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毎日食卓に並ぶ納豆や味噌汁、肉、野菜。「ちゃんと食べているから大丈夫」と思ったら大間違い。多くの人は、食品の体にいい部分を、大幅に無駄にしてしまっている。健康長寿のための正しい食べ方とは。

「残りカス」を食べている

「納豆をアツアツのご飯と混ぜて食べると、納豆の酵素が働かなくなってしまう。こんなふうに、調理法、食べ方を間違えてしまったがために、栄養を無駄にしてしまっている例は、実はたくさんあるんです」

こう語るのは、東京・港区にある東京慈恵会医科大学附属病院の栄養部に勤める赤石定典氏だ。

同病院の栄養部は、『その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)という著作で、栄養を無駄にしてしまう「間違った食べ方」を紹介し、注目を集めている。

健康で長生きするためには、食べ物から適切に栄養を摂取することが何よりも大切だ。

しかし、滋養たっぷりの食材を食べていても、「食べ方」を間違えていては、体にいいものを捨ててしまった「残りカス」を食べているようなもの。そして実は、そうした間違った食べ方をしている人は非常に多いのだ。

●納豆

まずは、納豆の「間違った食べ方」をご紹介しよう。赤石氏が解説する。

「アツアツのご飯と納豆を一緒に食べるのは間違い。『ナットウキナーゼ』という酵素の働きが弱くなってしまうのです。

この酵素は、体内の別の酵素に働きかけ、血栓を分解しやすくする効果、つまり血液サラサラ効果がありますが、50℃以上で活性が鈍くなり、70℃でほぼ機能しなくなってしまいます。

せっかく、心筋梗塞や脳梗塞になりにくくする力があるのに、熱いご飯と一緒だと、効果が弱まってしまうのです」

ほかにも私たちは、
・朝に納豆を食べる
・冷蔵庫から出した納豆をすぐに食べる
といった食べ方をしがちだが、これも間違っている。

「納豆は夜に食べたほうが効果が高い。ナットウキナーゼは、食べてから4~8時間働きますが、とくに睡眠中に作用しやすいからです。

それから、『納豆菌』を効率的に摂取するためには、冷蔵庫から出してすぐ食べてはいけません。納豆菌は常温で増える性質がある。冷蔵庫から出して20分ほどしてから食べるのがコツです」(赤石氏)

納豆菌には、がん予防や血糖値を低くする作用もあるとされており、適切に食べれば、その効果は計り知れない。

「いまは炊飯器の保温機能が発達していますが、日本には、炊いたご飯を一度おひつに移してから茶碗によそうという文化があります。

こうすると、ご飯の温度が40~48℃くらいになり、とてもおいしく食べられるのはもちろん、納豆の酵素も死なせずに済む。素晴らしい知恵だと思います」(赤石氏)

●味噌汁

納豆と並ぶご飯のお供といえば味噌汁だ。

味噌には、脳卒中、認知症の発症を防ぐ効果や老化抑制機能がある。かつては塩分が高いために高血圧の原因とされがちだったが、最新の研究では、むしろ抗高血圧効果があることもわかってきた。厚生労働省の研究によれば、毎日3杯以上味噌汁を飲むと乳がん発生リスクは40%低減する。

しかし、その健康効果の源である乳酸菌や酵母も、間違った調理法をすると、効果が激減してしまうから注意が必要だ。

「味噌のなかの乳酸菌は、50℃以上で徐々に弱り、酵母も70℃を超えると全滅してしまいます。味噌汁は香りを飛ばさないよう、火を止めてから味噌を溶きますが、火を止めた『直後』ではまだ早い。火を止めてしばらくおいてから、味噌を溶くのがオススメです」(赤石氏)

さらに味噌汁は、味噌の種類によって食べる時間を変えたほうが、健康への寄与が大きくなる。

蒸した大豆を発酵させる赤味噌は、メラノイジンという代謝を活性化する物質が含まれているため、朝食に食べたほうがいい。

一方、煮た大豆を発酵させた白味噌は、興奮を抑えて穏やかな眠りを誘う効果がある「GABA」という神経伝達物質が含まれている。夜に白味噌の味噌汁を飲めば、スムーズな入眠が期待できる。

●枝豆

続いて、ビールのつまみ、枝豆はどうか。たいていの場合、「茹でる」という調理を選択することになるが……。

「枝豆は茹でると、ビタミンCが5割近く流れ出てしまいます。あまりよくない調理法ですね。オススメなのは『蒸し焼き』です。

蒸し焼きにした場合、ビタミンCの残存率は、茹でた場合に比べはるかに高い。ビタミンB群など水溶性のビタミンやミネラルもそのまま保持することができます。

しかも蒸し焼きは、茹でた場合より味が凝縮しておいしい。塩で軽く揉んで、ふたをしたフライパンで5分ほど弱火にかければいいだけ。時短にもなり、いいことずくめです」(前出・赤石氏)

