月収8万8000円以上(年収換算で106万円)」「勤務期間1年以上」という条件を満たすと、妻は勤務先で社会保険に加入することになったのだ。

「これが『106万円の壁』と言われるものです。大手スーパーなどで、パートで働く人の多くがこの条件に当てはまってしまいます。

配偶者控除の年収要件が引き上げられたからといって、たくさん働くと社会保険料の支払い額が増えて、逆に負担増になってしまうこともあります。

パートを考えている人は会社の規模や社会保険料のことも考えたほうがいいでしょう」(税理士の佐藤正明氏)