中国の習近平・国家主席は12月3日から5日まで3日間の日程で開催された「第4回世界インターネット大会」の祝辞で、「インターネットは各国の主権や安全、発展、利益に新たな課題をもたらしている」としたうえ、サイバー空間を中国の主権がおよぶ領域と位置づけ、統制を強化すると宣言した。
すでに中国は、万里の長城になぞらえて「グレート・ファイアウォール」(ネットの長城)と呼ばれる情報遮断の壁を設けているが、今後は一段とエスカレートすると思われる。企業が取得・蓄積した個人情報を保管するサーバーを中国国内に設置すること、個人情報を中国当局に開示すること、母国の本社と中国現地法人の間の通信をガラス張りにすることなどが、事実上義務づけられる恐れがある。
さらに深刻なのは、ロシアやアラブ諸国といった新興国・途上国を中心に、中国ばりのネット統制に追随する国が続出しかねないことだ。ほぼ5年前の国連のルール改正により、国家が安全保障を理由にネットを統制する立法を行うことは、すでに国際的に正当化されている。
自由主義を標榜する先進国であるアメリカが、9・11同時多発テロののちにその抑止を理由に「愛国者法」や「自由法」といった立法措置を強行して、人権や個人情報の保護をないがしろにしてきた事実もある。
思想や信条、言論の自由といった基本的人権や自由な通商の堅持が危ぶまれる国際情勢のなかで、この潮流とどう向き合うのか。われわれ日本人も真剣に対策を練り、行動を起こす必要に迫られている。
第4回世界インターネット大会は中国政府の主催により浙江省の烏鎮で開かれた。テーマは「デジタル経済の発展による、開放と分かち合いの促進——サイバー空間の運命共同体をともに構築するために」。アジアやアフリカを中心に約1500人のゲストが集まり、同時開催のビジネス博覧会にも世界的に有名なインターネット企業約400社が参加した。
世界第2の経済大国になった中国が進めるネット統制強化の方針に対して、営利目的の民間企業が異を唱えるのは容易ではない。
ロイター通信によると、大会に参加した中国のネット通販大手アリババ・グループ・ホールディングのジャック・マー会長は、「(中国でビジネスをしたい外国企業は)中国のルールに従うべきだ。不満なら去ればよい」と、中国政府の肩を持つ発言を行った。
歯切れが悪かったのはアメリカ企業だ。フェイスブックのバイスプレジデントであるボーガン・スミス氏は「私はデータ利用における指導力という面で中国を称賛したい」「(中国サイバースペース管理局(CAC)や工業情報省などは、この分野で)素晴らしい仕事をしている」と、中国政府を持ち上げた。
一方、苦しい胸の内を垣間見せたのは、同じアメリカ企業アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)だ。クック氏は、現地で「デジタル経済を開放性と共有利益のために発展させるというこの大会のテーマは、われわれアップルもともに抱いているビジョンだ」と述べるにとどまった。
また、その3日後に広東省の広州で受けたインタビューでは、中国向けのアップ・ストア(App Store)からインターネット電話サービス・スカイプ(Skype)のアプリを削除せざるを得ないなど、ビジネスの自由が侵されている現実を問われ、アメリカ人の自分の信条には反するとしながらも、「他国市場に参入する場合、その国の法律や規則に従うことが求められる」と発言。不本意であっても、中国でビジネスを行う企業の経営者としては、政府に従わざるを得ないと胸中を吐露した。