100分de名著 レム“ソラリス” 第2回「心の奥底にうごめくもの」[解][字] 2017.12.13

1312月 - による admin - 0 - 未分類

それを楽しんでもらいたいなと思いますね。
面白いな〜。
SF文学の傑作「ソラリス」。
はるか未来人類は「ソラリス」という謎の「海」に覆われた惑星を発見します。
ソラリスの観測ステーションには人間が思い出したくない「記憶」が実体化して送り込まれてくる。
ついに主人公クリスの前にも自殺したはずの恋人ハリーが現れました。
記憶の奥底に潜む隠したい何かをソラリスの海があぶり出します。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今月は「100分de名著」初のSF小説「ソラリス」を読み解いております。
前回は惑星ソラリスの観測ステーションに主人公が降り立ちましたらいろいろと奇怪な現象に出くわしたわけですね。
最後に出てきた女性の存在も気になりますよね。
そうなんですよね。
いるはずのない人みんなは「お客さん」と呼んでるらしいんですけど…が現れる。
何で現れるの?そしてそもそも何なの?謎のまま1週間お待たせしました。
教えて頂ける指南役の先生をご紹介しましょう。
ロシア・東欧文学研究者の沼野充義さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
さあまずは登場人物のおさらいからしておきましょう。
こちらご覧下さい。
主人公クリス・ケルヴィンと2人の科学者スナウトとサルトリウスがステーションにはいるわけですね。
それぞれには「お客さん」と呼ばれる謎の存在が取り付いているらしいという事が分かってきました。
そして沼野さん今回のテーマは「心の奥底にうごめくもの」となっているんですよね。
つまり人間の脳には恐らくいろんな過去の記憶というのが刻まれてると思うんですけどもうれしい事とかね楽しかった事よりもむしろ…そういうものが傷みたいに残ってる事の方が強いですね。
要するに「トラウマ」というものですけども。
人間はそのトラウマを大抵の人はいろんな形で抱えてると思いますけどもいつもそれに向き合ってたら生きていけないので封印してしまうわけですよね普通は。
ところがその一番封印したい記憶に向き合わされるという事がソラリスのステーションでは起こってるみたいだという事でトラウマといった精神病理学的な領域にもかかわるそういう問題がここでは突きつけられてくると。
ほんとにいろんな要素の入ってる作品なんですね。
SFだから宇宙に行ってロケット飛ばして宇宙人と出会ってというとそうでもないと。
むしろ宇宙に出ていって他者と出会ったと思ったら…そこが面白いところですね。
では早速物語をご覧下さい。
ステーションに到着後衝撃的な事態に遭遇し続けたクリス。
(子どもの笑い声)やがて疲れ果てて眠ってしまいます。
「目を開けたときはほんの数分しか寝ていないという感じがした。
部屋は陰気な赤い光に包まれている。
涼しくて気分がいい。
ベッドの向かいでは半ばカーテンが開いた窓のそばに赤い太陽の光を浴びて誰かが椅子に座っていた」。
そこにいたのはかつての恋人ハリーでした。
最後に見たのは10年前のはずなのに彼女は全く変わらない姿でした。
しかしドレスの袖をまくるとそこにはやはり注射針の痕がありました。
ハリーは10年前薬を注射して自ら命を絶ったのです。
「私はそれを見て吐き気を感じた。
その注射の事はあの事件の後何年も夢に現れしわくちゃになったシーツの上で私はうめき声をあげながら目覚めたものだった」。
どうやら夢ではないらしい…。
では彼女は何者なのか?ハリーは以前と変わらないようでいてドレスにはボタンもファスナーもない。
ささいな事にクリスは違和感を覚えます。
「何が何でも冷静さは保とうと努めながら私は繰り返した」。
「彼女の一言が強烈に響き渡った」。
正気と狂気が揺れてるみたいな。
SF離れちゃえば。
ちょっと怖いですよね。
その女性が現れたというところまで前回やりましたけどもそれは自殺したクリスの恋人が姿を現したという事だったという事ですよね。
彼女もやはりまあいわゆるお客さん。
私たちがず〜っと思ってるこのお客さんというのは何なんだという。
はい。
この小説の中では別の言い方ではこのお客さんですけども「存在F」というふうな言い方をポーランド語の原書ではしています。
でまあ「F」というのはポーランド語で「Fantom」というのが「幽霊」という意味ですね。
「存在F」というのがポーランド語のもとの表記なんですが日本語の翻訳でこれは私の訳語なんですけど「幽体」というちょっと変わった言葉をあえて使いました。
それは何かといいますと…。
人間の記憶の中にいろいろな情報が入ってるわけですよね。
それを何者か分からないんですけどもそれが探り出してですね…つまり形のない記憶とか思い出の中にあるものを形に表すという事ですね。
