繰り返しになるが、同社の主軸はあくまで広告事業にある。インターネットメディアを多角的に展開することで企業のブランドネームを上げ、広告収入を増やす。その収益をメディア事業に投資することで、さらなる事業の活性化につなげる。
既存のテレビ局とも、また広告代理店とも違ったビジネスモデルを持っているのが大きな強みだ。
藤田氏と共著のある一橋大学特任教授の米倉誠一郎氏はこう語る。
「1年以上前から、藤田氏は『今後の情報ツールのメインになるのは動画で、それはテレビの枠にはまったものではない。ここに自分のエネルギーのすべてをかける』と語っていました。
彼がかつて最年少でサイバーを上場させたときには、メディアでの露出を嫌がらない性格も相まって軽侮する人間も多かった。
あらゆる物事に手を出しているように見えますが、彼が目指していることはシンプルで、次の時代の潮流に乗り遅れない企業にサイバーエージェントを育てることだけ。
第三次産業革命の到来を信じ、エレクトロニクスの開発に全力を注いだ高度経済成長期の日本企業と変わらない熱量と求心力を持っているのです」
だが、そんなサイバーエージェントがこれから歩む道のりは決して平坦ではない。足をすくわれかねないほど、今後のメディア環境は激変していくからだ。立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏はこう指摘する。
「近いうち、アマゾンやネットフリックスといった海外の配信メディアも、ネットでのリアルタイム放送局を作るでしょう。
AbemaTVはいま200億円の赤字を出していますが、逆に言えばこれ以上の金額での勝負は難しい。
一方でサービスの展開地域が200ヵ国にのぼる海外のメディアは一本のドラマシリーズに200億円以上かけることも可能です。
そのうち、民放も独自のネット配信に力を入れてくるはず。それまでに市場で支配的な立ち位置を確立できるかにかかっています」
残された時間は少ない―そのことを知っているからこそ、サイバーエージェントは誰よりも早く一歩を踏み出したのだ。
「週刊現代」2017年12月9日号より