なぜ受けられない?ワクチン開発に「格差の問題」

貧しい国々よりも先進国が優先、数多くの幼い命が危険にさらされている

2017.12.11
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パキスタン
南部カラチの商店主グラム・イシャクは、ポリオワクチンを信用しなかったことを後悔している。4歳の娘ラフィアは、片脚にポリオによる麻痺(まひ)があるため自動車をよけられず、反対側の脚を骨折した。PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS

 ワクチンの普及によって救われた命がどれだけあるだろうか。

 正確な数字を出すのは難しいが、それが近代医学における最大の功績の一つであることは間違いない。たとえば1980年代には、麻疹で亡くなる子どもの数が、世界全体で年間200万人を超えていた。だが世界保健機関(WHO)によると、ワクチンのおかげで2015年には13万4200人にまで減少。ポリオも、集団予防接種により3カ国を除いて排除されている。

肺炎球菌と闘う

 米国やカナダで、小児用の肺炎球菌ワクチンが導入され始めたのは2000年頃。当時、世界では年間80万人を超す子どもが、肺炎球菌による肺炎や敗血症によって命を落としていた。そしてその大半が貧しい国の子どもたちだった。

 肺炎球菌は現代社会の至るところに存在し、くしゃみや軽い接触によって人から人へ感染する。免疫力があれば、細菌が鼻腔にあっても問題は起きない。だがいったん免疫力が低下すると、体内を移動して増殖し、命に関わる感染症を引き起こす。幼い子どもは特にかかりやすい。

 肺炎球菌のタイプには、地域性がある。たとえば「血清型1」は、米国ではほとんど見られないが、アフリカや南アジアでは罹患および死亡原因のトップを占める。そのため、ワクチンは小児にとって重要な血清型を数種類含んだ多価ワクチンである必要がある。

 ところが、2000年に発売された最初の小児用肺炎球菌ワクチン「プレベナー」は、米国で頻度の高い7種類の血清型の肺炎球菌に対して効果があるワクチンだった。史上最も高価なワクチンの一つで、4回の定期接種に232ドル(約2万7000円)かかる。米国では、その価格でも子どもたちに投与できた。

 一方で、危険性が認識されながらも製造されてこなかったのが、アフリカや南アジアの貧困地帯で死や重篤な後遺症をもたらす可能性が最も高い、血清型1に有効なワクチンだった。

ワクチン開発の格差

 ほとんどのワクチンは、民間企業が利益を得るために作っている。その製造は最近まで、一握りの欧米の巨大製薬会社によって独占されていた。国境なき医師団のような支援組織は、製薬会社に対してワクチンの価格を下げるよう要請しているが、企業側が主張するように新たなワクチンの開発には膨大な費用と長い年月がかかるのも確かだ。

「この仕事を始めたとき、どうにも悩ましかったのが格差の問題でした」と、米国の慈善団体ビル&メリンダ・ゲイツ財団でワクチン配布の責任者を務めるオリン・レビンは語る。数年前、アフリカのマリにいた彼の同僚は、あるアフリカ人女性が肺炎球菌による肺炎で娘を亡くす現場に立ち会った。肺炎で娘を失うのは2度目だったという。レビンにも同じ年頃の娘がいた。

「先進国の子どもが肺炎球菌による感染症で亡くなる可能性は、貧困国の100分の1程度です。なぜ私の子どもたちはワクチンを受けられるのに、もっとワクチンを必要としているマリの子どもは受けられないのでしょうか」

 もちろんレビンはその答えを知っている。最も必要としている人々にワクチンを届けることは、製薬会社の利益に結びつかないからだ。

※ナショナル ジオグラフィック12月号特集「ワクチンで世界の子どもを救う」より抜粋。

Cynthia Gorney/National Geographic

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