でしかもですね心の傷になってるような一番痛ましいものとかおぞましいもの思い出したくないものもう二度と見たくないものそういったものをむしろ選び出して形にしてくる。
つまり彼女は幽霊でもクローン人間でもなくてクリスの記憶からつくられたハリーという事ですか。
まあそういう事ですね。
どうもこのハリーという女性は前に自殺したらしいという話出てきますね。
はい。
どうもその自殺は恐らくクリスが一因になってた。
原因になってたらしい。
だからクリスにとっては最も痛ましい思い出なわけですね。
あと興味深かったのは何でしたっけボタン?ボタンとかそのチャックみたいな事に関して何か漠然としてるというか。
あれ切ってましたもんねドレスを。
あれは記憶の中でクリスがボタンの事を覚えてなかったという事なんですか?どうもだからクリス男ですから女性の服装の細かいとこはあんまり記憶に残ってなかったかもしれないですね。
面白いですね。
よくCGで空間をすごい緻密に例えば家を再現したゲームがあってもそこにデータがないとこまで行っちゃうと真っ暗な空間になってたりとか適当な柄で埋め尽くされてたりするのと一緒でそういう事が起こってるんですね。
そうですね。
あと面白いのはですねこの幽体として現れたハリーはなぜかクリスと一瞬も離れたくない。
何か離れたくないって愛してるからとかそういう話じゃなくてどうも物理的にもう一瞬も離れる事ができないようなそういう存在物になってるようなんですね。
普通の人間だったら「だって大好きだから」とか感情がまずありきで離れたくないと言うのに「離れたくないの」「何で?」「何でだったっけ?」って考えるのが何かによってつくられた感が出てて面白いなと。
それでこれはどうもですねハリーだけの事じゃなくてこのステーションには他の幽体もいろいろ現れてるんですけどもそれがそれぞれのまあご主人様っていうかもとの記憶を持ってた人のもとにはりついてまとわりついて離れない。
あっ…。
って事は序盤で閉じこもってる彼の部屋から子どもの声するじゃないですか。
って事は彼のそばには片ときも離れず子どもの幽体Fがいると思われるという。
そうですね。
だんだんそういう事が分かってきますよね。
あ〜!恐らく彼のトラウマの中の何か。
子どもがいるとしたら例えば何かの事故で死なしてしまったとかね分かんないですけどね何か非常に悲劇的な不幸な事があってそれがトラウマになってる可能性がありますよね。
恐らく一番思い出したくない事の一つとしてあるのかもしれないという事ですね。
そのへんはすごいうまいですね。
どんどん怖くなってくる感じありますね。
さあ幽体Fの秘密が少しずつこのあと明かされていきます。
実物そのもののようでいてハリーにはどこか不思議なところがありました。
眠らないし食事をとる必要もないらしい…。
彼女が本物のハリーではない事を確信したクリスは作業服を着せ自分も乗るからと欺いてロケットに押し込めます。
(ハリー)「クリス!クリス!」。
クリスはハリーをやっかい払いでもするように完全に「排除」したのです。
幽体Fとの遭遇という共通の体験をしたクリスとスナウト。
クリスはハリーを自殺に追いやったいきさつを語りだしました。
「彼女はその薬の事を知っていた」。
するとスナウトはもっと恐ろしい事があると告白します。
ちょっと最後の方震えが止まんなかったですね。
すごい怖いですね。
クリスはこの幽体ハリーが出てきて恐怖心というかそれはこんなもの出てきたらうれしがるよりは怖がりますよね。
一種のパニックに。
パニックですねはい。
ともかくこの不思議なものを自分の目の前から消し去りたいと。
という事で考えついた一番これなら絶対大丈夫だろうという方法が宇宙船に押し込めてだまして一人だけで乗せちゃってそれで飛ばしちゃうという事をやったわけですよね。
どうも他の人たちもいろんな方法を試してともかくやっかい払いをしようという事をやっては失敗してきたみたい。
絞め殺そうとしたり縛ったりとかね。
いろんな事をやってお客さんと格闘してしかしその結果ひどい目に遭うのはこっちであるというような感じですね。
やっぱり人間というのはどうしても…スナウトが言っていた……というセリフがあったんですけどこれはどういう事なんですか?確かにちょっと逆説的な話なので少しちょっとこれご覧頂いてご説明したいと思います。
この幽体Fというのはですね「自分の中の抑圧された記憶が実体化されたもの」。
これは実際にあった事の記憶ですね。
例えばクリスにとってはハリー。
自殺したハリーというのは実際にいた人物で実際に自殺が起こった。
ところがもう一つですねスナウトが言ってた事はもっと怖いのは実際にはなかった事だって。
つまりそれが肉体を持って出てくる。
こうしたものやこうしたものが「肉体を持って現れる」という事。
でスナウトはこの2番目の方が恐ろしいと言ってる。
つまり例えば心の中でひどい事を思い描くしかし実際にはやらない。
まあそれ人間は普通だと思いますけどもその思っただけの事それが形をとって出てきたらどうなるかと。
それがこの宇宙ステーションだという。
