中央銀行がマネーを大量に供給すれば、人々の「インフレ期待」が醸成され、物価も上がり経済も成長していく。これが「世界標準だ」と言う一群をリフレ派と呼ぶ。かつてゼロ金利を解除した故・速水優日銀元総裁やインフレ目標導入に消極的だった白川方明前総裁が彼らの仮想敵で、批判というより罵倒する非寛容な姿勢が特徴的でもある。
そのリフレ派が歓喜した黒田東彦総裁の「バズーカ」からはや5年。日本のみならず欧米でも物価が上がらない現状を前に少し自信が揺らいでいるのか、最近では「リフレ派も色々」(日銀幹部)らしい。
中でもマネー供給量への信奉が極めて強い「純正リフレ派」は、当初シナリオを崩した主犯を2014年4月の消費税率引き上げとする。せっかくうまくいっていたのに増税で消費が腰折れしたというわけだ。安倍晋三首相が財務省の言うことを聞き過ぎたのが誤りとの思いもあるらしい。
旧大蔵省出身ながら消費税に批判的な本田悦朗駐スイス大使らは純正リフレ派といえる。彼らは一段の財政支出に、日銀が国債引き受けで協力することも排除すべきではないと考える。財政再建のための19年10月の消費税率引き上げなど論外らしい。旧大蔵省主税局経験が長い黒田総裁は消費税率上げには前向きで、純正リフレ派とは立場を異にしているようにみえる。
この構図の中で、18年4月に任期満了を迎える黒田氏の後任人事をどう考えればいいか。「打診あらば全力を尽くす」と公言しているのが、先の本田氏だ。いくら官邸と近いとはいえ、国会承認も必要な日銀総裁人事について、今の段階でここまで開けっぴろげに意欲を示す候補は珍しい。
疑問も湧く。過去に2度延期された10%への消費税率上げを19年10月に実施すると掲げ、選挙にまで打って出た安倍首相は果たして本田氏を選ぶだろうか。
仮に「本田日銀総裁」が消費税に前向きになれば、宗旨変えの批判は免れまい。逆に、首相が本田氏を指名するなら、消費増税をまた先送りする腹積もりか、と勘繰りたくなる。黒田総裁続投なら予定通りの税率引き上げがメインシナリオでも不思議ではない。
次期日銀総裁人事と消費税。市場がどう織り込むかも含めて、目が離せない。(三剣)