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推定分野について  


研究成果のポイント

  1. コバルトプルシャンブルー類似体を正極と負極に配置したイオン電池型セルを作成し、28℃と 50℃の熱サイクルで熱発電を実現しました。
  2. この発電の熱効率は 1%であり、理論効率の 11%に迫るものです。
  3. 本技術は、環境中にふんだんに存在する、室温付近の未利用熱エネルギーを用いて、低コストで電力を得るという画期的なものであり、地球温暖化対策の切り札になります。


国立大学法人筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター(TREIMS) 守友浩教授の研究グループは、コバルトプルシャンブルー類似体(※1)を正極と負極に配置したイオン電池型熱発電セル(※2)を作成し、28℃と 50℃の温度サイクルで熱発電を実現しました。この発電の熱効率(※3)は 1%であり、その効率は理論効率(※4)の 11%に迫っています。この技術は室温付近の未利用熱エネルギーを低コストで電力に変換するため、地球温暖化対策の切り札と考えられます。

リチウムイオン電池などのイオン二次電池は、電気エネルギーで物質の内部エネルギーを変化させ、エネルギーを蓄えるデバイスです。本研究グループは、電気エネルギーの代わりに熱エネルギーを用いて物質の内部エネルギーを変化させることで、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる、と考えました。つまり、正極と負極に熱起電力(※5)の異なる材料を配置したイオン電池型熱発電セルを作成すれば、温度変化に伴いセルの起電力が発生し、電力を取り出せる(熱発電)という原理です。実際に、熱起電力の異なるコバルトプルシャンブルー類似体を正極と負極に配置した熱発電セルを作成したところ、28℃と 50℃の温度サイクルで、電力の取り出しに成功しました。

地球環境問題を緩和するためには、室温付近の未利用熱エネルギーを有効活用する技術開発が不可欠です。今後、本研究グループは、より高い熱起電力を示す材料の探索・開発に取り組みます。それらの材料を用いて、高効率な熱発電セルを開発し、この技術の実用化を目指します。

本研究成果は、日本応用物理学会誌が発行する雑誌「Applied Physics Express」のオンライン版に 12月 8 日付けで公開されます。

*本研究成果は、科学研究費補助金、矢崎科学技術振興記念財団および日本板硝子材料工学助成会の助成により行われました。 


研究の背景

人間社会の営みのありとあらゆる場面で、室温付近の熱エネルギーが外界に放出されています。例えば、冷暖房機器からの排熱、自動車のエンジンからの排熱、人間の体温、昼夜の温度差、等です。この排熱をエネルギー変換する技術は、熱エネルギー再利用による低消費電力化、建物表面の太陽熱を利用した発電、体温や気温差を利用したモバイル発電、等を可能にし、電力消費を抑えた低炭素社会の実現に貢献するだけでなく、スマート社会の基盤技術であるモバイル発電を提供します。本研究グループは、室温付近の熱エネルギーを低コストで電力に変換する革新的なエネルギー変換技術の開発に挑戦してきました。

本研究グループはすでに、『熱起電力の異なる電極からなる二次電池を加熱/冷却することにより発電する熱発電セル』(特願 2016-211227)を考案しています。この方式では、正極と負極に熱起電力の異なる活物質を配置し、室温付近のある温度で起電力が零になるようにします。素子の温度(T)を変化させると、正極と負極の起電力に差(Vcell)が生じ、放電過程として電力を取り出すことができます。つまり、“温度”を“電力”に変換するわけです。

温度差ではなく、温度を電力に変換するため、素子の薄膜化、小型化、携帯化が容易です。

一方、本研究グループは、これまでコバルトプルシャンブルー類似体[図1]の電気化学的特性を詳細に研究してきました。そうした研究の中で、コバルトプルシャンブルー類似体の熱起電力が組成によって大きく変化することを突き止めています。例えば、NaxCo[Fe(CN)6]0.71 の熱起電力は 0.53mV/K ですが、axCo[Fe(CN)6]0.90 の熱起電力は1.32mV/K です。そこで、この二種類のコバルトプルシャンブルー類似体を用いて、熱発電のデモに挑戦しました。


