AWSが米国で起こした二度目の「CIAショック」

政府システムも飲み込む

2017年12月11日(月)

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 金融業を含む民間企業が業務システムをパブリッククラウドサービスの「Amazon Web Services(AWS)」で運用するのは、日本でも既に当たり前になった。日本の先を行く米国では、政府機関の業務システムのAWS移行が加速し始めている。

 AWSの活用に積極的な姿勢を見せる米政府機関の一つが米中央情報局(CIA)だ。CIAは米Amazon Web Servicesが2017年11月20日(米国時間)に発表した米国の情報機関専用のリージョン(データセンター群)である「Secret Region」を利用する意向を示している。

 AWSは2011年8月に、米政府機関用リージョン「GovCloud」の運用を米国西海岸で開始した。米政府のセキュリティ規制に対応し、司法当局が身元確認をした米国人のみがシステムの運用に関わるというリージョンだ。情報機関専用リージョンである「Secret Region」はセキュリティ規制をさらに厳格にし、米政府のトップシークレットすら取り扱い可能にしている。

 CIAの「デジタルフューチャー担当ディレクター(Director of Digital Future)」であるTeresa Smetzer氏は2017年11月28日に米ラスベガスで開催された、「AWS re:Invent 2017」の公共部門向けセッションに登壇し、CIAが2023年までにクラウド移行を完了させる方針であることを説明した上で、「AWSはCIAのデジタル変革にとって最重要のパートナーだ」とまで言い切った(写真1)。

写真1●米中央情報局(CIA)のTeresa Smetzer氏
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従来はCIAの中にAWSのリージョンがあった

 そもそもAWSが技術力で米IBMなど既存のITベンダーを上回ったと「お墨付き」を与えたのもCIAだった。CIAは2013年に6億ドルを投じてプライベートクラウドを構築する際に、IBMではなくAWSのクラウドソフトウエアを選択した。CIAのJohn Edwards CIO(最高情報責任者)は2017年10月にAWSが米ワシントンD.C.で開催したイベントで、「CIAの中にAWSのリージョンを丸ごと構築した」と明かしている。CIAがIBMではなくAWSを選んだことは当時、クラウドの「CIAショック」と呼ばれた。

 二度目となるCIAショックは、CIAが自前でプライベートクラウドを運用するのではなく、AWSが運営する情報機関専用のリージョンを利用するというものになる。CIAですらプライベートクラウドを選択しなくなったという事実は、「プライベートクラウド不要論」を加速させる可能性がある。

クラウド移行の目的はコスト削減だけではない

 CIAのSmetzer氏はre:Inventでの講演で、CIAがAWSのクラウドを評価するポイントとして、スケーラビリティー(拡張性)、スピードに加えて、「マーケットプレイス」やPaaS(Platform as a Service)を提供していることを指摘する(写真2)。

写真2●CIAがAWSマーケットプレイスを評価するポイント
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 「CIAが現在運用するAWSベースのプライベートクラウドにも、パッケージソフトウエアやソリューションのマーケットプレイスが(AWSのパブリッククラウドと同様に)用意されている。CIAの情報システム部門はシリコンバレー企業が開発する最新のテクノロジーを、マーケットプレイスを通じてすぐに入手できる。従来の政府機関の調達とは全く違うやり方が、AWSによって可能になった」(Smetzer氏)。CIAは現在、民間を見習った「デジタル変革」に取り組んでいる。そのためには最新のテクノロジーを入手しやすいAWSが欠かせないというのだ。

 日本では未だにクラウドというと「コスト削減」にばかり目が行きがちだ。しかし米国では政府機関ですら、クラウドを通じた最新テクノロジーの展開に力を注いでいる。日本の政府機関や民間企業は、米政府機関の最新テクノロジーに対する貪欲さを見習うべきだろう。

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「AWSが米国で起こした二度目の「CIAショック」」の著者

中田 敦

中田 敦(なかだ・あつし)

シリコンバレー支局

1998年慶應義塾大学商学部卒業、同年日経BP社に入社。ITproや日経コンピュータを経て、2015年5月からパロアルトに開設したシリコンバレー支局を拠点に、シリコンバレーの最新事情を取材中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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