「平行なのに傾いて見える!」──前回はそんな文字列傾斜錯視を紹介しました。今回取り上げるのは、それらとはまた異なる、傾いて見える錯視「カフェウォール錯視」と「ミュンスターベルク錯視」です。下の図がカフェウォール錯視です。
黒と白のタイルが並び、それらが灰色の水平な線で仕切られています。この灰色の線は傾いているように見えますが、それは錯視です。どの線も水平方向に平行に引かれています。
次にミュンスターベルク錯視をご覧ください。
カフェウォール錯視と似ていますが、黒と白のタイルを仕切る水平線の色が違います。カフェウォール錯視の水平線は灰色なのに対して、ミュンスターベルク錯視では黒になっています。色の違いによって、傾いて見える度合いはカフェウォール錯視の方が強く感じられると思います。
これらの錯視もコンピュータを使って調べると興味深いことが分かるのですが、それは別の機会に譲るとして、ここではこれら錯視の生い立ちにまつわる話をしようと思います。
最近、筆者らによって、このタイプの“傾いて見える”錯視を1893年に発表した人物がいることが分かりました。しかし、その人が世に公表したものは、私の知る限り、文献などに引用されることはありませんでした。
その人物とは、フランスの気象学者・プリュマンドン氏です。今回はカフェウォール錯視とミュンスターベルク錯視の歴史をひもときながら、彼の埋もれた仕事にスポットを当ててみることにします。
あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。
「カフェウォール錯視」という名前が登場したのは、1979年のことです。イギリスの心理学者であるリチャード・グレゴリー氏とプリシラ・ハード氏による論文『境界ロッキングとカフェウォール錯視』(Border locking and the Café Wall illusion. 【GH】)によって知られるようになりました。
この論文によれば、グレゴリー氏の研究室メンバーにスティーブ・シンプソン氏という人がいて、イギリスの港町・ブリストルにあるカフェの壁のデザインに傾きの錯視を見いだしたのが始まりだったそうです。そんな理由から、カフェウォール錯視と名付けられました。
この論文が発表されて以降、カフェウォール錯視は有名になり、一般向け錯視の本などでも、しばしば紹介されるようになりました。
しかし、カフェウォール錯視のパターンそのものが世に出たのは、グレゴリー氏らの論文が初めてではありません。すでにジェームズ・フレーザーが1908年に発表された論文の中で論じていたことが指摘されています(北岡 【K】 p.20参照)。
フレーザーは、この連載の第1回に、渦巻き錯視の発見者として登場したイギリスの心理学者です。1908年の論文とは、その渦巻き錯視が発表された文献のこと。次の図は、フレーザーの論文の図版を参考に作画したものです(正確には、電子ジャーナルにあるフレーザーの論文の図版は見づらく、ロビンソンの本 【R】 に転載されている図版も参考にしました)。
灰色の2本の水平線は平行な直線ですが、そうは見えないのではないでしょうか。つまり、カフェウォール錯視のパターンは、グレゴリーらにより再発見されたということになります。もちろん「カフェウォール錯視」というネーミングはグレゴリーらによるもので、彼らの論文には独自の研究成果も報告されています。
ミュンスターベルク錯視はグレゴリーとハードの論文でも引用されていますが、ドイツの心理学者であるフーゴ・ミュンスターベルクにより発見されたものです。初めて論文として現れたのは1897年、ただしミュンスターベルクによるオリジナル図形は、最初に紹介したようなものではなく、次のようなシンプルなものでした。
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