現場はまるでバイオハザード状態である。
全身を防護服に身を包み、ゴーグルを着用した3人組がカナダ、オンタリオ州ハミルトンのクーツ・パラダイス自然保護区で作業を行っていた。
2人はシャベルを持ち、1人はゴミ袋に包まれた人間ほどもある物体を持っていた。この物体の正体は、成長すると2~5メートルにも達するジャイアント・ホグウィードという植物だ。
和名だとバイカルハナウド。セリ科の多年生植物で人体に深刻な毒性を発揮する。ほんのちょっとの皮膚に触れただけで強烈なダメージを与えるのだ。
時として薬にもなるがやっぱ植物って人類の脅威でもあるのだ。
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標本づくりの為、危険を冒し採取、標本づくりへ
元々コーカサス山脈に自生していたジャイアント・ホグウィードは、20世紀初頭に観賞植物としてヨーロッパや北アメリカ大陸に持ち込まれた。
ところがその樹液は深刻な植物性光線皮膚炎を引き起こす。水泡ができ、眼に入った場合は失明を引き起こす。できた傷は長期間残る。
しかも、特に危険ではない別の植物に似ているという点でも困りものだ。
カナダ王立植物園は常にジャイアント・ホグウィードに目を光らせており、見つければすぐに伐採する。
今回は、その危険を世間に周知するため、酷い火傷を負う危険を冒してこの植物を研究室に持ち帰り、標本を作ろうとしていたのだった。
image credit:Cootes to Escarpment EcoPark System
パッと見美しいからなおさらヤバイ
一見したところ、ジャイアント・ホグウィードは恐ろしそうには見えない。
茎はがっしりと太く、紫のアクセントがある。また短い毛に覆われている。90センチにもなる葉は鋭角的で複雑な形状をしており、雪の結晶にも似ている。茎の上部には小さな白い花のクラスターが傘状に咲く。
どこか巨人のブーケから抜き取られたかのような印象で美しい。北アメリカやカナダに持ち込まれた理由もその美しさだった。
image credit:Rbk dolde - ジャイアント・ホグウィード - Wikipedia
きれいな花の樹液は猛毒。触るな危険にもほどがある
だが気をつけねばならないのはその内側だ。白く水っぽい樹液にはフラノクマリンという化学物質が含まれている。
これは動物によって食べられることを防ぐためのものだが、光毒性であり、人間の皮膚を紫外線に過敏にさせるのだ。
樹液に触れると、数日は水ぶくれのようになるのだが、日光への過敏性は数年続くことすらあるというから恐ろしい。
また樹液が目に入れば、完全に失明してしまう恐れもある。万が一、目に入った場合は、すぐ石鹸と水で洗い流して、医者にかかることだ。
image credit:Cootes to Escarpment EcoPark System
繁殖力の強さで特定外来種に指定、イギリスでも問題視
ジャイアント・ホグウィードは他の植物にとっても厄介な存在である。背が高いため、在来種を日陰に追いやってしまうし、繁殖力も強い。
大きいものなら10万個以上もの種を実らせ、風や水に乗せて拡散させる。このためにカナダとアメリカでは特定外来種として扱われている。
イギリスでも問題視されており、1970年代にはこの植物で遊んでいた数人の子供が酷い水ぶくれに見舞われるという事故も発生した。
イギリス、ランカシャー州の警告看板 image credit:BY-ND 2.0 70023VENUS2009
厳重取り扱い注意な標本づくり
「こんな大きな植物で標本作ったことがなかったので、これは実験でした」王立植物園のチームリーダーであるナディア・カバリンさんは語る。
防護服を着込み、木、段ボール、犬のトイレシート(湿気を吸収するため)などでフレームを作成。標本を新聞紙で完全に包み、さらに念のためもう一重に包んでラチェットで締めた。
フェイスブックに投稿されていた画像は、この植物の危険性を物語っている。
image credit:Cootes to Escarpment EcoPark System
image credit:Cootes to Escarpment EcoPark System
image credit:Cootes to Escarpment EcoPark System
こんなにも大変な作業だったにもかかわらず、しばらくするとカビが大量に発生してしまい、アルコールで処理した結果、見た目が劣化してしまったという。
この標本は、王立植物園で展示される予定だったが、結局別の標本を探すことになったという。でもまあ、彼らの重装備を見れば、ジャイアント・ホグウィードの危険性は十分にわかっただろう。
Giant hogweed, Don't Touch
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コメント
1. 匿名処理班
格言 美しい花には汁がある
2. 匿名処理班
もはや兵器だな
3. 匿名処理班
ホグワーツとの関連性を深読みしてしまう俺はポッタリアン( ・∇・)
4. 匿名処理班
人為的に引き起こされた物だし、高い授業料だったね。
5. 匿名処理班
でかいトウキにしか見えない…と思ったら同じセリ科だった
トウキは西洋だとアンゼリカ(セイヨウトウキ)で東洋と同じくハーブだし、これは勘違いして採取しようとしたらやばいわ
6.
7. 匿名処理班
セリ科の多年生植物だけあって花の見た目はセリにそっくりだね
8.
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