「最期まで健康」を実現する術を満載
来るべき超高齢化社会には、多くの課題が待ち受けている。それらはどれも複雑な要素を含んでおり、ひとつの学問でそれらに対処し、解決するのは難しい。そこで求められるのが、医学、看護学、経済学、倫理学など、さまざまな分野を横断し、知を結集させた新しい学問体系だ。それを構築するべく、2009年、東京大学に設置されたのが、高齢社会総合研究機構である。
「東大中の学部から約40人の先生が集まって、研究を始めました。創設時から手がけているのが、東大のキャンパスがある千葉県柏市の住宅団地をモデルにした、高齢社会対応の街づくりです。さらに学生や市民の学習のため、高齢社会に関する基礎知識をまとめた『東大がつくった高齢社会の教科書』をつくりました」(機構長・大方潤一郎氏)
高齢化が進むにつれて、注目されるようになった概念に「健康寿命」がある。ただ長生きするのではなく、最期まで健康で楽しく人生を生き抜こう、という発想である。これを定年後の世代に実現してもらうため、具体的な生活ノウハウを盛り込んだ指南書として『東大が考える100歳までの人生設計』も出版した。
「健康寿命を延ばすには、体幹の腸腰筋を鍛えることがポイントです。ここが衰えると歩く姿勢が悪くなって、腰痛や膝痛が生じたり、転倒骨折しやすくなり、運動障害から要介護・寝た切りとなるわけです。正しい『食う・寝る・遊ぶ』、つまり適切な食事と運動と休養によって、腸腰筋を維持し、血管の老化を防げば、運動障害・脳卒中・認知症の『要介護3大リスク』を避けることができます」(同)
筋肉を維持するには、「食う」ことでタンパク質を十分に摂ることが不可欠だ。しかし質の悪い肉は脂肪過多になりやすいため、大方氏は、牧草を食べて育った牛肉か羊肉、魚の摂取を勧める。
そして健康を維持するためには十分な休養が必要で、そのためには安眠すること。昼寝は避け、量を控えた夕食を早めに摂り、寝床で考えごとをしないように心がける。
運動も筋肉の維持に効果的だ。電車通勤をしている間は、自然と体を動かすので筋力はそれほど衰えない。注意すべきは、退職後だという。
「65歳ぐらいになると、毎年5~10%ずつ筋力が落ちていく。膝や腰が傷みやすくなっても、すぐ薬に頼ってはいけません。普段からの運動で、コンディションを整えておきましょう。といっても毎日1万歩歩くなど無理な目標を立てるのではなく、仲間と楽しみながら長く続けることが大切。頭と心の運動も重要で、それを私は『遊ぶ』と表現しています」(同)
健康寿命を延ばすための方法は、これだけに留まらない。研究機構が推奨する、10のトピックを紹介しよう。