「ゲームの画質が良くなる」と謳われるHDMIケーブル,その実力は?
Marseille mCable
「善司さん,ある意味でとてもヤバいブツが手に入ってしまいましてね……」。
ある日,4Gamerの担当編集からそんな連絡が来た。聞いてみると,製品名は「mCable」。「Gaming Edition」と「Cinema Edition」の2モデルあるHDMIケーブル製品なのだが,メーカーである米Marseille(マルセイユ)は「使うだけでゲームの映像がキレイになる」などと謳っているそうな。
最近は有名メーカーも参戦している「USB端子に差すだけで音質を向上させるドングル」とか,「クルマの四隅に貼るだけで走行性能が上がる金属」とか,そういったオカルト系パーツの類(たぐ)いだろうか。MarseilleのWebサイトを見ると,なかなかすごいビフォア・アフターの比較画像が出ていて,ちょっとうさんくさい。
オカルト系パーツに関わると信用を落とすことになるので,筆者はそういう製品には関わらないようにしている。ただ,よくよく解説を読んでみると,少なくともオカルティックではないようだ。「種も仕掛けもある」製品のように見える。
「使えるかどうか」はともかく,「何らかのテクノロジーが入っている,おもしろケーブル」ではあるということで,評価を引き受けることにした西川善司なのであった。
「mCableとは,HDMI端子に映像エンジンを組み込んでしまったケーブルである」
回りくどい語り口はここまでにして,いきなりネタバレをやってしまおう。
mCableは,結論から言えば「テレビなどに搭載されている『映像エンジン』をHDMIケーブルに統合してしまった製品」だ。
大手家電メーカーは,テレビ製品やAV機器で必要な機能ブロックに加えて,CPUやメインメモリ,そのほか周辺I/O(≒インタフェースの制御系)をも映像エンジンとセットにして1チップ化した,大規模な映像処理用SoC(System-on-a-Chip,1チップコンピュータ)として開発することが多い。ただ,そうでないメーカーだと,汎用の映像エンジンプロセッサ(以下,映像プロセッサ)を買ってきて,そのまま,あるいはカスタマイズして搭載するのが普通である。
汎用の映像エンジンは,MarvellやNXPという大手半導体メーカーだけでなく,もっと小さなベンチャー企業からも多数出ているのが現状だ。
Marseilleの創業者兼CEO自らが出演するYouTubeビデオでは,実際のmCableを切断し,一般的なHDMIケーブルにはないAPPを誇らしげに見せているので,このAPPがmCableのキモであることは間違いない。
付属の説明書に,最低必要電力などの記載はないが,手元にあったUSB-ACアダプターから給電すると問題なく動作したので,“そういうこと”という理解でいいのだろう。
同一メーカー同一機種のキャプチャデバイスとテレビで,一般的なHDMIケーブルとmCableを比較
冒頭でも紹介したとおり,mCableにはゲーム向けのGaming Editionと,映像鑑賞向けのCinema Editionがある。ただ,映像プロセッサ自体は同じもので,映像加工パラメータを変えることにより,2つの製品バリエーションとしているようである。
そこで今回は,以下のような配線を行って,一般的なHDMIケーブルで映した映像と,mCableを介した映像とを比較することにした。具体的には,同一メーカー同一機種のHDMIキャプチャデバイスの最高画質で録画して参考データとしつつ,同一メーカー同一機種のフルHDテレビを2台横に並べて,目視での検証を行うという流れだ。
テストに用いるHDMIキャプチャデバイスはAVerMedia Technologiesの「AVT-C878」,テレビは東芝「REGZA 26ZP2」となる。テレビ側の設定はいずれも「ゲームモード」で固定している。
AVT-C878ではRGB888ではなくYUV420でのキャプチャとなるため,実際の表示よりも色解像度が下がっている点をあらかじめお断りしておきたい。本稿におけるインプレッションは,キャプチャした画像ではなく,実際のテレビに表示したもので行っているので,その点もご注意を。
オリジナル映像もmCableによって加工された映像も,両者同条件でのキャプチャにはなっているため,画面ショットを見ながら本文を読み進めてもらえれば,全体像を掴んでもらえると思う。
Gaming Editionはジャギー低減処理,Cinema Editionは鮮鋭化処理に特化
今回筆者はGaming EditionとCinema Editionの両方を受け取ってテストすることができたので,まずはGaming Editionから見ていきたい。
下は,「グランツーリスモSPORT」を用いて,オリジナルとmCable Gaming Editionによる加工済み映像を比較したものだ。
