空港で手荷物を「開けずに検査」する装置が試験導入──医療用CTの技術が長蛇の列を解消する

年末年始の連休でイライラさせられることのひとつが、空港での手荷物検査の行列だ。この検査をスムーズに行うために、米国で医療用CTスキャナーの技術を応用したX線検査装置が試験導入された。荷物を開けずに中身を3Dの画像でチェックできるため、倍の速さで検査が進むという。その実力と課題とは。

TEXT BY JACK STEWART
EDITED BY HIROMI SUZUKI

WIRED(US)

Analogic

PHOTOGRAPH COURTESY OF ANALOGIC

年末の帰省ラッシュのシーズンが近づいてきた。例の“検査”のために予定より数時間は早く空港に到着し、同じように寝不足の旅行者たちと行列に並ぶ。少しずつ前に進み、荷物を開く。電子機器と液体物は別のトレイに置く。そして後ろの人の舌打ちは無視するよう努める──。

空港の保安検査場でおなじみの渋滞は、誰もが忌み嫌うところだろう。だが、それが新しいテクノロジーによって状況が改善されようとしている。

検査は2Dから3Dへ、荷物を開けずにスキャン

新たに試験導入が始まったのは、病院のCTと同じ技術を使った大型のスキャナーだ。その性能は、いま米運輸保安局(TSA)が空港で使っているX線検査装置より、格段によくなる見込みだ。これによって全米各地の空港は、世界各国のレヴェルに足並みをそろえつつある。

保安検査員はコンピューター上でヴァーチャルに荷物を解き、それらを3Dで立体的に回転できる。搭乗者は実際に荷物を開ける必要がなくなり、安心して先に進めるようになるのだ。

米国では11月23日の感謝祭までの6日間で、長距離旅行者の数は54パーセント増加する。2017年はフライト時の保安検査がかなり厳しくなると予想されていた。7月にTSAが発表したガイドラインのせいだ。

携帯電話より大きい電子機器はプラスティックのふた付き容器に入れ、上下に何も載せてはいけない。これまでノートパソコンに求められていたのと同じ対応だ。タブレットや電子ブックリーダーがあるなら、ますます手間がかかる。液体は旅行用サイズの小さな化粧品ボトルに移した後、透明なビニール袋に入れ、さらにそれだけをふた付きのプラスティック容器に入れなければならない。

荷物を開けてベルトコンヴェアを通し、再び詰め込む一連の作業は、セキュリティーレーンが渋滞する主な原因になっている。とはいえ、これは必要なものでもある。X線検査装置では2Dの画像しか得られない。俯瞰と、左右どちらかの側面から見た画だ。カバンの中で電子機器が積み重なっていれば、バッテリーか爆弾かを見分けるのは難しい[日本語版記事]。

CTは「Computed Tomography」の頭文字で、「コンピュータ断層撮影」を意味する。対象物が何であれ、その周囲でぐるりとX線を照射して3D画像を描き出す。その画像をカラー画像に変換することで、より多くの情報を得られる。

アメリカン航空が先行導入

マサチューセッツに拠点を置き、病院向けにCTスキャナーを製造するメーカーのアナロジックは、その技術を保安検査用機器に応用した。「原子の特性と物質の密度を利用してCTスキャンを行い、カバンの断面を取得しています。病院で脳をスキャンして、脳腫瘍を探すようなものです」と、技術を発表する際の責任者であるマーク・ラウストラは言う。

スキャンで生成される画像は陰影があり、詳細まで写し出される。検査員は色やコントラストを変え、特定のものを目立たせることもできる。画面を2本の指でつまむピンチやズームのジェスチャーで操作し、あらゆる角度から見やすい位置を探すこともできる。

「ConneCT(コネクト)」と呼ばれるこの装置は、空港のセキュリティーレーン用に設計されており、白いジェットエンジンに似たデザインを採用している。青く光る装飾まで付いており、宇宙船の医務室に置いていても違和感がないほどだ。

アナロジックは第一世代のCTスキャナーを開発して以来、重量や大きさ、消費電力を低減しようと努めてきた。空港がスキャナーによる手荷物検査を始めたのは、2001年9月11日の米同時多発テロ事件以降のことだ。当時の装置はとても重く、導入に当たって空港の乗客フロアを補強しなければならないほどだった。

米国ではアメリカン航空がConneCTを最初に8台購入し、現在は操作に慣れようとしている段階だ。同社はTSAとも提携し、CT技術を活用した他社の装置もフェニックス・スカイハーバー国際空港で試用している。2018年にはさらに大規模な試験運用を行う予定だ。

分解された銃は見つけられないジレンマ

CTでの検査を素早く済ませたカバンが足元に飛び出してくる。それはコンピューターのアルゴリズムによって自動的に検査済みだが、実は検査用のハンディスキャナーと違って、銃やナイフを発見することはできない。見つけられるのは、識別能な原子密度をもった爆発物だけだ。

危険物を発見するには、いまも人間が目視してモニタリングするのが最も理にかなっている。例えば、分解して複数の袋に小分けされた銃のようなものが好例だ。こうしたものを見つけ出すには、アルゴリズムが助けになる。今後は人工知能(AI)が搭載され、機械学習を通じて進化していくかもしれない。

ヨーロッパで試験的に導入された際も、手荷物検査場の渋滞が減りそうだという結果が出た。「1時間にさばける乗客の人数が150人から300人へとほぼ倍増することが分かりました。人の手による検査はスピードアップを妨げる要因となります。機械は1時間に600個まで処理能力を上げることができるからです」と、ラウストラは言う。

この試験運転では、ほかにも問題が生じた。箱に入ったスパゲッティが原因となり、警報が誤作動する事態が多発したのだ。ラウストラは「パスタを認識し、きちんと“無視”するようアルゴリズムを磨き上げなければなりません」と話す。実現すれば、七面鳥のテトラッツィーニ(パスタにクリームソースをかけてオーヴンで焼いたグラタンのような料理)が大好物の人にとってはありがたい話だろう。

もちろん、安全性を何よりも重視する業界においては、変化はゆっくりとしか生じないかもしれない。現状は動きが遅く、不格好なしろものかもしれないが、あくまでも試用段階にある。それに変化にはコストもかかる。アナロジックの装置は30万ドル(約3382万円)もする。現行のエックス線装置は15万ドル(約1691万円)だ。

いまはまだ、保安検査場での2つのステップ――機械による手荷物検査と人間による身体検査――から完全に自由であるとはいえない。しかし、少なくとも希望はある。もっといい方法の開発が着実に進んでいるのだから。

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