図1 コバルトプルシャンブルー類似体 NaxCo[Fe(CN)6]y の結晶構造。左図は完充電時、右図は完放電時を示す。大きな赤丸、小さな青丸、小さな赤丸はそれぞれ、ナトリムイオン、コバルトイオン、鉄イオンを示す。


研究内容と成果

二種対のコバルトプルシャンブルー類似体(NaxCo[Fe(CN)6]0.71 および NaxCo[Fe(CN)6]0.9)薄膜は、電解析出法でインジウム錫酸化物(ITO)透明電極上に製膜しました。膜厚は 1,000 ナノメートルでした。熱発電セルの正極、負極、電解液は、NaxCo[Fe(CN)6]0.71、NaxCo[Fe(CN)6]0.9、10mol/L の NaClO4 水溶液です。まず、低温(TL=28℃)で熱発電セルを放電し、セルの起電力(Vcell)を零としました。次に、熱発電セルの温度をゆるやかに上昇させながら、Vcell の値を測定したところ[図2(a)]、Vcell は 0.96mV/K のレートで上昇しました。高温(TH=50℃)で、定電流モードで放電を行いました[図2(b)]。プルシャンブルー類似体の比熱よりデバイスに流れ込んだ正味の熱量を評価し、放電曲線からデバイスが発生した電気エネルギーを評価した結果、熱効率は 1%と評価されました。


図 2 (a)熱発電セルの起電力(Vcell)と温度の関係.(b)高温での熱発電セルの放電曲線。


今後の展開

コバルトプルシャンブルー類似体を正極と負極に配置したイオン電池型熱発電セルを作成し、28℃と 50℃の温度サイクルで熱発電を実現しました。この発電の熱効率は 1%であり、その効率は理論効率の 11%に迫っています。

また、熱発電セルの基本技術は既存の二次電池技術の転用であるため、低コストでの開発・製造が可能です。

今後、本研究グループは、より高い熱起電力を示す材料の探索・開発に取り組み、それらの材料を用いて、高効率な熱発電セルを開発し、この技術の実用化を目指します。


用語解説

※1 コバルトプルシャンブルー類似体

プルシャンブルー類似体の一種で、NaxCo[Fe(CN)6]0.71 および NaxCo[Fe(CN)6]0.9 の化学組成をもつ。高い放電容量と高い安定性を示すため、二次電池材料としても有望である。

※2 イオン電池型熱発電セル

イオン二次電池と同様な素子構造をもつ熱発電セル。正極と負極に熱起電力の異なる材料を配置し、低温(TL)でセルの起電力を零とする。(i) セルの温度を高温(TH)にすると、セルの起電力が発生する。(ii) 高温(TH)で放電することにより電力を取り出せる。(iii) つぎに、セルの温度を低温(TL)にすると、セルに逆向きの起電力が発生する。(iv) 低温(TL)で放電することにより電力を取り出せる[図3]。


図 3 イオン電池型熱発電セルの原理。


※3 熱効率

[デバイスが発生した電気エネルギー]/[デバイスに流れ込んだ正味の熱量]、で定義される。

※4 理論効率

高温(TH)と低温(TL)の間で動作する熱機関の効率の最大値であり、1-TL/TH と表される。カルノー効率とも呼ばれる。

※5 熱起電力

酸化還元電位の温度係数


掲載論文

題名:Thermal power generation during heat cycle near room temperature

(和訳) 室温付近の熱サイクルによる熱発電

著者: Takayuki Shibata(柴田恭幸), Yuya Fukuzumi(福住勇矢), Wataru Kobayashi(小林航), and Yutaka Moritomo(守友 浩)
掲載誌: Applied Physics Express

発行日: 2017 年 12 月 8 日(オンライン公開)

推定分野
研究期間 2013年度~2014年度 (H.25~H.26) 配分総額 4,160,000 円
代表者 守友浩 筑波大学・数理物質系・教授
推定分野
研究期間 2017年度~2020年度 (H.29~H.32) 配分総額 43,160,000 円
代表者 守友浩 筑波大学 数理物質科学研究科(系) 教授