フロントグリルのエッジやCピラー,後部ドアのエッジなどなど,色段差(≒色変化),輝度差(≒明暗差)の激しい輪郭部分に対して,mCable Gaming Editionを通した映像ではかなり滑らかなアンチエイリアシング処理が入っていると分かる。見比べないと分からないほどの細かい違い,ではあるものの,オリジナルの表現を悪いほうに弄っていたりはしないので,その処理に及第点は与えられるのではないか。
次に,「表示解像度はフルHDながら,映像の実質解像度は低い事例」としてネオジオ用のレトロゲーム「パルスター」の画面で比較してみたものが下だ。ここではアンチエイリアシング効果がまったく得られていないので,「アンチエイリアシング処理の適用対象は,フルHD解像度のドットバイドット表現のみ」という可能性が見てとれる。
さらに意地悪に,日本語の漢字混在テキストの映像もテストしてみることにした。
結果は下に示したとおりだが,mCable Gaming Editionでは斜め線分に対してアグレッシブにアンチエイリアシング処理を適用するためか,文字の斜め線分要素が薄めになって,オリジナル状態の文字とはかなり違って見える。
これを「よし」とするか「ダメ」とするかは意見が分かれそうだが,個人的には,こうした文字主体のところではアンチエイリアシング効果は強すぎないほうがいいと思う。
ただ,少なくとも現状のmCableでは,そうしたユーザーカスタマイズや適応型処理には対応していない。ここは「今後解決すべき課題」と言えそうだ。
下はグランツーリスモSPORTで,オリジナルとCinema Editionによる処理済みの映像を比較したものだが,車体では窓ガラスと屋根の境界線,窓ガラスとAピラーの境界線などで違いが分かりやすいと思う。オリジナル映像でその輪郭はやや淡い表現なのに対し,Cinema Editionを介した映像は明らかに先鋭化している。
また,周辺ピクセルに対して輝度が高いピクセルを見つけたときにはその輝度を強化する特性もあるようだと,上で示した「一部を等倍で切り出した比較画像」を見ると分かる。屋根の最上部に出現しているハイライト(光沢)表現がまさにそれで,オリジナルだとハイライトは灰色なのに対し,Cinema Editionを介すと色は白に変わっている。
総じて「くっきりはっきり」させる効果を狙っているようで,言うならば「超解像処理」的な結果が得られているといったところか。
先ほど示した全体スクリーンショットの右端,橋脚の石垣に注目してみよう。オリジナルとCinema Editionによる処理済みの映像とでは,石垣の石の表面のボツボツ(=微細凹凸)の描き方が随分と異なる。Cinema Editionのほうが,ザラザラした質感が強調されていると分かるはずだ。
さて,この結果から「シンプルな信号処理を行っているだけ」と踏んだ筆者は,Cinema Editionに対してもテキスト表示のテストを行ってみた。
ここで使ったのはグレー背景に黒文字のテキストなのだが,オリジナルとCinema Editionとでは,同じ画像を表示しているとは思えないほど違うことが,下のスクリーンショットを見てもらえれば分かるだろう。
明暗差の激しい部分を鮮鋭化してしまうので,黒文字の外周がハイライトで縁取りされたようになってしまうのである。
この鮮鋭化を「見やすくなった」と判断する人は多くないように思うが,いずれにせよ,mCable Cinema Editionがシンプルかつ大胆な画像処理を行っていることだけは間違いない。
mCable側の処理による遅延はほぼなし
ここまでの検証から,mCableは,フレーム単位の相関を見て高画質化処理するようなものではなく,着目している走査線の前後で相関関係を見ている可能性が高いと言える。つまり,処理に必要なのは複数の走査線をバッファリングすることだけなので,表示遅延はその「複数の走査線」分だけということになり,いきおい,理論上の処理遅延は小さく,遅れても数ライン分だけだろうと推測できる。
分配器から出力した2つの映像を,片方は一般的なHDMIケーブルで,もう片方はmCableで出力し,これを前出のREGZA 26ZP2へそれぞれ入力したうえで,ソニー製コンパクトデジタルカメラ「DSC-RX100M5」から960fps撮影した結果が下のムービーだ。
ムービーは前半がGaming Edition,後半がCinema Editionを用いたものになっているが,いずれも2台のテレビにおいて左右が同じ速度でカウントアップしていっている。少なくとも960fps撮影したデータで比較する限り,一般的なHDMIケーブルとmCableの間に遅延の違いはないわけである。
mCable:遅延検証(音声なし)
つまりは,予想どおりということになる。仮にmCable側がわずかに遅れているにしても,走査線数本分の範疇なのだろう。そして,映像プロセッサであるAPPの内部では,ラインバッファしか持たないシンプルな処理系が動いているのだと思う。
テクニカラーの「民生向け4Kデバイス品質のクオリティ認証」取得済み!?
