古い酒場や横丁の雰囲気が何より大好きなんですが、2020年にオリンピックの開催が決定した東京では、そういう味わいのある風景が、街の再開発とともに急速に姿を消し続けています。
そんな中、東京都板橋区にある「東武練馬」という駅の近くに、その一画だけが戦後のまま時代から取り残されたかのような、小さな飲み屋街が残っているらしいことを偶然知りました。 「北町楽天地」という名前以外、詳しいことは全くわかりません。 実際にどんな場所か、確かめにいってみるしかない!
1978年東京生まれ。酒場ライター、他。酒カルチャー雑誌「酒場人」監修をはじめ、いろいろとやらせてもらってます。
前の記事:「居酒屋業界初の「おすそ分けシステム」誕生秘話 」 人気記事:「居酒屋業界初の「おすそ分けシステム」誕生秘話 」 楽天地めざして出発!目指す「北町楽天地」に関してなんですが、僕もネットで偶然写真を見つけて衝撃を受け、興味を持っただけで、本当に何の情報もありません。
話が早いと思うので、まずはこのGoogleの画像検索結果を見てみてください! 画像検索 『北町楽天地』 ね? 説明不要のヤバさがあるでしょう? もはや映画のセットにしか見えない、完璧な昭和の横丁感。 こんな風景が東京にまだ残っているなんて、想像するだけでワクワクします。 ただここ、ネット上に驚くほど情報が少なく、あっても数年前のものばかり。 はっきり言って、まだ現存している保証はどこにもありません。 っていうかこのご時世、もうなくなってると考えたほうが自然とすら。 なので、今日は100%ガチンコ勝負。 実際に行ってみて、なかったらこの企画はそれで終わりという無謀な方針でお送りします。 そんな行き当たりばったりの取材に付き合ってくれたのは、「酒といえば?」でおなじみのライター、スズキナオさんと、デイリーポータルZ編集部の古賀さん。 もし行ってみて北町楽天地がなくなってても、すぐにその場で代替の企画案を出して何とかしてくれそうな、頼もしすぎるメンバーです。 まずはウォーミングアップ~東武練馬へ夕方前、せっかくあんまり行かない方面ということもあって、周囲の散策からスタートしましょう、と、まずはスズキナオさんと待ち合わせ。
無駄に隣の駅「下赤塚」からスタートしてみることに
下赤塚に降りたのは初めてかもしれないんですが、かなり味のある街ですね。
のんびりと牧歌的でありながら、細かく見ていくと突っ込みどころが多い。 この下赤塚をスタート地点とし、 激安衣料品店で、何が何でも風を通さなそうな素材感の服を発見したり
金魚と食器の専門店を眺めたり
なんかメルヘンチックな一帯を抜けたり
ディープな演歌専門店を見学させてもらったり
疲れたら時に休んだり
途中で古賀さんも加わり、そんな風にふらふらしているうち、いつの間にやらたどり着いていました。
「東武練馬」!
うまく説明できないけど、ヤバいことが起こりそうな街並みだぜ~。
さて、北町楽天地に関してですが、本当に何の下調べもせずにやって来てしまったので、どこにあるかすらわかりません。 地図を見てみると「北町」という住所があるので、そっちの方へ行ってみましょう。 ここ東武練馬でもまた、 全然関係ない良さげな店に吸い込まれそうになったり(休みで逆に助かった)
原価を無視する豪胆さに関心したり
夏限定の売り文句を扉に直接書いてしまったお店にほのぼのしたり
と、気ままに楽しみつつ歩いていると……あれ? ここってもしかして
北町楽天地!?
あった! 急にあった!
駅から徒歩5分くらいでしょうか。 ごく普通~の商店街を歩いていたら、突然横道にこの風景が広がっていて、思わず面食らってしまったんですが、この雰囲気、目指していた北町楽天地に違いありません。 ひとまず更地になっていたりはせず、しかもあかりの灯る看板やちょうちんがチラホラと。 がぜんテンションが上がってきた~! いよいよ楽天地に潜入ついにこの風景の中に……
いよいよ憧れの「北町楽天地」探索を開始。
写真で見たことはありましたが、実際に肌で感じるその空気は圧巻の一言。 「残っていてくれてありがとう!」という感謝の気持ちが自然に湧いてくる、まさに奇跡の横丁ですね。 最深部の暗さもたまらない
振り返った風景は、この世とあの世の境目のよう
一軒目「立呑み のんべぇ」短い横丁を行ったり来たりして一通りその雰囲気を愛でたら、次は実際にお店に入ってみることにします。
まずは入り口すぐの、一番敷居の低そうなこちら 「立呑み のんべぇ」
というお店へ。
記念すべき、楽天地初の乾杯!
