私たち、実はこういう者です。警察キャリア出身の作家だから書けた“超絶リアル”な巨大組織。
警察手帳
読み仮名 | ケイサツテチョウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 254ページ |
ISBN | 978-4-10-610707-8 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 707 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 864円 |
電子書籍 価格 | 864円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/03/24 |
警察ほどおもしろい組織はない――三〇万人もの警察職員はどのような仕事をしているのか? 刑事とはどんな人か? 警察手帳の中身は? ドラマとの違いは何? そもそも警察官になるには? 待遇や昇進の条件は? 警察庁とは何か? キャリアとノンキャリアの関係は? 警察キャリア出身の作家だからこそここまで書けた、徹底的にリアルな巨大組織の掟と人間学。
著者プロフィール
古野まほろ フルノ・マホロ
東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。2007(平成19)年、『天帝のはしたなき果実』で第35回メフィスト賞を受賞し、デビュー。有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。他の著書に、『新任巡査』『新任刑事』『警察手帳』、『おんみょう紅茶屋らぷさん』、『臨床真実士ユイカの論理』などがある。
目次
インタビュー/対談/エッセイ
カイシャとしての警察、そのリアル
平成9年というと、もう20年も昔になるが、この年は警察にとって、ある意味画期的な年であった。「踊る大捜査線」が放映されたからである。
この斬新な警察ドラマは、第一線の現場警察官に、極めて好意的に迎えられた。現実の、カイシャ内における日常の冗談から捜査車両内の会話、あるいは年賀状の一筆に至るまで、このドラマにおけるネタが多用されたほどである。著者はそれを体験的に証言することができる。
「本店」「支店」といった言葉はドラマからの逆輸入の形でブレイクしたし、その「支店」相互の描き方などは、「ああ、確かにやってるよ、こういうショボいこと」と現場警察官をしみじみさせた。また当時、若手の警察キャリアに対し、現場の仲間がつける仇名は大抵「古野本部長!!」(やがて社長になって帰ってくる丁稚、という揶揄)といったものであったところ、このドラマ以降は圧倒的に「古野管理官!!」が多くなった。無論ドラマ内の、柳葉敏郎演ずるキャリア・室井管理官の影響である。またキャリアは異動がはやいので、離任するときなど「これからも室井と青島の関係でゆきましょう!!」といった餞別の言葉を受けるのは、当時のいわゆるテンプレであった。それほどに、この20年前のドラマは、警察自身にとっても画期的だったのである。
では、どこが画期的で、なぜ現場警察官多数の共感を得たのか。それは、「カイシャとしての警察」をリアルに描こうとしたからである。
警察官は、刑事は、会社員としてどんな1日を過ごすのか。勤務はどう始まりどう終わるのか。同僚との関係・上司部下の関係は、民間と大きく違うのか。部門のセクショナリズム、横の縄張り意識、本店・支店・警察庁の身分差はあるのか。身分差というなら、キャリアとノンキャリアの実際はどうか。はたまた、ノンキャリア相互の出世競争みたいなものはあるのか。そもそも、警察官のキャリアプランはどのようなものなのか……
こうしたことは、フックとしての情報が提示されれば、民間企業等の在り方からも類推することができる。そして、自分の勤務先を基準に、「どこまでズレているのか」「どこまで一緒なのか」を比較できる。それは、「半沢直樹」にみられるように、身近なカタルシスにつながるであろう。まして、とかく謎と秘密の多い警察組織については、いまだ警察小説・警察ドラマ等が人気であるように、その実態についてのニーズが強い。
そこで、カイシャとしての警察の「ホント」を、特に意外と知られていない(考証ミスも多い)点を中心にまとめてみた。最前線の交番から、参謀本部の警察庁までを経験した者として――そして現在は本格ミステリ作家である者として、市民と警察の橋渡しができることは、望外の喜びである。
(ふるの・まほろ 作家)
波 2017年4月号より
担当編集者のひとこと
「ニッポンの警察」を知悉する作家による「超巨大組織」の“リアル”
警察とは、自衛隊に次ぐ、ニッポンで2番目の超巨大組織です。47都道府県にわたり、およそ30万人もの警察職員が働いています。
本書の著者、古野まほろさんは、異色の経歴をもつ作家です。東京大学法学部を卒業後、警察庁に入り、Ⅰ種警察官として、交番、警察署、警視庁などの都道府県警本部、海外の警察機関、そして、警察庁に勤務という、まさに“キャリア中のキャリア”という経歴なのです。フランス・リヨン第三大学法学部で修士課程を修め、文学の学士も授与されています。警察大学校主任教授を最後に退官し、専業作家に転身されました。
警察時代に法学書を数多く執筆されていますが、さらには作家の有栖川有栖氏や綾辻行人氏に師事され、2007年には『天帝のはしたなき果実』でメフィスト賞を受賞。その後も、『新任巡査』をはじめ、小説を多数発表されています。
そんな古野さんは、豊富な経験と幅広い情報をもとに、作家としての筆致を縦横に用いて、本書で「ニッポンの警察」の“リアル”を書下ろしました。
テレビでの刑事ドラマや警察小説とはまったくちがう、現実の超巨大組織の有り様を存分にお楽しみに頂けます。
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警察官に向いている人は?/採用制度は?/警察学校とは?/待遇や昇進の条件は?/刑事になるためには?/その中で“敏腕刑事”になるには?/実際の捜査の心得は?/ドラマや小説とのちがいは?/警察庁とは何か?/都道府県本部はどう組織されているのか?/キャリアとノンキャリアとの現実の関係は?/「警察の掟」とは何か?/30万人の職員を管理する方法は?/警察官に学ぶコミュニケーション術や人間学とは?……
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上記に挙げたものは、一部ですが、本書では回答が明解に明かされています。
なお、古野さんは出身地や生年は明かさず、「顔出し」もしていません。
作品で勝負する作家なのです。
2017/03/24
薀蓄倉庫
なぜ、警察は「47都道府県」ごとにあるのか?
戦前の警察は、日本で唯一の「国家警察」でした。「内務省」という巨大官庁が指揮し、「特高警察」など警察機構が機能していました。今でもフランスではその組織制度が敷かれています。
太平洋戦争での敗戦とGHQによる占領により、「内務省」は解体され、アメリカにならった「自治体警察」「市町村警察」が導入されました(「旧警察法」)。すると、地域での警察組織が濫立する事態を招き、なんと、一時期、全国で約1600もの警察組織が競合しました。
「警視庁」と「神奈川県警」が犬猿の仲……そんなドラマや小説での話ではなく、それこそあちこちで、もめ事が続出……。
ただし、日本では、「市町村警察」の方が民間人に近く、職制ではよくなじむそうです。
そこで、国で警察組織を再考し、1600から400に組織数を削減し、さらには人員、財政、捜査や取締の機能を考慮した上で、「新警察法」制定に基づき、もっと削減し、「市町村警察」から「都道府県」別に警察本部を機能的に置くかたちになったのです。
なお、警察手帳(現在は、警察バッジですが)、制服や装備品は、全国で同じものです。地域ごとに異なっては、誰が警察官なのか、わかりにくくなるためです。
こうして、現在は、「47都道府県」ごとに警察本部が置かれています。
それらを統括するのは、警察庁の役割です。
この話は、本書の第3章に詳述されています。
掲載:2017年3月24日