570S Spider (C) McLaren Automotive Limited.

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 あなたはその眼でご覧になっただろうか、英国のスーパーカーメーカー「マクラーレン」のたった1度のCMを……。

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 12月2日土曜日、遅めに起きたお昼時。ブランチでもしようか、でもまあその前にと、テレビをつけると、「ANNニュース」(テレ朝系)で大熊英司アナがニュースを読んでいる。六本木で作業中のゴミ収集車を盗み、3キロ先の新橋で乗り捨てた男の話で、「タクシーに乗る金もなく、朝の混み合った電車にのるのが面倒だった」と供述しているという。

 そのくらい金が無いなら歩け、などと思いつつ、ぼんやりと画面を眺めていたその時だった――。

 高台に建つ別荘?らしき、壁一面がガラスの豪邸からモデルばりの若い白人男性が、眼下の湖を眺めている。画面は一転、ブルーのスポーツカーが湖岸を疾走するシーンに。

570S Spider (C) McLaren Automotive Limited.

 さらに場面は移り、ベッド上に眠りから覚めたばかりらしい、下着姿のこれまたモデルっぽいパツキン美女が色っぽく登場。

 再度、登場するブルーのスポーツカー。結構なスピードが出ているようだが、そのまま電動ルーフを開け放つと、ツーシーターの座席には先ほどの美男美女が収まっている――ここまでナレーションやテロップなどは一切ない。

 自動車用オーディオなどのCMではスーパーカーやスポーツカーが取り上げられることはままあるもの。果たして、このCMは何を宣伝しようとしているのか。身を乗り出して見始める。

 しかし、車内には宣伝すべき商品は見当たらない。男がかけているグラサンか?

 画面は上空からスポーツカーを映し出す。さらにエンジンルームに寄っていく。

 あれ、この車、マクラーレンじゃないの? と思った束の間、画面は暗転して浮き上がった文字は「570S Spider」そして「McLaren」に……。

 マクラーレンの車のコマーシャル?いくらするんだっけ? 呆気にとられているとCMはヨドバシカメラのクリスマスセールへと移っていた。

たった1回だけ放送

 以来、このCMを見たことがないのである。そもそも最近では、国産スポーツカーのCMですら、見かけることはなくなっている。車のCMといえば、軽自動車かファミリーカーばかり。「570S Spider」「CM」とネットで検索しても数人が呟いた程度なのだ。幻のCMどころか、幻を見てしまったのだろうか――。

 マクラーレン・オートモーティブ・アジア 日本支社に聞いてみた。

「あー、あのCMですね。いま、担当者が海外出張中で詳しい者がいないのですが……。ただ私が聞いたところですと、あのCMは1回だけのハズですよ」

 たった1回? それも土曜の昼時に?

「なんでも広告代理店から話があって、乗っかったスポット広告だそうです。まあマクラーレンは、日本でもレース好きの方や車好きの方にはご存知の方も多いんですけど、特にマクラーレンの市販車となれば、女性や若者にはまだまだ知名度が低いと社内でも問題視されているんです。これは一般的な話ですけれど、やはり知名度を上げるにはCM効果は高いですからね」

 マクラーレンといえば、F1のマクラーレン・ホンダとして知られているが、今年はホンダとの提携解消が発表された。かつて大活躍した黄金コンビではあるのだが、2015年以来の3年間では、1勝どころか表彰台にすら立つことも出来ず、ファンをやきもきさせていた。それどころか、マクラーレン側のエグゼクティブディレクターが公然と“ホンダのせいだ”と言い続けたため、マクラーレンは日本で評判を落としていたのだ。それを焦ってのCMなんてことは?

「いやいや、レースはマクラーレン・レーシングであり、弊社は市販車のマクラーレン・オートモーティブなので別会社です。確かに同じ傘下で仲が悪いわけでもないのですが、年々離れつつありますからね。ですからCMは知名度を上げるため、そしてもしご購入予定の自動車候補の一つにでも加えていただければ……」

2898万円~

 とはいえ、今秋発表されたばかりの「570S Spider」は、マクラーレンスポーツシリーズ初の屋根が開くコンバーチブルモデルで、時速40キロまでなら走りながらでも、たった15秒で屋根が開けられる。3.8リッター V8ツインターボが発生する最高出力は570馬力(ps)、最大トルク600Nmを誇りつつも、カーボンファイバー製のシャシーで重量はたったの1359kg(乾燥重量)。3.2秒で時速100キロに達し、最高時速は328キロ……お値段は2898万8000円(税込)~。

 たった1回、わずか30秒のCMを見ただけで、“オッいいなコレ!買おっ!!”なんてヤツが、土曜日の昼間っからテレビなど見ているだろうか。

 アジア太平洋地域初のショールームであるマクラーレン大阪に聞いてみると、

「ああ、あのCMですね。大阪でも1回だけと、社内メールが届いていましたね」

 マクラーレンの公式ページにも掲載されている「570S Spider」の動画の一部のように見えるのだが。

「はあ、私もCMの方は見ていなかったものですから、なんとも……」

 ではCM後、「570S Spider」の問合せが増えたり、売れた台数が伸びたなんてことは?

「いえ、ないですね」

 はたして、知名度は上がったのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2017年12月10日 掲載