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ソチオリンピック 高橋大輔選手について

 祈りなど、届かないということ。
個人的には、それが胸に刻みつけられたオリンピックだった。

 今回のソチオリンピックの高橋選手の演技から受け取ったのは、静謐の中に覚悟と成熟と哀しい諦めが内包されたものだった。そうならなければいけなかった残酷さに、今まで高橋選手の演技を見て流したものとは違う涙が溢れた。

治癒しなかった肉体に、世界の祭典であるオリンピック代表としての重責を乗せて、高橋選手は見事にふたつのプログラムを滑り切った。それからもたらされたものは、6位入賞という成績と、彼が代表に選ばれたことを世間に納得させるだけの感動。それが、現在の高橋選手自身が与えられると思うもの全てを出し切り、見る側がそれをしっかりと受け取った結果だ。
代表に選ばれてからの1ヶ月半の間の高橋選手の苦悩は測り知れない。思うようにならない肉体と、競技者としてのプライド、表現者としての欲望、代表としての責任。とても嫌いな言い回しだが、彼はそれらすべてに折り合いをつけ、出来うる限りの発現を成功させた。
それが容易ではないことはわかっている。人としての成熟度でみるならば、驚嘆に値するものだということも。
それでも思わずにはいられない。
そんなものではないのだ、と。

 思いもよらぬところから泉が湧き出てくるような、桜の森が突然満開になるような、見せる側、見る側双方の想像を超えたもの。
足の怪我が、成熟してしまったがゆえに生まれた理性が、高橋選手のあの想像を超えたところへ連れて行ってくれる可能性を封じ込めてしまった。奇跡を発露させるチャンスすら与えられなかった現実が、あまりにも、あまりにも苦しい。

 女子の浅田選手のフリープログラムは、素晴らしいものだった。それは、浅田選手本人が語っていたように、前日のショートプログラムの、失敗という言葉では表しきれない演技があってこそ成し遂げられたものだったかもしれない。だが、浅田選手は自身の目的を最高の形で達成することが出来た。
同志としての喜びのあとに去来したであろう羨望。間近で見ていた高橋選手の胸中のそれが、今後どのような形で燻り続け、結論に至るのかはわからない。
 祈りなど届かないから、もう何かに願ったりはしない。今まで高橋選手からもらったものを胸に、彼を見続けること。それがいちファンに出来るただひとつのことだ。



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ソチオリンピック 高橋大輔選手について

折り合いをつける以外に、高橋選手にどんな選択があったのでしょう。何もなかったのですよ。そこに至るまでの彼の凄まじい苦悩を考えると涙が止まりません。でも最終的には、あの体で出来る最高の演技を見せてくれました。この試練を超えて、精神的には想像もつかないほど強くなったと思います。引退前に、万全の体で、思う存分滑って欲しいと願うばかりです。

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