ただこの認証,リンク先を読んでも何を認証しているのかよく分からない。そこで,4Kテレビに接続したときにどういう振る舞いを見せるかを調べてみたのだが,映像送出側(=ソース機器)側に対し「あなたの接続先はHDMI 1.4相当のディスプレイ装置である」という情報を返してしまうようで,たとえばPlayStation 4 Pro(以下,pS4 Pro)と4K HDR対応テレビをmCableで接続すると,「3840
PS4 Proと4K HDR対応テレビ「REGZA 55Z700X」をmCableでつなぎ,S4 Proで「映像出力情報」を表示させたところ。4KはYUV420までのHDR非対応となってしまっている |
REGZA 55Z700X側のステータス表示がこちら。やはり4K/YUV420という扱いだ |
というわけで,Technicolorの「民生向け4Kデバイス品質のクオリティ認証」が一体何を訴えたいのかはよく分からずじまいだが,1つだけ言えることは,「ネイティブに4K出力を持つPCやゲーム機などを,mCableでつなぐのは避けたほうがいい」ということだ。出力機器側の持つ4K出力性能が,mCableによって制限される可能性が高いためである。
オカルトではないが,なら勧められるか?
以上,「mCableがいわゆるオカルトグッズではないことを確認する」といった感じのレビューになった。
mCableが搭載するAPPなる映像プロセッサが明確に映像処理を行っていることはおおむね確認できた。また,その処理を遅延なしに行えていることも確認できている。
いわゆる「ゲームモード」を搭載したテレビでは,最近,フルHD映像の4K化などといった超解像処理などを適用しても遅延は1フレーム未満といった製品が出てきている。また,それこそmCableのGaming EditionとCinema Edition,両方の機能を兼ね備えた映像エンジンを採用するテレビも普通にある。普段,そうしたテレビを使ってゲームの映像を楽しんでいるなら,mCableは不要だろう。
「そろそろ4Kか」と考えている人がディスプレイデバイスを買うときも,わざわざmCableを買うくらいなら,そうした高性能なテレビを選択したほうが,幸せになれる可能性は高い気がする。
なかなか「この人向け」とは言いにくいが,強いて言えば,そうした高画質映像エンジンを持たないシンプルなPC用ディスプレイを現在使っていて,かつ,今後しばらくはディスプレイやテレビの買い換えの予定がなく,しかもMarseilleが言うところの「高画質化処理」に魅力を感じた人が対象ということになるだろうか。もちろん同時に,100ドル超級――しかも日本から注文した場合には決して安価ではない送料もかかる――の価格を「リーズナブル」と感じられる余裕も必要になると思われる。
ただ,mCableが採用した「HDMIケーブルにプロセッサを組み込む」というアイデア自体はとても面白い。
たとえば,HDMI端子にビデオエンコーダを組み込んで,microSDカードに録画できるHDMIケーブルとかが出てきたりすると,シンプルで分かりやすく,実用性も高いと思う。
また,mCableと同じ路線でも,東芝のREGZAやソニーのBRAVIAにおける最新モデルが採用するような,ヒストグラムから画面内各所の実効解像度に適したフィルター径をチョイスできるような機能や,映像内の文字や図版,実写像,CGなどを適宜認識して適材適所に超解像処理を行うデータベース型超解像処理などを適用できるようになったりすると,魅力は上がるかもしれない。
いずれにせよ,現在のテレビ製品における画質設定のように,ある程度はユーザー側でカスタマイズできる要素は欲しいところだ。あるいはカスタマイズできなくとも,高画質化処理のオン/オフスイッチくらいは最低でも次期モデルに搭載してもらいたい。
いろいろと発展できそうな気はするので,今後の展開には期待して見ていきたいと思う。
Marseille公式Webサイト
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