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受信料を払いたくない人も納得の「大胆なNHK分割案」を示そう

なくてはならない機能もあるからこそ
髙橋 洋一 プロフィール

電波オークションについていっておきたいこと

次に②である。「オークションは先送り」という報道は、ちょっとミスリーディングである。

電波オークションは、マスコミの収益を支えてきたテレビへの新規参入を促進する効果をもつことを、筆者は本コラムでも書いてきた。例えば、2017年11月20日「新聞・テレビが触れられたくない「マスコミの大特権」の話をしよう」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53563)である(その中で、やや古い資料により「電波オークションを実施していない先進国は日本を含めて3ヵ国」と書いたが、現時点では日本だけだった。訂正しておきたい)。

こうした中、8日(金)に電波制度改革での閣議決定があった。先月29日に出された規制改革推進会議第二次答申を着実に実施する、というものだ。

第二次答申のポイントは以下である。

ここに書いているのは、aは「平成30年夏までに検討・結論、平成30年度中に法案提出」、bは「平成29年度以降継続的に検討」ということでより重要なのは明らかに「a」である。

aの中で、ポイントは、「価格競争の要素を含む新方式を導入(平成31年通常国会で法整備)」という部分である。bは「入札価格の競り上げにより割当を受ける者を決定するオークション制度について、…引き続き検討を継続する」と書かれているが、新聞報道は、この「オークション」という言葉に反応して、「オークション先送り」としたようだ。

 

そもそも、オークションにはいろいろな形態がある。入札者が相互に価格を知ることができる公開型には、競り上げ方式(イングリッシュ・オークション)と競り下げ方式(ダッチ・オークション)があり、一方入札者が相互に価格を知らない封印型には、ファーストプライス方式とセカンドプライス方式がある。また、それ以外の要素の組み合わせもあり、オークションの形態は多種多様である(下図)。

ちなみに、一定の条件のもとでは、売り手の得る期待収入はオークション方式に依存せず同一となる、という収入同値定理(revenue equivalence theorem)が数理的に証明されており、イングリッシュ、ダッチ、ファーストプライス、セカンドプライスの4方法では、それが成り立つとされている(なお、セカンドプライス方式は、数理的なオークション理論で1996年にノーベル賞を受賞したヴィックリーにちなみ、ヴィックリー・オークションといわれている)。

こうした知識をもとに第二次答申のポイントを読めば、一般的な用語として「オークション」とは「イングリッシュ・オークションとそれ以外のオークション」になるが、bの文章より、イングリッシュ・オークションは「引き続き検討を継続する」となる。

しかし、「オークション」は、多種多様であることを考えると、aの「価格競争の要素を含む新方式」はすべての「オークション」を含むこととなる。それを「平成30年度中に法案提出」するとなっている。

マスコミは、イングリッシュ・オークションだけが「オークション」と思い込んだのだろう。実は、筆者は役人時代に多くのタイプのオークションを経験したことがある。国債入札であっても、価格競争でも競り上げ方式ではない競り下げ方式のダッチ・オークションを経験したこともあり、また非価格入札もある。「オークション」という言葉には、それらの広い意味があるのである。

もちろん新方式は「平成30年度中に法案提出」となっている以上、既得権を確保したい抵抗勢力は必死に電波オークションの法案化に抵抗するだろう。しかし、この閣議決定でかなり外堀は埋まったというのが筆者の感想である。なにしろ、電波オークションを導入していないのは日本だけである。抵抗勢力の言い訳(外資がテレビ局を乗っ取ることへの懸念など)への対策は、すべて先進国のオークション事例の中にあるといってもいい。

マスコミは「オークション先送り」と報じてホッとしているところだろうが、しかし相当な危機感を持っておいた方がいい、と忠告しておこう。