年金の支給漏れ、個人情報の流出など、様々な問題を繰り返し起こしてきた日本年金機構。新たに明らかになったのは、「過払い」だった。制度への信頼を揺るがし、老後の人生設計を狂わす大問題である。
ある日、家に帰ると封書が届いている。表には、「日本年金機構からのお知らせ」。
封を開けるとそこには「年金に過払いがあった」旨が書かれている。訝しんで読み進めると、文言はこう続いた。「つきましては、過払い分の返還をお願いしたく存じます」。
返還金額を見ると、500万円近い額が記されていた――こんな事態が多くの年金受給者の身に迫っている。
これまで何度も問題を起こし、国民の怒りを買ってきた日本年金機構が、性懲りもなく新たな問題を引き起こした。
それは、遺族年金の「過払い」である。
発覚のきっかけとなったのは、省庁などの会計をチェックする会計検査院による調査だった。
会計検査院が、遺族年金受給者の多い年金事務所を複数調査したところ、受給者約1万人のうち1000人弱、つまり10%もの受給者に過払いがあったのだ。その総額は18億円以上にものぼった。
報道されているのはここまでだが、当然この18億円という数字は氷山の一角に過ぎない。
日本全体での遺族年金の受給者数は、およそ540万人。そのうち約10%=54万人前後が遺族年金の過払いを受けていると仮定しよう。総額は膨大になる。
1万人で18億円分の過払いがあったということは、全体(540万人)では、18億円×540=9720億円、つまり、およそ1兆円という莫大な額が余計に支払われていた計算だ。
年金機構広報室の担当者は、「現時点で、過払い金の総額や対象人数の合計数は不明です」と明言を避ける。
過払いを受けていた人のなかには、「得をした」と思う向きもあるかもしれない。一方、いま年金保険料を支払っている人は、年金原資がミスで減ってしまった不公平に憤るだろう。はたして、年金機構側はどう事態を収拾するつもりなのか。
それについて述べる前に、まず、そもそもどうして遺族年金で過払いが起きたのか、経緯を確認しておこう。社会保険労務士の和田雅彦氏が言う。
「遺族年金は、被保険者が死亡したとき、その被保険者によって生計を支えられていた配偶者や18歳になるまでの子供など遺族が受け取れるものです。被保険者が加入していた制度に応じて遺族基礎年金、遺族厚生年金の両方またはいずれかを受給できます。
今回の過払いの原因となったのは『失権届』。遺族年金を受け取っていた配偶者は再婚したとき、子供は18歳になって初めての年度末に失権届を出さなければならない。
ところがそのことを認識していない人が多く、失権届を提出しなかったり、提出が遅れたりしたため、いわゆる過払いとなったのです」
前出の年金機構広報室の担当者はこう説明する。
「原因は3つに分かれます。失権届の提出が遅れた方が967名で約17億567万円分、失権届の提出漏れ、つまり届けそのものを出していなかったのが25名で約1億6019万円分、失権届は提出していたけれど再婚などの年月日が誤っていたケースが7名で約760万円分でした」