豆腐はビタミンが無駄に

●ヨーグルト

健康食品の代名詞、ヨーグルトは、腸内の感染症を防ぐ効果があるうえ、骨粗鬆症を防ぐためのカルシウム摂取にも便利な食品だが、これも食べ方にコツがある。

ヨーグルトは朝に食べることが多いが、すきっ腹の状態で摂取すると、効果が半減する。空腹時、大量に分泌されている胃酸が、ビフィズス菌や乳酸菌の働きを阻害してしまうのである。

最近、飲む人が増えている乳酸菌飲料も、空腹時に飲むと、効果が低くなってしまうのだ。

食べるときの「温度」も重要。管理栄養士で株式会社フードクリエイティブファクトリー取締役の五十嵐ゆかり氏が言う。

「ヨーグルトは冷蔵庫から出して冷たいまま食べると、カルシウムを効果的に摂れず『損』になります。

ヨーグルトのカルシウムは温めることで吸収がよくなるからです。ただし、温めすぎて乳酸菌を失ってはいけない。人肌くらいの温度で食べるとバランスが取れます」

大きめのヨーグルトのパックを買って少しずつ食べる人もいるが、これもNG。ビフィズス菌は空気に触れると死んでしまうからだ。小分けされたパックのヨーグルトを食べるのが正解だ。

●豆腐

動脈硬化や認知症など様々な病気の予防効果があるとされる豆腐。'99年には、米国食品医薬品局も、豆腐が血液中のコレステロールを低下させることを認めている。寒くなるこれからの季節は、湯豆腐を食べることも増えるかもしれないが……。

「豆腐には、疲労回復に効果のあるビタミンB1が含まれますが、水に溶けやすい。栄養が溶け出した汁を一緒に飲めればいいのですが、湯豆腐は汁を飲まない。豆腐を使うなら鍋のほうがオススメです」(五十嵐氏)

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●ゴマ

前出の赤石氏が言う。

「あまり知られていませんが、ゴマはそのまま食べると、まわりを覆っている皮が消化されず、そのまま体の外に排出されていってしまう。食べる場合は、すりゴマにすると、体内でセサミンなどを吸収しやすいのです」

では、すりゴマを店で買えばいいのか、というとそれも違う。管理栄養士で野菜ソムリエの中沢るみ氏も言う。

「すったゴマは酸化しやすく、そうすると効果が低下するからです。ちょっと面倒かもしれませんが、食べる直前にゴマをするのが一番いい」

ゴマは、ポリフェノールのセサミンやセサモリン、セサミノールなどを含んでいる。これらは、細胞を酸化させ老化を進める「活性酸素」を取り除くのに効果がある。健康で長生きしたいなら、直前のひと手間を惜しんではいけない。

●牛ヒレ肉

肉や魚では、間違った食べ方はあるのか。実は、赤身肉の「ウェルダン」はあまりよくない。

「牛ヒレ肉は、ビタミンB1が多く含まれていますが、焼きすぎるとタンパク質が変性して、消化吸収をしにくくなる。表面はしっかり焼いて、中は余熱で火を通す程度にとどめたほうが、ビタミンB1を効果的に摂れます」(前出・五十嵐氏)

●アジ

青魚は、DHAやEPAといった「オメガ3脂肪酸」と呼ばれる物質がふんだんに含まれており、健康効果が高いことで知られている。

人間が老化し、健康を失っていく要因として、内臓脂肪が多くなりすぎることがあるが、DHAやEPAは、血中を流れる「中性脂肪」やコレステロールを抑えることで肥満を防ぐうえ、動脈硬化の予防に効果がある。青魚は焼き魚にして食べる機会が多いが、その食べ方でいいのか。

前出の五十嵐氏が解説する。

「サンマ、アジ、イワシなどの青魚は、加熱調理よりも生で食べるほうが、健康効果が期待できる。というのも、加熱調理は、オメガ3脂肪酸が酸化して効果が落ちる原因となるからです。新鮮な青魚の場合は、ぜひ生で召し上がってください」

「ズボラ調理」がいい

●カツオ

前出の中沢氏は、カツオの上手な食べ方について語る。

「カツオは、疲労回復効果を持つビタミンB1が豊富です。ただし、そのまま単品で食べるのではなく、タマネギやニンニクと一緒に食べたほうが、ビタミンB1が持続的に体のなかにとどまり、効果が高い。

カツオには、コエンザイムQ10(ユビキノン)も含まれています。この物質は、細胞内でのエネルギー生産を促進する力があるとともに、抗酸化力が強く、血管の酸化防止効果、つまり老化を抑える作用があります。

