B型肝炎患者への国の救済策で、発症から20年を超えると、国の給付金が大幅に減額されることをめぐり2人の患者が国を訴えた裁判で、福岡地方裁判所は、症状が再発した時期から考えると20年は経過していないと判断したうえで、給付金を減額しないよう求めた患者の訴えを認める判決を言い渡しました。弁護団によりますと、B型肝炎患者の同様の裁判で患者の訴えを認める判決は初めてだということです。
福岡県に住む60代と50代の男性患者2人は、幼いころに受けた予防接種で注射器を使い回されたことによりB型肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎を発症したとして、国に損害賠償を求めています。
B型肝炎患者への国の救済策では、慢性肝炎の場合、1250万円の給付金が支払われますが、発症から20年たつと最大で300万円に減額されます。
2人の患者は、平成16年と20年に症状が再発していて、「再発からは20年たっておらず減額されない」と主張したのに対し、国は「最初の発症から考えると20年が経過している」と争っていました。
11日の判決で、福岡地方裁判所の片山昭人裁判長は「慢性肝炎の再発は、最初の発症とは質的に異なる新たな損害を被ったというべきだ。症状が再発した時期から考えると、20年は経過していない」として患者の訴えを認めました。
そのうえで、国に対し、2人にそれぞれ、弁護士費用を含めて1300万円余りを支払うよう命じました。
弁護団によりますと、B型肝炎の再発をめぐる同様の裁判は全国でおよそ80人の患者が起こしていますが、患者の訴えを認める判決は初めてだということです。
原告の60代男性「40代、50代を病気で台なしに」
原告の1人、福岡県内に住む60代の男性は、28歳のときに、B型肝炎に感染していることを知りましたが、当時は、知識がなく、医師からも「体に無理をしなければ大事に至ることはない」と説明されたと言います。
しかし、38歳のとき、突然、慢性肝炎であることを医師から告げられ、治療のために経営していた会社を廃業しました。代わりに妻が働きに出ました。
男性は当時の心境について、「家族に迷惑をかけたのかなって思いますね。私自身はいつ肝臓がんになるんだろうかという心配し、あと、何年生きられるのかという恐怖がありました。40代、50代をほとんどこの病気のために台なしになったというか、人生を損したなと、これさえなければ別の人生だったかなと、思っています」と話しています。
発症から9年がたったとき、症状はいったん改善しましたが、4年後に再発し、今も毎日、薬を飲み続けています。
国の対応について、男性は「国は使い回しの危険性があることをずいぶん前からわかっていたみたいなんですが、それを傍観して、全然手だてもしないで放っておいたあげく、われわれを20年で切るのは納得いかないという思いがあります。長期にこの病気に向き合ってきたんですから、20年という枠組みで切り捨てないでもらいたいというのが本音です」と話していました。
B型肝炎訴訟の経緯
B型肝炎は、ウイルスに感染すると慢性肝炎や肝硬変、さらに重症化すると肝臓がんになって死に至る場合もあります。
B型肝炎の患者は国内に100万人以上いると推計され、このうち最大で40万人以上が昭和23年から63年までに行われた予防接種の注射器の使い回しによって感染したとされています。
B型肝炎をめぐっては、平成元年に北海道の患者らが裁判を起こし、平成18年に最高裁判所が国の責任を認めて賠償を命じましたが、その後も患者の救済が不十分だとして、平成20年以降、全国各地で患者や遺族が裁判を起こしました。
そして、6年前の平成23年、国と原告団は和解の基本合意を結び、国が支払う給付金の額を肝臓がんや重い肝硬変などで3600万円、慢性肝炎の場合は1250万円としましたが、慢性肝炎の発症後20年が経過した患者は最大で300万円に減額されました。
これは、民法で損害賠償を請求できる権利が20年経過すると消滅するためとされていますが、これについて、発症から20年を経過した患者など250人がほかの患者と同じ救済を求めて各地で裁判を起こしています。
このうちのおよそ80人は今回と同じように、症状の再発からは20年を超えていないと訴えていて、11日の判決が注目されていました。
患者男性「泣きそうなくらいうれしい」
判決のあと、患者の男性と弁護団が福岡市内で記者会見し、この中で患者の60代の男性は「自分がいつまで生きられるかという不安、それとの戦いで、本当に苦しい思いでした。判決を聞いたときは泣きそうなぐらいうれしく思いました。ありがとうございました」と述べました。
また、九州弁護団代表の小宮和彦弁護士は「全面的に患者の訴えを認めており、同じような患者にも救済の道を広げる判決だと高く評価したい。今回の判決をきっかけに、公平な解決を目指して戦っていきたい」と述べました。
厚労省は
判決について厚生労働省は「判決の内容は十分承知していないが、国の主張が認められなかったと聞いている。判決内容の詳細を確認したうえで、関係省庁と協議し、今後の対応を検討したい」としています。