幼い子どもを持つ親たちの多くにとって、保育園を利用できるかどうかは死活問題である。来年4月からの保育園入園を目指すならば、前年の11〜12月にかけて、書類を整え入園申込書を提出するのが通例だ。
保育園を利用するのは働く親のためと捉えられることが多い。安倍政権はもちろん、過去の政権においても、待機児童解消は重要な政策課題とされてきたが、その最終的な目標は女性の就業率と出生率の引き上げである。
しかし真っ先に影響を受けるのは保育園通いをする当の子どもである。待機児童解消はそれを利用する親にとっては好ましいことなのだろうが、保育園通いは子どもの幸福にとって本当に好ましいことなのだろうか。
これまでの保育をめぐる政策論議の中ではあまり重視されてこなかったが、望ましい政策を論ずるうえで欠かせない論点である。
こうした問題意識から、筆者は共同研究者らとともに、保育園通いが子どもの発達にどのような影響を及ぼすのか分析を行った。
子どもたちの言語発達に加え、多動性・攻撃性といった行動面の発達が保育園通いで、なぜ・どのように変化するのかを明らかにするのが目的である。
分析のためのデータには厚生労働省が実施した大規模調査である、21世紀出生児縦断調査を利用した。
この調査では2001年と2010年に生まれた子どものうちおよそ8万人を対象として生後半年から毎年追跡し、その発達状態や家庭環境、両親の就業状態、そして保育園の利用状況などについて調べている。幼い子どもとその家庭について知る上で、まさにうってつけのデータといえよう。
この調査では2歳半時点での子どもの言葉の発達について調べている。具体的には、以下の項目について、「はい」または「いいえ」で保護者が回答する。なお、実際の回答者の9割は母親である。
1. 「ママ」「ブーブー」など意味のある言葉を言う
2. 2語文(「ワンワン キタ」など)を言う
3. 自分の名前が言える
1から3になるに連れて「はい」の割合は減少するが、それでも9割近くの子どもは自分の名前を言うことができる。
したがって、これらの質問に対する回答からわかるのはどの子どもの言語発達が遅れているかということであり、英才教育に役立てるようなものではない。
実際、世界中の小児科医が同様の質問を利用し、何らかの助けが必要なこどもを見つけることに役立てている。