のんべぇは、ディープな世界への入門編にぴったりの、まっとうに居心地の良い立ち飲み屋さん。
立ち飲みの某名店で修行をされたマスターが、数年前に独立してオープンした新しいお店で、この場所を選んだのは、単にちょうど良い物件があったからだそう。 が、こうして新しいお店が入って、古い横丁が盛り上がるのは素晴らしいことですよね。 僕は「ホッピーセット」(400円)から
ナオさんが選んだのは
「北町ドンペリ」(350円)
聞きなれないドリンクですが、甲類焼酎を炭酸で割り、そこに特製のエキスをたらす、大衆酒場では「下町ハイボール」としておなじみのもの。
つまりは勝手に名乗ってるだけなんですが、ネーミングによって何だか特別に感させちゃうところがうまい。 古賀さんは、ドリンク一杯とおつまみ3種盛りがセットになった「おつかれさまセット」(850円)
お得感!
みんなでつまませてもらいます。 その他は、店内に短冊メニューがたくさん貼られているんですが、日替わりの品がカウンター上に並んでいて、中からあまりにも美味しそうだった 「鮭カマ焼」(400円)
や、最初「菓子パン!?」と見間違えたほどにビッグサイズの
「プルンプルンバターマッシュ」なるキノコを使った、
「山なめこバター」(350円)
などを。
どれも見るからにうまそうですが、その通りにうまいです。 2階はちょっと変わったテーブル立ち飲みスペースになっていました
この一帯は、いわゆる「ちょんの間」(気になったら各自調べてみてくださいね)として使用されていた時期もあるそうで、そう聞くとこのスペースの味わいもより増します。
「うちは2回来たら常連だから!」と、明るく楽しいマスター
女性読者に朗報
ここでマスターから「あ、そうそう、向かいのお店、今日で最終日だよ」というものすごい衝撃情報を入手。
な、なんと運命的な。 これは行かないわけにはいかないでしょう。 二軒目「お千代」というわけで、楽天地ハシゴ酒2軒目は、こちら
「お千代」
というお店へ。
「おじゃまします」
お千代は、店名通り、ママのお千代さんが営むこじんまりとした飲み屋さん。
今日が営業の最終日で長年この世界で働いてきたお千代さんも引退される営業ということもあってか、常連と思われるお客さんたちでに大変ぎわっています。 「彼、いい顔してるよね」かなんか言われてるナオさん(ぎりぎり見切れてる右)
カウンターにドサっと乗せられた二十日大根
決まったメニューはなく、こういうものを好き勝手にかじったり、あとはママがお客さんの様子を見ながらおつまみを出してくれる、というシステム。
「おつかれさまでした!」「ありがとう~」
「これ食べる?」
と出てきたのは、ゆで玉子と、もち米を皮にしたシュウマイ的なもの。
湯気のせいか、いよいよあの世にきてしまったような写真ですね。 「ひとり1匹ずつね」とウルメイワシ
「あんたたち、梅酒も飲んでく?」
お店の最終日と聞いて来てみたものの、そこに悲壮感のようなものはまるでなく、聞けば「最近忙しすぎるから、明日から掃除のおばさんの仕事1本に絞るのよ!」とお千代さん。
仕事に優劣を付けないドライさ、そして常にお客さんと冗談を言い合いながら、心底楽しそうに仕事をされている姿は、人生のお手本そのもの。 ナオさんが幸せそうなら、そこはいい店
「はい、最後にご飯食べて帰んなさい」
と、出てきたサツマイモの炊き込み御飯の優しいことといったら。
飲み屋でご飯ものをめったに食べない僕も、一粒残らずありがた~く頂きました。 ビールやらウーロンハイやらも飲んでたらふく食べて、お会計はざっくり、ひとり1500円。 安すぎ。 お千代さん、ごちそうさまでした。 そして、お疲れ様でした! いったん休憩~北町楽天地最古の店へ大変美味しかったとはいえ、山盛りのご飯まで頂いてかなり満腹。
いったん楽天地を出、腹ごなしもかねて周囲を散策してみることにします。 するとすぐ近くに、これまた渋すぎる 「北町アーケード」
なるアーケード街を発見。
なんだここ! かっこよすぎる!
いったいどうなってるんでしょうか、この東武練馬って街は。
こっちも後日、じっくりと来てみないと気がおさまんないじゃん! なぜ2つ?
などとふらふら散歩を楽しむこと15分ほど。
そろそろまた楽天地に戻り、もう一軒だけ寄って帰りましょうか。 「おっとここだ」
うっかりしていると素通りそうになる、このコンパクトなサイズ感が本当に良い。
「さ~て、もういっちょ飲むか~!」
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