脳からの信号が膵臓で「インスリンを増やす」仕組みを解明 東北大学
2017年12月08日
インスリンを分泌するβ細胞の数を増やすことでインスリンの量を増やすという、新たな糖尿病の根本治療法の開発につながる研究を、東北大学が発表した。脳からの信号が膵臓のβ細胞の数を増やしているという。複数の神経由来物質を組み合わせて作用させることで、β細胞を増やすことにも成功した。
脳からの信号がβ細胞の数を増やしている
肥満になると2型糖尿病になりやすいのは、血糖を下げるインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が起こるからだ。糖尿病を発症しない人は、インスリンを分泌する膵臓の「β細胞」の数を増やすことで、糖尿病になることを防いでいると考えられる。
東北大学の研究グループは、脳からの信号がインスリンを作るβ細胞の数を増やしており、「糖尿病を防ぐ」システムと機能していることを解明した。実験では、複数の神経由来物質を組み合わせて作用させ、β細胞を増やすことに成功した。
β細胞の数を増やすことにより、インスリンの量を増加させることができれば、新たな糖尿病の根本治療法の開発につながる。
研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の今井淳太氏、山本淳平氏、井泉知仁助教、片桐秀樹教授らの研究グループによるもの。研究は、科学誌「Nature Communications」に発表された。
神経が出す物質がβ細胞を増やしている
肥満と2型糖尿病の発症とは密接な関係があるが、肥満があっても糖尿病を発症しない人も多い。それは、インスリンを作るβ細胞の数を増やして、インスリンを多く出せるようにしているからだ。
これまでに研究グループは、β細胞を増やすために、肝臓が肥満の初期状態を感知し、「肝臓 → 内臓神経 → 脳 → 迷走神経 → 膵臓」という神経信号伝達システムを使って、膵臓に信号を送ることが必要であることを突き止めていた。
今回の研究で、迷走神経が分泌するβ細胞を増加させる物質を複数同定し、これらの物質がβ細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1 経路)を活性化させて、β細胞を増やしていることを解明した。
神経由来物質を組み合わせることで、β細胞を増やすのに成功
解明した分子メカニズムにより、食事が過量となったときに、体重が増え始める前にβ細胞を増やし、血糖値の上昇を予防していることが明らかになった。
さらに、研究で同定した、神経から分泌され神経細胞同士の情報伝達に利用される伝達物質である「アセチルコリン」、「PACAP」(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)、「VIP」(vasoactive intestinal polypeptide)を試験管内でβ細胞に直接作用させたところ、β細胞の数が増えることを確認した。
今回の発見によって、血糖値を正常に保つシステムが詳しく解明された。このシステムが破綻すると、2型糖尿病を発症すると考えられる。
日本人の2型糖尿病の多くは、β細胞が減少することが原因で発症すると考えられているが、現在の医療ではβ細胞を増やす治療法は実現していない。β細胞の増加をコントロールする神経信号伝達システムが解明できれば、本来あるべき膵臓という場所でβ細胞を増やすという、新たなは糖尿病の根本治療法の開発につながると期待される。
Neuronal signals regulate obesity induced β-cell proliferation by FoxM1 dependent mechanism(Nature Communications 2017年12月5日)
[ Terahata ]
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