この物質は脂溶性で、油とともに摂取すると吸収が進む。カツオにオリーブオイルをかけ、カルパッチョにすれば、効果は非常に大きくなります」

●ゴボウ

野菜にも、様々な食べ方のルールと「NG」が存在している。前出の赤石氏が話す。

「野菜については、皮を剥かないとか、水にさらさないとか、ズボラで手抜きな調理法を用いることで、栄養を無駄なく摂取できる例があります。

そのひとつが、ゴボウです。多くの人がアクとりをするためにゴボウを水にさらしますが、そうすると、糖尿病や脂肪の蓄積を予防する『クロロゲン酸』という物質が水に溶け出してしまう。

皮を厚くこそげおとす人も多いですが、皮にはクロロゲン酸が大量に含まれている。ゴボウは泥をきれいに洗い落として、皮はそのまま、アク抜きをせずに食べるのがいい」

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●サトイモ

前出の中沢氏も言う。

「『手抜き調理』がいいのは、サトイモも同じです。サトイモの皮を剥いた後、ぬめりを洗い流すことを勧める料理本もありますが、実は、このぬめりに『ジガラクトシルジアシルグリセロール』という物質が含まれています。これには、腸内の老廃物を排出し余分なコレステロールの生成を抑える効果があります」

手を加えることが、必ずしもいい影響を与えるわけではないのだ。

●ジャガイモ

日々の食卓に頻出するジャガイモ。皮を剥いて茹でるという人も多いが、実はそれは間違い。管理栄養士の麻生れいみ氏が解説する。

「ジャガイモには、風邪の予防や粘膜の維持に役立つビタミンCがたっぷり含まれていますが、皮を剥いて茹でると、水溶性のビタミンCは逃げていってしまう。皮を剥くのは、茹でた後にしたほうがいい。

また、茹でる際は『水から』がポイント。沸騰したお湯に入れると、表面のでんぷんが水を吸って膨らみ、細胞壁を壊して体にいい成分が流出しやすくなってしまうのです。『根菜は水から茹でよ』は、味だけでなく、栄養面からも意味があります」

ニラの根元は細かく刻んで

●ショウガ

「皮を剥くのは間違い」という食品として、ほかにニンジンなどがあるが、何より「皮つき」のまま食べたほうがいいのはショウガである。

イシハラクリニック副院長の石原新菜医師が解説する。

「ショウガの皮は剥かないほうがいい。皮の下には、ジンゲロールという物質が含まれています。これは、加熱するとショウガオールに変わり、脂肪や糖の代謝を上げてくれ、糖尿病や高脂血症などに効果があります」

炒め物などに使う場合は、「皮つき」のままのほうが体にいい。

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●ニラ

皮と同様、本当は栄養が詰まっている部分を捨ててしまっているというケースも少なくない。

「ニラもそうした食品のひとつです。せっかく栄養のある根元を捨ててはいけません」と語るのは、前出の中沢氏だ。

「ニラの根元を、ビニールのテープごと切って捨ててしまう人がいますが、ここには『アリシン』という物質が含まれています。アリシンには、ビタミンB1を体内にとどまらせることによって疲労回復を促進したり、インスリンの分泌を促して血糖値の上昇を抑えたりする効果があります。

刻めば刻むほど細胞が潰れ、アリシンがたくさん出てきます。ニラの根元は捨てずに、細かく切ってください」

●ミカン

「ミカンの白い筋を取ってしまう人がいますが、これは体にいい部分を捨ててしまっているのと同じです」と前出の麻生氏が語る通り、ミカンの白い筋には「ビタミンP」という耳慣れない物質が含まれている。

麻生氏が続ける。

「ビタミンPは、ビタミンCが体のなかで働くのをサポートする働きがあります。最近ではコレステロール値を下げる効果も注目されています」

●シメジ

調理方法や食べ方だけではなく、「保存方法」も、ちょっとやり方を変えるだけで、「健康で長生き」を助けてくれる。前出の中沢氏が言う。

「シメジなどのきのこ類は、冷蔵庫に入れて保存するのが普通かもしれませんが、これはもったいない。

冷凍庫に入れ、凍らせて保存をすると、きのこの細胞壁が壊れ、うまみ成分『グアニル酸』などが増えます。グアニル酸は、血小板が凝集する作用を抑えたり、血中コレステロール値を下げる効果もあると言われている。

小房に分け、ジッパー付きの保存袋などで保存し、汁物や煮物、鍋料理にそのまま入れると、味もよく、グアニル酸をより多く摂れます」

ほかにも、ページ末の表に、その食品を食べる際の注意点を列挙した。毎日の食べ方を少し変えるだけで、体に与える効果は全然違ってくる。今日から試さない手はない。

「週刊現代」2017年12月9日号より