2017-12-08 上げたのは2日後
■[報道][マンガ][トンデモ]「美しい日本の憲法をつくる熊本女性の会」が『ドラえもん』の比喩をつかっていた報道について少し




熊本大学教授の高原朗子氏へのインタビューを産経新聞がのせていた。
結成2周年を迎えた「美しい日本の憲法をつくる熊本女性の会」 熊本 - 産経ニュース
インタビューにあるように、高原氏は発達障害などを専門にしている。
自閉性障害やアスペルガー障害など、いわゆる広汎性発達障害といわれる人たち(子供から大人まで)への臨床心理的支援を実践し、研究しています。その支援法として、Morenoが開発した集団心理療法である心理劇(即興劇による心理療法)を適用し、広汎性発達障害児・者の社会性の向上や気持ちを適切に表現できるよう支援しています。
もちろん非専門分野でも政治活動すること自体には問題ない。民主国家である以上、市民ひとりひとりが政治にたずさわることができる。
しかし高原氏の場合は、発達障害を後天的な教育によるものと主張する親学に協力していたりして、専門分野についても信頼しづらい。
家庭教育の再生―今なぜ「親学」「親守詩」か | 明成社オンライン
[コラム]「家庭教育条例案」論争の構図……熊本大学教授 高原朗子
そして高原氏はインタビューにおいて、専門分野の知見を利用していると語る。
その具体的な方策が『ドラえもん』をもちいた比喩なのだが、実際の作品を思い出すと逆効果としか思えない。
憲法9条と安全保障をめぐる問題では、「ドラえもん抑止力」の例え話をします。
ジャイアンはよく、のび太をいじめるが、ドラえもんがいれば、いじめが収まり、ドラえもんのグッズで一緒に遊んだりもする。ドラえもんは、抑止力として機能しているのです。
「九条の会」ら改憲反対派は「自衛隊を国防軍に明記したら暴走する」と言いますが、そもそも、のび太もドラえもんも悪い子ではないのです。
はてなブックマーク等で批判されているとおり*1、多くのエピソードはむしろ秘密道具の暴走に主眼がある。
特に、暴走のひとつに暴力装置をふくめて、政治風刺として完成した「のび太の地底国」が印象深い。のび太は善政を目指しながら革命によって打倒された。
子供のうちに読んでおきたいSF短編マンガ十篇 - 法華狼の日記
ジャイアンが暴力をふるって好き勝手に暴れまわる。そこでのび太に秘密道具の警察力が与えられ、ジャイアンを排除することに成功した。
パンとサーカス、そして外政……たしかにどれも必要ではあるが、それを拙速に満たそうとして、意識せず独裁者としてふるまってしまう愚かさが、毒のきいた風刺劇として楽しめる。のび太が国を正しく導こうとする行動は、開発独裁そのものだ。
あまりにも定番すぎて、のび太が暴走したという冤罪をかけられるパターンも定着した。「バショー扇」のように善行だけしていたのに叱られるエピソードまである。
『ドラえもん』身代わりテレビで南の島へ/風をあやつれ!バショー扇 - 法華狼の日記
のび太の行動が他人のためになる描写を増やしている。それがオチとの落差をいっそう際立たせた。
さらに同日の「身代わりテレビで南の島へ」を思えばドラえもんの懸念も的外れとは思えないという組みあわせの妙もある。
なかには、個人間の暴走が収束してからも、秘密道具が暴走をするという直球の政治風刺「しかえしミサイル」まである。5年前にアニメ化されて話題となった。
『ドラえもん』パパとのび太と酒の泳ぐ川/しかえしミサイルが飛んできた - 法華狼の日記
この短編では威嚇しあった結末に、和解をみる。そして仲良く野球をはじめるわけだが、高く打ち上げられたボールにミサイルが反応。気づかず野球を続ける四人のところへ、無数のミサイルが飛翔していく……
以前にも感じたことだが*2、実際には多様なエピソードがつまっている作品を、定着したイメージでもって比喩に使うのは難しいものだ。