社会
遺体をアルカリ溶液に浸してドロドロに、そして…|米国で人気急上昇! 死後の第3の選択肢「水葬」とは
From The New York Times (USA) ニューヨーク・タイムズ(米国)
Text by Jonah Engel Bromwich
死後の遺体をアルカリ加水分解によって“液化処理”する弔い方が米国で広まっている。この新しい「水葬」ことアルカリ分解葬の仕組みと人気の秘密を探った。
残るのはコーヒー色の液体と…
自分が死んだとき、遺体をどう処理してもらうか──あまり楽しい想像ではないが、大事な問題である。
米国では長い間、現実的な選択肢は2つしかなかった。土葬か火葬だ。
しかし今、3つ目の選択肢が米国各地で広まりつつある。水葬だ。
「水葬」と言っても、遺体や遺骨を海や川に沈めたり流したりする、あの水葬ではない。遺体をアルカリ加水分解によって“液化処理”するというもので、「無炎火葬」「エコ火葬」などとも呼ばれる。
10月、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は、アルカリ加水分解葬を認める法案に署名。米国でこの方法を合法化した15番目の州となった。
埋葬や火葬といった伝統的な方法に比べると、水葬の様子はずいぶん趣が異なる。アルカリ溶液を満たした機械に遺体を入れ、その中で人体のタンパク質や血液、脂肪を分解する。後に残るのはコーヒー色をした液体と、粉末状の骨、歯の詰め物などの金属だけだ。
アルカリ加水分解は、その手法の研究が進んだ1990年代から人間やペットの遺体処理に利用されてきた。約10年前からは処理用の機械が一般にも広まりはじめ、現在ではこの手法を希望する人が増えている。
希望する理由として多いのは、墓地のスペースが不足するなかで「環境への配慮やコストの面で魅力がある」というもの。加えて、火葬に比べて「残酷ではないから」と希望する人たちもいる。米国では長く土葬が主流だったが、最近は火葬のほうが多くなっている。
カリフォルニア州で法案を提出したのは、サンディエゴを地盤とするトッド・グロリア州下院議員で、地元の水葬事業者の要請を受けてのものだった。グロリアは法案提出について、支持者の利益のためという側面は認めつつも、人々により多くの選択肢を提供するためでもある、としてこう語る。
「多くの人がそうであるように、私も死について話したり考えたりすることはあまりありません。避けてきた、ということかもしれません。
でも、アルカリ分解葬は実に斬新なアイディアだと思います。私自身、とても興味をそそられています」
直径70cmの円筒装置に入って…
「死体や排泄物の処理方法」として、アルカリ加水分解の特許がアメリカで認められたのは1888年のこと。その約100年後には、アルバニー医科大学のゴードン・ケイ博士とピーター・ウェーバー博士が技術の近代化に成功した。
仕組みはこうだ。専用の機械でアルカリ性の水溶液を作る(一般的に使われるのは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはこれらの混合物)。水溶液で満たされたこの機械に、遺体を入れて「水葬」するのだ。
人体の65%は水分だが、約20%は血液や筋肉、皮膚や骨などに含まれるタンパク質である。アルカリ溶液はこうしたタンパク質や脂肪を分解する。
分解後、機械にはミネラルや塩、アミノ酸、脂肪酸が水に溶けだした無菌状態の茶色い液体と、粉末状に砕くことができるほど分解された骨、さらには金属が残される。
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