どうです?僕珍しく解説なしで素直に分かったのはえ〜っとねもう恥をさらすようだけど…僕高校の時すごい孤独に暮らしてたんですよ。
学校にも行けなくなってたし世の中なくなればいいと思ってたんですよ。
その時にすげえ高校生なのにものすごい幼稚ですけどヤギの怪獣が出て全部食べればいいと思ってた。
細かく言うとクラスの集合写真をヤギが食うみたいに全てをヤギの化け物が食ってしまえばいいと思っててそういう家でマンガを描いた事もあるんです。
って事は俺の場合はそれが出る可能性があるという事だと思って。
絶対怖いと思う。
その俺の中の何だか分からない病んでる時の妄想みたいなものが出てきたら多分対処ができない。
でも恐らくそういう事ですよね。
そういう事ですね。
ってなるとこれを言ったスナウトはこれに近いものが見えてる可能性も…。
きっとこの2番目の方が出てるんでしょう。
出てるって事ですよね。
ええ。
1番だったらここにまで考えが及ばないと思うんです。
自分に恐らく出てるから。
「お前なんかまだいいよ。
実際昔つきあってたやつだろ」という事があるから。
うわ〜スナウトやばそう。
スナウトやばそうです。
さあそれではスナウトとクリスの会話の続きをご覧下さい。
スナウトによるとクリスがステーションに来る何年も前自殺したギバリャンがソラリスの海に向かって放射線を照射した事がありました。
海の反応を見るための強硬な手段でしたがお客さんの到来はその10日ほど後から始まったのです。
そのお客さん何なんだ何なんだってずっと私たち思ってましたけどこれは海からのコンタクトだったという事なんですね?どうもそういうふうに解釈できそうだという事ですね。
ただこれ海はしかし知性を持ってるかどうかも分かりませんし海がどういう意図でそういう反応をしたのかは結局分かんないままですね。
だから海が怒って人間に仕返しをしてこういう事をやったのか単なる機械的な反応なのかそれとも単に遊んでるだけなのかまあ分かんないんですね。
分からないけど少なくともその可能性があると彼は思ってるスナウトは思ってるという事ですよね。
そうですね。
でここでスナウトが言ってる事で面白い事がありまして人間はその宇宙に出てきて宇宙の他者とコンタクトをしたいとそういうふうにしてやって来るわけですね。
ところが人間以外の全然違うものと実は出会いたいとは思ってなくて…しかし実際にこの宇宙に出てきてみるとむしろ…その時に人間はそういったものを受け付けられないという。
だからこれ逆説的なのはどんどんどんどん外の大きな宇宙に出てったのに…そこにあった卑小なものが拡大されて突きつけられたと。
その意図がはっきりしないのがとても面白いですね。
何かそんなに大事に奥底に隠してるんならいいもんだろうから大きくしてあげようかって事だったりとかもしくはそんなに触れられたくないってとこまで読むんだったらきっとお前らにとって一番の弱点なんだからこれがお前らに対する兵器として一番いいんだと思ってるとか。
おもてなしなんじゃないかみたいな説も本の中に書いてありましたよね。
おもてなしかもしれないし復しゅうかもしれないし怒りの表現かもしれないしってそこまで分からないわけですよね。
それが分からないのがちょっと魅力かな。
このあとストーリーはどうなっていくんでしょうか?ハリーですね。
あのクリスに取り付いていたハリー。
実はやっかい払いできたかと思ったら実は戻ってきてしまう。
ロケットで飛ばしたんですよ!?飛ばしたのに。
それでいわばこの二人の間にラブロマンスが展開していくと。
だけどこれは本当の意味でのラブロマンスと言えるかどうかは分かんないわけですよね。
人間と人間ではないわけですから。
沼野さんありがとうございました。
どうもありがとうございました。
2017/12/13(水) 12:00〜12:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 レム“ソラリス” 第2回「心の奥底にうごめくもの」[解][字]

死亡した人物が実体をともなって再び出現するという恐るべき状況。彼らが、ソラリスの海が人間の潜在的な記憶を探り不可解な力で実体化したものということがわかっていく。

詳細情報
番組内容
死亡した人物が実体をともなって再び出現するという恐るべき状況。しかも彼らは、忘れがたいが悲痛さのため心の奥にしまいこんだはずの記憶の中の人物だった。やがて彼らは、ソラリスの海が人間の潜在的な記憶を探り、不可解な力で実体化したものということがわかっていく。ソラリスの海は、何のために、このようなことを行うのか? 第2回は、抑圧された記憶や欲望をえぐり出す精神分析的な物語として「ソラリス」を読み解く。
出演者
【講師】ロシア・東欧文学研究者…沼野充義,【司会】伊集院光,島津有理子,【朗読】田中哲司,中村優子,【語り】小口貴子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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