同性をあまり好きになれない。
友達は多いけど、例えばアイドルとかモデルとか同性にハマれない。ごく稀にこうなりたいな、と思ったりする人はいるけどそれは尊敬で…基本的に好感を持つことは少ない。
書店で接客業をしていると、やたらニコニコ笑いかけて『ありがとう』と言ってくる人は男女共に何人かいて、気味が悪いなと思っていた。どんだけいい人間だよ、怖いわ。と思った。
けど一人だけそうじゃない子がいた。
ワンレンのロングヘアで、下がり眉に狐のような目をしている。そしてすごく笑顔で、とにかく私の目を見てくる。多分、大学生だ。
こんな子いるんだ、すごく可愛い。
こんな漫画読むんだ、話したい、この作家さんの本良いですよねって言いたい。彼女なら聞いてくれるような気がした。たまにお客さんにそうやって話しかけることはあるけど、彼女にはなぜか気軽に話しかけることが出来なかった、私は明らかに照れてしまっていた。
仕事が終わって、帰り道。美容院が沢山ある通りを歩いていた。ほんのりシャンプーの香りがする道で、向かい側から彼女が歩いてきた。
すれ違うまでのほんの数秒で、わたしは思考が完全に止まっていた。普段なら、仕事が休みの日に顔見知りの常連客とすれ違った時には軽く会釈する。だけど彼女は常連客というほど頻繁には来てない、せいぜい半月に一度くらいだ、顔見知りというレベルではない、それに私服の私に気付くわけが
『こんばんは』
こ、こんばんは!
先生に当てられた生徒みたいな挙動で返した。この子覚えてたんだ、私のことを。すごいな、わたしは本屋の店員の顔なんか覚えられないよ。
ああ…大好きだ。恋ではないけど、お気に入りの、好きな女の子が出来た。