前回は保育園通いが子どもの発達に及ぼす影響について最新の科学的知見を紹介した(参照「保育園が子どもの『攻撃性』を減少させるという驚きの研究結果」)。
最も重要な発見は、恵まれない家庭に育つ子どもたちの多動性・攻撃性傾向が保育園通いを通じて減少することだ。
幼少期の問題行動は、将来の犯罪への関与など社会的に望ましくないとされる行為と強く結びついているため、保育園は社会問題の減少に寄与している可能性がある。
今回はそうした望ましい変化がなぜ起こるのかを明らかにしたい。
幼稚園が始まる前の2歳時の場合、保育園通いをしない場合は家庭で過ごすことがほとんどだ。
保育園における子どもの発達環境と、日中の家庭における子どもの発達環境を比べて、前者が優れているならば、保育園通いは子どもの発達に好ましい影響を及ぼすだろう。これは恵まれていない家庭の子どもに当てはまりそうである。
一方、平均あるいはそれ以上に恵まれた家庭ならば、保育園と比べても十分に好ましい発達環境を子どもに用意できているだろう。
こうした家庭の子どもが保育園に通っても、子どもにとっての発達環境の好ましさは大きく変化するわけではないため、発達状況に大きな違いが表れてこないと考えられる。
もう一つ考えられるのは、保育園に通うことで家庭における保育環境そのものが改善するということだ。
保育園を利用しない家庭では、子育てに関わる責任のほとんどを母親が担うことが多い。子どもを愛する気持ちがあっても、四六時中一人で子育てにかかりっきりになるとさすがにストレスがたまってくる。
ストレスがたまれば、つい子どもを怒鳴りつけてしまいがちになるし、子どもの「なんで?」に対して丁寧に説明してあげることもできなくなる。
一方、保育園を利用することで母親のストレスが少なくなれば子どもとの関係もより改善され、子どもの発達にとっても有益だろう。
加えて、保育士の先生に子育て相談をすることで、子育てにまつわる不安が減るのみならず、より望ましい子育てについての知識も得られるかもしれない。
こうした仮説を検証すべく、我々は家庭における「しつけの質」や母親の子育てストレス・幸福感などが、保育園通いの結果どのように変化するのか分析を行った。
データは前回の記事同様、厚生労働省が実施した大規模調査である21世紀出生児縦断調査を利用した。