70年代に数々の名曲を送り出した、ニュー・ソウルの伝説的なシンガー/プロデューサー、リロイ・ハトソンがベスト盤『Anthology 1972-1984』をリリースした。日本独自のボーナス・トラックを含め全20曲を収録した同作は、音質面での向上に加え、2曲の未発表音源が初公開。エリカ・バドゥの“No Love”を筆頭に、ヒップホップ以降の時代において多くの人気曲でサンプリングされ、すでにソウル・クラシックと言うべき風格を漂わせているリロイ・ハトソンのナンバーだが、今回のコンピレーションの登場によって、さらに多くの若い世代が彼を発見するのではないだろうか。加えて、2018年の5月初頭にはBillboard Liveにて、キャリア初となる来日公演も決定(詳細は後述)! まさに再評価の機運高まる不世出のソウルマンについて、音楽ライターの小野田雄が、2017年ならではの視点から魅力を掘り下げていった。 *Mikiki編集部
LEROY HUTSON Anthology 1972-1984 HOSTESS/Acid Jazz(2017)
カーティス・メイフィールドの後継としてインプレッションズに加入
アメリカ五大湖の一つ、ミシガン湖から吹くクールな風が夏のリゾートに相応しいとの評判から〈ウィンディ・シティ〉と評されたミシガン州シカゴ。山下達郎の名曲“Windy Lady”のモチーフにもなった街で育まれたシカゴ・ソウルは、その特徴である〈ゴスペルの影響を都会的に洗練させたアーバンでクールなタッチ〉がよく知られている。
68年、カーティス・メイフィールドが地元である同地に設立し、70年代のシカゴ・ソウルを代表するレーベルとなった〈カートム(Curtom)〉。その主要所属アーティストの1人であり、後のブラック・ミュージック史に大きな影響を与えたソウル・シンガーがリロイ・ハトソンだ。そのキャリアは、ハワード大学在籍時のルームメイトにして、ソウル・クラシック“The Ghetto”を共作したダニー・ハサウェイの推薦で、名ヴォーカル・グループ、インプレッションズに加入したことでスタート。脱退したカーティスの後釜を務めていたことでもよく知られている。
アシッド・ジャズ時代の再脚光を経て、いまも援用されるクラシックへと
先頃リリースされたベスト・アルバム『Anthology 1972-1984』は、インプレッションズ在籍を経てソロに転身したリロイ・ハトソンが、カートム在籍時に残した名曲の数々を凝縮した濃密なベスト盤だ。この作品リリースに際して、77年に録音され、後にタヴァレスに提供されたゴージャスなオーケストラル・ディスコ“Positive Force”と82年録音のブギー・トラック“Now That I Found You”という2曲のお宝未発表曲を発掘されている。
加えて、世に送り出したのが、近年の90'sリヴァイヴァルにおいて、再評価の機運が高まっている英国レーベル〈Acid Jazz(アシッド・ジャズ)〉であることも特筆すべきだろう。何故、Acid Jazzからリロイ・ハトソンが? それは、80年代にレアグルーヴとして発掘された彼の楽曲を、当時のイギリスのDJたちが盛んにプレイしたという歴史的経緯があるのだ。そして、レアグルーヴからアシッド・ジャズの時代へ。なかでも人気を博した“All Because Of You”は、ジャズ詩人、ガリアーノの“Welcome To The Story”にサンプリングされたほか、スノウボーイがノエル・マッコイをフィーチャーした“Lucky Fellow”、キャメル・ハインズの“Closer To The Source”といった名カヴァーも、90年代のアシッド・ジャズ・シーンを華やかに彩った。つまり、リロイ・ハトソンは、レーベル〈Acid Jazz〉育ての親の1人でもあるのだ。
また、“Lucky Fellow”は、エリカ・バドゥの“No Love”で、“Don't It Make You Feel Good”はナズの“The World”でそれぞれサンプリングされているほか、ノトーリアスBIG、ボーン・サグズン・ハーモニー、ウィズ・カリファ、ヤング・ジージーにサンプリングされるなど、ヒップホップ、R&Bシーンでも長きに渡って愛され続けている。
スウィートでスムースなサウンドを受け継いだ、チャンス・ザ・ラッパーらシカゴ新世代
ジル・スコットの2007年作『The Real Thing: Words And Sounds Vol. 3』やミュージック・ソウルチャイルドの2009年作“So Beautiful”のプロデュースでグラミー賞にノミネートされたジュニア・ハトソンは、リロイ・ハトソンのスピリットを受け継ぐ彼の実子だ。現在のシカゴ・シーンはそのさらに下の世代であるチャンス・ザ・ラッパーの活躍もあり、近年、活況を呈しているが、チャンスとヴィック・メンサが率いるクルー〈セイヴ・マニー(Save Money)〉やドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント、来日の続く女性アーティスト――ノーネーム、ジャミーラ・ウッズといったヒップホップ、R&Bアーティストと、リロイ・ハトソンとでは孫ほどの隔たりがある。
しかし、その洗練された作風に知性を感じさせるシカゴ新世代の活躍は、シカゴ・ソウルのレガシーがあってこそ。そのなかでも、作詞作曲からアレンジ、プロデュースまで一手に手がけるマルチな才能を注ぎ込んだリロイ・ハトソンの作品は、公民権問題やヴェトナム戦争、環境問題など、さまざまな社会問題が渦巻き、強いメッセージが求められた時代にあって、あまりにスウィート、あまりにスムースだった。それが同時代のカーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーほどの評価を得られなかった理由であるが、それゆえに本作は、時代に埋もれた素晴らしい音楽遺産と出会う絶好の機会を多くのリスナーにもたらすだろう。
Live Information
リロイ・ハトソン
2018年5月3日(木・祝)、5月5日(土・祝) Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場15:30/開演16:30
2ndステージ 開場18:30/開演19:30
サービスエリア 8,500円/カジュアルエリア 7,000円
★詳細はこちら
2018年5月7日(月) Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場17:30/開演18:30
2ndステージ 開場20:30/開演21:30
サービスエリア 8,900円/カジュアルエリア 7,900円
★詳細はこちら
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